2016/06/07 業界コラム 熊谷 卓 2 巧妙性実現の手段群(15) 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業...もっと見る 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業 1955年04月 マミヤ光機株式会社入社 1962年11月 技術士国家試験合格・機械部門技術士登録 1963年03月 株式会社 新興技術研究所設立 代表取締役就任、現在 同社取締役会長(業務内容:自動組立機をはじめ各種自動化設備機器等の開発・製作・技術指導) 【歴任】 米国・欧州自動化技術視察団コーディネータ 8 回 自動化推進協会 理事・副会長 精密工学会 自動組立専門委員会 常任幹事 日本技術士会 理事・機械部会長 中小企業大学校講師 日本産業用ロボット工業会 各種委員 神奈川大学講師 自動化推進協会理事 高度職業能力開発促進センター講師 等を歴任 【業績】 著書 自動化機構300選(日刊工業新聞社)、メカトロニクス技術認定試験教本(工業調査会)ほか多数 講演 アジア生産性機構講演で自動化システムを W・T・MACS で表示・解析を提示(世界初)ほか多数 論文 自動化システムのデバッギング理論「チェック機構と最適稼働率」が欧州年間論文大賞にノミネイトほか多数 発明 メカトロニクス技術実習モジュールの発明、地震予知システム「逆ラジオ」の発明ほか多数 株式会社新興技術研究所 熊谷会長様のご好意による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」の 18 回目です。前号に引き続き「巧妙性が面白い第 2 世代・メカニカルカムのシステム」から「巧妙動作のための任意速度特性はメカニカルカムが基本」を紹介します。 2 巧妙性実現の手段群(15)2-4 巧妙性が面白い第 2 世代・メカニカルカムのシステム 巧妙動作のための任意速度特性はメカニカルカムが基本前節までは比較的単純な動作の巧妙性と力特性について考えましたが、ここではもっと複雑な動作について考えてみることにします。 図 2-40 細いドリルによる手作業深穴あけ一例として図 2-40 に示すような細いドリルによる深穴あけ作業を考えます。 手作業の場合、ベテラン作業員の人はドリルが折れないように静かに降ろしていき、切りくずがたまってくると急いで一度抜き上げて、前の深さまでまた降ろして、そこからは再び静かに切り込んで行くのです。 この動作を繰り返してドリルが所定の深さに到達すると、今度はドリルを完全に抜き出して上限まで戻して穴あけ完了となります。 したがって深孔をあけ終わるまでには、何回かドリルの抜き差しを行うことになります。図 2-40 は、この作業を漫画的に表現したものと思ってください。 さてこの作業を自動化することを考えてみます。 ベテランの作業員による巧妙性に富んだ動作内容ですが、ここまで複雑な動作になると「ヒンジとスライド」では出来そうもありません。不可能ではないかもしれませんが、できたとしてもきわめて複雑な構成になり、かえって高くつくかもしれません。 では、どうすればいいでしょうか? 困ったときには、何か参考になるものをさがします。 たとえば「目的動作からメカと制御を選択できる」と謳われている「改訂新版 自動化機構 300 選(日刊工業新聞社)」を見ると、そのインデックスのページには表 2-2 のように「等速」「末端減速」「任意変速」「早戻り」「中間停止」という項目があります。 読んで分かる通り、これらは目的とする動作の速度特性を表します。 この中の「任意変速」は目的とする動作の速度特性を任意に作れるということなので、今回のドリリング動作のような複雑な動作特性でも作れるかもしれません。 そこでどんな機構があるかを見るために、試しにその中の 53 ページ(表 2-2)を見てみます。 すると表に示すように、上から下まで 10 段のブロックがあり、「任意変速」の列には 14 項目の機構がありますが、よく見ると、その内容は全部「カム」によるものとなっているのが分かります(下端の 2 項目はカムという字が表題にありませんが、そのページを開いてみると内容はカムであることが分かります)。 つまり、いろいろな機構の中で、任意の動作特性を実現するためには、昔から「カム」が使われてきたのです。 表 2-2 自動化機構 300 選のインデックスのページの例 ◇揺動運動機構◇ 出典:改定新版 自動化機構 300 選 P52(日刊工業新聞社) ◇揺動運動機構◇ 出典:改定新版 自動化機構 300 選 P53(日刊工業新聞社)ではカムを使ってドリルを往復するにはどうすればいいでしょうか? 図 2-41 を見て下さい。技術実習教材「メカトロモジュール」を用いたドリルによる最も単純なカム駆動の穴あけ機構の構成例です。 図では T 型の直進プレートが、可変機構ベース MT400 上の直進スライドユニットによって左右にスライドできるようになっていて、その動作をコネクティングロッドを介して M-310 直進テーブルに伝え、直進テーブル上にはドリリングユニットが取り付けてあると想定します。 T型の直進プレートには「カムフォロワー」というローラが取り付けてあり、これを平カムと呼ばれる板状のカムが駆動しています。 