2017/12/05 業界コラム 熊谷 卓 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(7) 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業...もっと見る 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業 1955年04月 マミヤ光機株式会社入社 1962年11月 技術士国家試験合格・機械部門技術士登録 1963年03月 株式会社 新興技術研究所設立 代表取締役就任、現在 同社取締役会長(業務内容:自動組立機をはじめ各種自動化設備機器等の開発・製作・技術指導) 【歴任】 米国・欧州自動化技術視察団コーディネータ 8 回 自動化推進協会 理事・副会長 精密工学会 自動組立専門委員会 常任幹事 日本技術士会 理事・機械部会長 中小企業大学校講師 日本産業用ロボット工業会 各種委員 神奈川大学講師 自動化推進協会理事 高度職業能力開発促進センター講師 等を歴任 【業績】 著書 自動化機構300選(日刊工業新聞社)、メカトロニクス技術認定試験教本(工業調査会)ほか多数 講演 アジア生産性機構講演で自動化システムを W・T・MACS で表示・解析を提示(世界初)ほか多数 論文 自動化システムのデバッギング理論「チェック機構と最適稼働率」が欧州年間論文大賞にノミネイトほか多数 発明 メカトロニクス技術実習モジュールの発明、地震予知システム「逆ラジオ」の発明ほか多数 株式会社新興技術研究所 熊谷会長様のご好意による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」の 36 回目、第 4 章「フレキシビリティが面白いインフォメーションカム」の 7 回目です。 当月は「巧妙性とフレキシビリティの第 3 世代インフォーメーションカム」「品種切換の容易さは実現したが、バラツキ対応は不能」について紹介します。 巧妙性とフレキシビリティの第 3 世代インフォーメーションカム 以前も述べましたが自動化技術の歴史の中で、「人間の持つ巧妙性を機械で実現するための工夫」は大きなテーマでした。それに着目して 1. 円と直線の工夫が面白い第 1 世代のヒンジとスライド 2. 巧妙性が面白い第 2 世代のメカニカルカム 3. フレキシビリティが面白い第 3 世代のインフォーメーションカム と進んできました。 第 1 世代のシステムでは末端減速特性によるワークのハンドリングの安定性や、力特性の工夫による増力・耐荷重性など、さらにはちょっとした設計上の工夫でからくり機構のような面白い動作をさせることができます。 第 2 世代のシステムでは数式表現による優良な末端減速特性を実現したり人間の持つ巧妙性を近似的に模倣したり、高精度の数式に則った複合駆動動作を実現したりと、巧妙性のレベルが第 1 世代より圧倒的に高くなっています。しかし、その精度は加工の精度に頼るため製作には極めて高精度の加工機械を必要とします。 そして出来上がったシステムはメカニズムの相互関係が正確に保たれているので、低速でも高速でも安定した巧妙性駆動ができるという大きな利点があります。 第 3 世代のシステムは大きくピクチャーカムおよびテンプレートカムと、ソフトウエアカムとに分かれます。 以前述べた通りピクチャーカムは巧妙性実現に大変有効で、感覚的な手動修正も容易であり、さらにこれにピクチャーカム・ソフトウエアカム・コンバータの手法を上手に適用することによって、工場内での巧妙性作業の自動化をさらに推進する極めてハイレベルのインフォーメーションカム・システムが得られるのです。 巧妙性実現のための第 3 世代としてのインフォーメーションカム・システムがここで完成したと言ってもいいかもしれません。 もう一度、図 4-8 ソフトウエアカムによるドリルでの深穴あけシステムを思い出してください。 図 4-8 ソフトウエアカムによる細いドリルでの深穴あけシステム(再掲載)※注:コンピュータには、いろいろな条件でのソフトウエアカムが記憶されていて、簡単に呼び出せる。以前述べた通り(第 2 章 巧妙性実現の手段群(17))ベテラン作業員の動作をビデオ撮りしてタイミングチャートを作り、それを黒塗りしてピクチャーカムの原型を作り、これを上述のような XY テーブルなどの装置を使って読み込んでソフトウエアカムに変換すればいいのです。 図 4-19 細いドリルでの深穴あけ用のピクチャーカムの原型の例ここではベテラン作業員が 4 回に分けてドリリングしていますが、ワークの材質やドリルの直径・穴深さなどの条件によってはベテラン作業員が 7 回・8 回に分けてドリリングすることももちろんあります。 当然、その場合の設定条件を記録し、その動作をビデオ撮りして図 4-19 と同様のピクチャーカムの原型を作れば簡単に「7 回抜き差しソフトウエアカム」「8 回抜き差しソフトウエアカム」など、条件通りのソフトウエアカムが作れるのです。 その作業現場で扱う品種毎に、こうしたソフトウエアカムを準備して番号付けして駆動用のコンピュータに記憶しておけば、現場での品種切換えは極めて容易です。品種切換えの時には条件によって専用のソフトウエアカムを番号で呼び出せばいいのです。 このような「品種切換えの容易さ」を、生産システムの柔軟性「フレキシビリティ」と呼びます。これに対し巧妙性は「デクスタリティ」と呼ばれています。 メカニカルカムを使えば巧妙性は十分に備えていますが、それぞれ一品種専用の生産システムとなってしまい、品種が変わるごとに機械を止めてメカニカルカムを取付け直さなければなりません。極めてフレキシビリティに乏しいシステムでした。 それに対しピクチャーカムソフトウエアカムコンバータを用いることで、本当の巧妙性とフレキシビリティとを兼ね備えたシステムができるのです。 