株式会社新興技術研究所 熊谷会長様のご好意による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」の 18 回目です。前号に引き続き「巧妙性が面白い第 2 世代・メカニカルカムのシステム」から「巧妙動作のための任意速度特性はメカニカルカムが基本」を紹介します。
2 巧妙性実現の手段群(15)
2-4 巧妙性が面白い第 2 世代・メカニカルカムのシステム
巧妙動作のための任意速度特性はメカニカルカムが基本
前節までは比較的単純な動作の巧妙性と力特性について考えましたが、ここではもっと複雑な動作について考えてみることにします。

一例として図 2-40 に示すような細いドリルによる深穴あけ作業を考えます。
手作業の場合、ベテラン作業員の人はドリルが折れないように静かに降ろしていき、切りくずがたまってくると急いで一度抜き上げて、前の深さまでまた降ろして、そこからは再び静かに切り込んで行くのです。
この動作を繰り返してドリルが所定の深さに到達すると、今度はドリルを完全に抜き出して上限まで戻して穴あけ完了となります。
したがって深孔をあけ終わるまでには、何回かドリルの抜き差しを行うことになります。図 2-40 は、この作業を漫画的に表現したものと思ってください。
さてこの作業を自動化することを考えてみます。
ベテランの作業員による巧妙性に富んだ動作内容ですが、ここまで複雑な動作になると「ヒンジとスライド」では出来そうもありません。不可能ではないかもしれませんが、できたとしてもきわめて複雑な構成になり、かえって高くつくかもしれません。
では、どうすればいいでしょうか?
困ったときには、何か参考になるものをさがします。
たとえば「目的動作からメカと制御を選択できる」と謳われている「改訂新版 自動化機構 300 選(日刊工業新聞社)」を見ると、そのインデックスのページには表 2-2 のように「等速」「末端減速」「任意変速」「早戻り」「中間停止」という項目があります。
読んで分かる通り、これらは目的とする動作の速度特性を表します。
この中の「任意変速」は目的とする動作の速度特性を任意に作れるということなので、今回のドリリング動作のような複雑な動作特性でも作れるかもしれません。
そこでどんな機構があるかを見るために、試しにその中の 53 ページ(表 2-2)を見てみます。
すると表に示すように、上から下まで 10 段のブロックがあり、「任意変速」の列には 14 項目の機構がありますが、よく見ると、その内容は全部「カム」によるものとなっているのが分かります(下端の 2 項目はカムという字が表題にありませんが、そのページを開いてみると内容はカムであることが分かります)。
つまり、いろいろな機構の中で、任意の動作特性を実現するためには、昔から「カム」が使われてきたのです。
表 2-2 自動化機構 300 選のインデックスのページの例


ではカムを使ってドリルを往復するにはどうすればいいでしょうか?
図 2-41 を見て下さい。技術実習教材「メカトロモジュール」を用いたドリルによる最も単純なカム駆動の穴あけ機構の構成例です。
図では T 型の直進プレートが、可変機構ベース MT400 上の直進スライドユニットによって左右にスライドできるようになっていて、その動作をコネクティングロッドを介して M-310 直進テーブルに伝え、直進テーブル上にはドリリングユニットが取り付けてあると想定します。
T型の直進プレートには「カムフォロワー」というローラが取り付けてあり、これを平カムと呼ばれる板状のカムが駆動しています。
カムによるドリリングユニット駆動の実習例 (約15秒)


このシステムではビデオでも見られるとおり、直進テーブルを単純に左右に往復動作させるもので、モータで駆動された平カムがカムフォロワーを押して、直進テーブルを往復させています。前進は平カムがカムフォロワーを押して駆動しますが、後退はスプリングの力で戻るようになっています。
もしこのカムの外形に凹凸をうまくつければ、ドリルユニットはその凹凸の通りに前進後退するはずです。
そこで、この「平カム」の外形に、目的の動作特性に応じた曲線を与えておくことで、その曲線通りに「カムフォロワー」を駆動し、それに直結したドリルユニットにその動作特性の通りの動作をさせることを考え、この構造を図 2-40 のような縦形に作ってみると、原理的には、たとえば図 2-42A のようになります。
この場合平カムでドリルユニットを直接駆動するためにカムフォロワーを持った腕がそのままドリルユニットに直結されています(原理図では腕の強度などは無視してあります)。

ここで、平カムがきわめて独特の形をしていますが、これは図 2-42B のように何回かのドリルの往復駆動を行うことを意識したものです。
この装置の動作機能は次のようになります。
図 2-42A ではカムフォロワーがカム軸から一番遠いところにある状態でドリルユニットは一番高いところにあります。
ここでカム駆動用モータがスタートし、カム軸に取り付けた平カムが矢印の方向に回転を始めると、カムフォロワーは図 2-42B の②のように最初の凹みに入ります。
図ではカムフォロワーはドリルユニットの重量を支えているので、平カムの凹みに来るとドリルユニットが下降しますが、さらにカムが回転して、次の突出部に来ると図 2-42B の③のようにドリルユニットは少し上昇します。
このようにして下降・上昇(進み/戻り)を繰り返しながらドリルユニットは次第に下降して、カムが丁度逆さまになったとき、図 2-42B の④のようにドリルユニットは一番下に下がった状態になります。
これでドリルが目的の深さまで進んだので、その後はカムの「背中」部分がドリルを最後まで押し戻して、ドリリング工程が完了します。

当然わかるとおり、この場合のカムに設けた凹凸の曲線をベテランの作業者が上手に深穴をあけたときの動作特性と同じにしておけば、その作業者がドリルを進め・戻ししながら上手に行った穴あけ動作をカムによって再現できることになります。
では、これから試みにこのカムを作ってみることにしましょう。
巧妙性実現のためのタイミングチャート
それにはまず、ベテラン作業員がどのような動作特性を実現しているのかを知る必要があります。いくつかの方法がありますが、ここでは最も単純な方法として、図 2-40 のドリルのホルダー部にポイントマークをつけてこれをビデオ撮りすることを考えます。そして撮ったビデオ画像を拡大して、時間とともにドリルをどう進めてどう戻ったかをグラフにプロットしてみます。

すると例えば図 2-43 のような時間軸に対するドリルの進み動作/戻り動作(下降/上昇)を示す曲線が得られます。これがカムを作るための「タイミングチャート(またはタイムチャート)」と言われるもので、カム製作の基本となるものです。
次回は、このようなタイミングチャートから実際のカムを作る方法を考えてみることにします。
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