https://www.shinkawa.co.jp/wp-content/uploads/2020/08/vol008_no06_info01_03.mp4カムによるドリリングユニット駆動の実習例 (約15秒)図 2-41 メカトロモジュールを用いたドリルによる穴あけ機構の構成例写真 2-5 カムによるドリリングユニット駆動の実習例このシステムではビデオでも見られるとおり、直進テーブルを単純に左右に往復動作させるもので、モータで駆動された平カムがカムフォロワーを押して、直進テーブルを往復させています。前進は平カムがカムフォロワーを押して駆動しますが、後退はスプリングの力で戻るようになっています。 もしこのカムの外形に凹凸をうまくつければ、ドリルユニットはその凹凸の通りに前進後退するはずです。 そこで、この「平カム」の外形に、目的の動作特性に応じた曲線を与えておくことで、その曲線通りに「カムフォロワー」を駆動し、それに直結したドリルユニットにその動作特性の通りの動作をさせることを考え、この構造を図 2-40 のような縦形に作ってみると、原理的には、たとえば図 2-42A のようになります。 この場合平カムでドリルユニットを直接駆動するためにカムフォロワーを持った腕がそのままドリルユニットに直結されています(原理図では腕の強度などは無視してあります)。 図 2-42A 平カムによるドリル駆動の巧妙性ここで、平カムがきわめて独特の形をしていますが、これは図 2-42B のように何回かのドリルの往復駆動を行うことを意識したものです。 この装置の動作機能は次のようになります。 図 2-42A ではカムフォロワーがカム軸から一番遠いところにある状態でドリルユニットは一番高いところにあります。 ここでカム駆動用モータがスタートし、カム軸に取り付けた平カムが矢印の方向に回転を始めると、カムフォロワーは図 2-42B の②のように最初の凹みに入ります。 図ではカムフォロワーはドリルユニットの重量を支えているので、平カムの凹みに来るとドリルユニットが下降しますが、さらにカムが回転して、次の突出部に来ると図 2-42B の③のようにドリルユニットは少し上昇します。 このようにして下降・上昇(進み/戻り)を繰り返しながらドリルユニットは次第に下降して、カムが丁度逆さまになったとき、図 2-42B の④のようにドリルユニットは一番下に下がった状態になります。 これでドリルが目的の深さまで進んだので、その後はカムの「背中」部分がドリルを最後まで押し戻して、ドリリング工程が完了します。 図 2-42B 平カムによるドリル駆動の巧妙性動作当然わかるとおり、この場合のカムに設けた凹凸の曲線をベテランの作業者が上手に深穴をあけたときの動作特性と同じにしておけば、その作業者がドリルを進め・戻ししながら上手に行った穴あけ動作をカムによって再現できることになります。 では、これから試みにこのカムを作ってみることにしましょう。 巧妙性実現のためのタイミングチャートそれにはまず、ベテラン作業員がどのような動作特性を実現しているのかを知る必要があります。いくつかの方法がありますが、ここでは最も単純な方法として、図 2-40 のドリルのホルダー部にポイントマークをつけてこれをビデオ撮りすることを考えます。そして撮ったビデオ画像を拡大して、時間とともにドリルをどう進めてどう戻ったかをグラフにプロットしてみます。 図 2-43 細いドリルで深穴をあけるタイミングチャートの例すると例えば図 2-43 のような時間軸に対するドリルの進み動作/戻り動作(下降/上昇)を示す曲線が得られます。これがカムを作るための「タイミングチャート(またはタイムチャート)」と言われるもので、カム製作の基本となるものです。 次回は、このようなタイミングチャートから実際のカムを作る方法を考えてみることにします。 株式会社新興技術研究所 熊谷 卓 による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」は、クリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 2.1 ライセンスの下に提供されています。 Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 2.1 Japan License この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓さんのその他の記事 2018/06/05 業界コラム 5 これから面白くなる自動化の考え方・第 4 世代のシステムへ(6) 2018/05/09 業界コラム フィードバックシステムの巧妙性実現からその先へ(その1) 2018/04/03 業界コラム 文学的表現から工学的表現にしてシステムを構築 2018/03/06 業界コラム 真の巧妙性を駆使するベテラン作業員の説明 2018/02/06 業界コラム 第 4 世代のシステムの実例 2018/01/10 業界コラム ベテラン作業員の頭の中はカム曲線の集合か? 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Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月