2016/11/08 業界コラム 熊谷 卓 2 巧妙性実現の手段群(20) 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業...もっと見る 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業 1955年04月 マミヤ光機株式会社入社 1962年11月 技術士国家試験合格・機械部門技術士登録 1963年03月 株式会社 新興技術研究所設立 代表取締役就任、現在 同社取締役会長(業務内容:自動組立機をはじめ各種自動化設備機器等の開発・製作・技術指導) 【歴任】 米国・欧州自動化技術視察団コーディネータ 8 回 自動化推進協会 理事・副会長 精密工学会 自動組立専門委員会 常任幹事 日本技術士会 理事・機械部会長 中小企業大学校講師 日本産業用ロボット工業会 各種委員 神奈川大学講師 自動化推進協会理事 高度職業能力開発促進センター講師 等を歴任 【業績】 著書 自動化機構300選(日刊工業新聞社)、メカトロニクス技術認定試験教本(工業調査会)ほか多数 講演 アジア生産性機構講演で自動化システムを W・T・MACS で表示・解析を提示(世界初)ほか多数 論文 自動化システムのデバッギング理論「チェック機構と最適稼働率」が欧州年間論文大賞にノミネイトほか多数 発明 メカトロニクス技術実習モジュールの発明、地震予知システム「逆ラジオ」の発明ほか多数 株式会社新興技術研究所 熊谷会長様のご好意による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」の 23 回目です。前号に引き続き「巧妙性が面白い第 2 世代・メカニカルカムのシステム」から「メカニカルカムの使用目的別分類と機能」を紹介します。 メカニカルカムの使用目的別分類と機能(その3)2-4 巧妙性が面白い第 2 世代・メカニカルカムのシステム ポイント・ツウ・ポイント カムの正規化ビデオの実例を含め、「自動化用カム」と呼ばれるカムの大部分がポイント・ツウ・ポイントカムであると言えます。ここではこのポイント・ツウ・ポイントカムの「正規化」について簡単に解説します。 変形正弦曲線、変形台形曲線、変形等速度曲線その他、現在いろいろな曲線がポイント・ツウ・ポイントカムに使われていますが、これらの曲線の優劣を簡単に知る方法として、「正規化」という手法が極めて有効です。 ポイント・ツウ・ポイントのカムでは、変位は必ず一方的に増加(または減少)する曲線になり、最終端で最大移動量となるので、スタート点を「0」と置き、最終点を「1.00」と置いて、すべてのカム曲線のタイミングチャートを比率で表現するものです。 つまり、ストローク\(S\) がすべて 0―1 となりその移動に要する時間も 0―1 となるのでこれを\(T\) と表現します。 速度は\(S\)を\(T\) について微分した値でこれを \(V\) とし、加速度はさらにこれを微分した値なのでこれを\(A\) として \(\Large{V=\frac{ dS }{ dT }}、\Large{A=\frac{ dV }{ dT }}\) となります。 この手法を「正規化」あるいは「無次元化」と呼び、\(V\) を無次元速度、\(A\) を無次元加速度などと呼びます。 図 2-55C ポイント・ツウ・ポイント カム のタイミングチャートの一例(再掲載)すると上述の図 2-55C の区間 1 は、変形正弦曲線の場合、図 2-57S のようになり、単純な正弦曲線の場合、図 2-58S のようになりますが、似たような形であまり違いが判りません。 区間 2 も移動時間を「1」、最大リフト量を「1」と置くので、区間 1 と全く同じグラフになります。 区間 3 は変形台形曲線なので曲線は多少変わりますが、それでも似たような曲線となり、一目して明らか、というほどの違いは見られません。これは出来上がったカムそのものを見ても同じでほとんど違いは見えません。 図 2-57S 変形正弦曲線の S 図 2-58S 変形正弦曲線の S はっきりわかるのは加速度\(A\)の曲線で、最大加速度は変形正弦曲線の場合図 2-57A に示すようにスタート時点でゼロから立ち上がり、無次元時間で 1/8 経過した(\(T\)=0.125)とき最大値となります。 最大値はほぼ 5.53 で、\(Am\)=5.53 のように表示します。 これに対して単純な正弦曲線の場合、図 2-58A のように、スタート時点で突然最大加速度となりますが、最大値は変形正弦曲線の場合よりやや小さくなっています。\(Am\)=4.93 です。 参考までに変形台形曲線の加速度\(A\)のグラフを図 2-59A に掲載します。この曲線は比較的高速・軽荷重駆動に適していると言われています。\(Am\)=4.89 です。 図 2-57A 変形正弦曲線の A 図 2-58A 単純正弦曲線の A 図 2-59A 変形台形曲線の A 例えば、単純正弦曲線では、加速度\(A\)の最大値\(Am\)が変形正弦曲線より低いので、必ずしも悪い特性ではないことが分かりますが、コップの水の実験でも見られる通りスタート時と停止時とで突然大きい加速度がかかるので、ワーク(この場合は水)の慣性で追従が困難になってきています。 それに対して変形正弦曲線の場合は、加速度\(A\)の最大値\(Am\)はやや大きいのですが、スタート時と停止時に加速度の増減が緩やかなので、ワークが「ついて行きやすい」状態になると思われます。 このように、カム曲線を正規化してみると、いわば同一の駆動場所に違った特性のカム曲線を使ってみたのと同じ感覚で優劣の判断がつき易くなる大変有効な手法なのですが、数学的にはその基本理念を実現するいろいろな数式があります。数式は移動の全領域を幾つかに区切った式を立て、三角関数の微分を含むやや面倒なものとなっています。 物理学的・数学的に興味を引くものではありますが、巧妙性実現手法の解説を目的とする本講座では、これ以上の詳細な説明は省略します。 詳細は自動化推進協会の基礎講座の中にカムに関する講座があり、正規化の解説が行われています。 カム機構を用いた作業ユニットのW・T・MACSについてここでもう一度作業ユニットの W・T・MACS についてカム駆動のシステムを考えてみます。図 2-60A は、カム駆動のピック・アンド・プレイスユニットの一例です。ピック・アンド・プレイスユニットというのは、ワークを掴み上げて(ピックアップ動作)、別の場所に置く(プレイスメント動作)作業をするためのユニットを言います。 したがって動作内容としては A 点でチャックを持ったピックアップヘッドがワークを掴みに降りて行き、下降端でワークを掴んでから上昇し、前進(または旋回)して B 点まで進み、B 点でピックアップヘッドが再び降りて行き、下降端でワーク解放した後、上昇してから、後退(または逆旋回)して元の位置 A 点まで戻って、一サイクル終了します。 一般にチャックは図のような空気圧シリンダ駆動(または電気駆動)の 2 本爪方式や真空吸引パッドによる吸着方式などでその動作を、ピックアップヘッドの位置検出センサの信号によって制御します。 ここで、ピックアップヘッドの上下動作と前後動作をカム駆動するユニットを「カム駆動ピックアンドプレイスユニット」と呼びます。カムは二枚ともポイント・ツウ・ポイントのカムです。 図 2-60A でカム軸を回転するとまず上下動カムによってピックアップヘッドが下降し、下降端のドエルで信号を送ってチャックを閉じます。ドエルの終了後、上下動カムでピックアップヘッドが最上端まで押し上げられて上端のドエルに着くと同時に前後動カムのドエルが終了してピックアップヘッドが前進を始めます。 前後動カムの前進端ドエルで再び上下動カムがピックアップヘッドを下降し、下降端でセンサー信号を送ってチャックを開放します。その後は上下動カムによって再び上昇端まで戻り、前後動カムによって後退端まで戻って、一サイクル終了となります。 図 2-60A カム駆動ピックアンドプレイスユニットの例(自動化機構 300 選 P287 参照)図 2-60B カム駆動ピックアンドプレイスユニットのブロック図図 2-60C カム駆動ピックアンドプレイスユニットの チャックのブロック図これをブロック図にすると図 2-60B のようになり、メカニズムの内容が複数のカムになっただけで、他のユニットと同様「T・MACS」で表すことができます。なお、この場合の「T」は空気圧シリンダ駆動のチャック部分全体です。このチャック部分はチャック動作完了センサがなければオープンコントロールシステムなので「T・MAC」(図 2-60C)となることはお判りでしょう。 参考までにこのユニットのタイミングチャートの一例を図 2-60D に掲載します。 図 2-60D カム駆動ピックアンドプレイスユニットのタイムチャートの例次回は全領域数式実現型カムおよびその他のカム機構について解説します。 株式会社新興技術研究所 熊谷 卓 による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」は、クリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 2.1 ライセンスの下に提供されています。 Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 2.1 Japan License この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓さんのその他の記事 2018/06/05 業界コラム 5 これから面白くなる自動化の考え方・第 4 世代のシステムへ(6) 2018/05/09 業界コラム フィードバックシステムの巧妙性実現からその先へ(その1) 2018/04/03 業界コラム 文学的表現から工学的表現にしてシステムを構築 2018/03/06 業界コラム 真の巧妙性を駆使するベテラン作業員の説明 2018/02/06 業界コラム 第 4 世代のシステムの実例 2018/01/10 業界コラム ベテラン作業員の頭の中はカム曲線の集合か? 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Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月