ピクチャーカムソフトウエアカム適用可能工程の一例図 4-20 ボトル充填におけるノズル引き上げ速度設定の例ピクチャーカムソフトウエアカムコンバータの適用可能な工程の他の一例を参考までに掲載します。 図 4-20 は変形装飾ボトルに液体を充填する工程です。液体によってはノズルの汚れや液の泡立ちなどによりノズルの先端を液面すれすれに保持する必要が想定されます。 仮に図 4-20 のような変形装飾ボトルの場合は液面の上昇に伴ってノズルを引き上げる速度を変化させなければなりません。ボトルの断面積が液の注入量に連れて変化するので、液面の上昇速度も変化します。この作業はかなり速度を落とさないと手作業でも困難です。ここでノズルを的確に速度制御するにはピクチャーカムソフトウエアカムコンバータが有効です。前例のドリリングに倣って、まずノズルを一番深く突っ込んだまま液体の注入を行い、それを側面からビデオ撮りして、その液面上昇をタイミングチャートに作ります。厳密にはノズルの肉厚分の誤差が出ますが殆ど問題になりませんし、あとで実験の結果、必要であればピクチャーカムを手で修正すればいいのです(簡単に修正できるのがこのシステムの特長です)。 図 4-21 ボトル充填におけるノズル引き上げ速度最適化システムこれでとった液面上昇特性をそのままピクチャーカムソフトウエアカムコンバータでソフトウエアカムにして図 4-21 のようにノズルをサーボモータで引き上げるようにすれば、常に液面から 2-3mm 程度のところにノズルの先端を維持することができるのです。 当然、ボトルにどのような変形デザインが施されても容易にソフトウエアカムで対応できるわけで、化粧品のような季節ごとの新製品対応も容易です。 品種切換の容易さは実現したが、バラツキ対応は不能以上のように巧妙性と柔軟性と両方を備えた第3世代のインフォーメーションカム・システムができたことで、自動化システムの決定打のように思われますが、本当にそうでしょうか? よくよく考えてみると、このシステムにも幾つかの問題があることに気づきます。 フィードバック信号を何処からとったかが問題ここでもう一度 W・T・MACS のフィードバック信号について思い出してください。 第 1 章で「フィードバック信号を何処からとったかが問題」と述べました。フィードバック信号を検出した要素よりワーク側については、システムは一切保障しないので、ワークからフィードバック信号を取る Closed Loop Control System{①}が一番いいのですが、難しい場合が多く、Semi-Closed Loop Control System がよく使われています。 第 2 世代メカニカルカムのシステムでは、図 4-22A のようにメカニズムからフィードバックをとる{③}となっていたものが、第 3 世代インフォーメーションカムのシステムでは図 4-22B のように、ワーク側からさらに離れたアクチュエータからフィードバック信号をとる{④}となってむしろ逆行しているのです。 第 2 世代の装置は少なくもカム軸が一回転したことまでは保証しますが、第 3 世代の装置ではモータ軸が指定通り回転したことまでしか保証しません。もちろんメカニズムの接続やバックラッシュなどに気を付ければいいのですが、第 3 世代になって進歩しているとは言えません。 図 4-22A メカニカルカムのシステムはメカニズムからフィードバックをとる{③}図 4-22B ソフトウエアカムのシステムはアクチュエータからフィードバックをとる{④}条件の変化への対応が問題本来このシステムは人間の持つ巧妙性を模倣することから始まりましたが、本当に巧妙性を模倣できているか考えてみます。ドリリング工程では、ベテランの作業員はドリルの直径、穴深さ、ワークの材質などが変化しても上手に穴あけを行いますが、ベテラン作業員はその腕前、あるいは頭の中に何百本ものカム曲線を持っているわけではないでしょう。ベテラン作業員はドリルのわずかな振れやたわみ、手に感じるワークの振動などのワークとツールの状態を感じ取って、それによって「ここは一旦ドリルを抜きあげるべきだ」との判断をする、などの “考え方” に従っているものと思われます。 我々が構築したソフトウエアカムシステムは、ベテラン作業員がその時の “考え方” によって的確に行った作業の「結果をそのまま再現」したものなのです。そこには “考え方” は全く入っていません。 ソフトウエアカムと言っても、その動作中は一枚のメカニカルカムを使っているのと全く同じです。 つまり「4 フレキシビリティが面白いインフォーメーションカム」の最初に述べた通り、ワークとツールの条件の “斉一性” が頼りで、仮にドリルの切れ味が悪くなっても何の対応もできません。 生産する品種の品種切換えのフレキシビリティは十分よくなりましたが、生産条件の変動対応・バラツキ対応は全くできていないのです。 では、人間の持つ本当の巧妙性と柔軟性はどうすれば実現できるでしょうか? 次回はこれを考えてみることにします。 株式会社新興技術研究所 熊谷 卓 による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」は、クリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 2.1 ライセンスの下に提供されています。 Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 2.1 Japan License この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓さんのその他の記事 2018/06/05 業界コラム 5 これから面白くなる自動化の考え方・第 4 世代のシステムへ(6) 2018/05/09 業界コラム フィードバックシステムの巧妙性実現からその先へ(その1) 2018/04/03 業界コラム 文学的表現から工学的表現にしてシステムを構築 2018/03/06 業界コラム 真の巧妙性を駆使するベテラン作業員の説明 2018/02/06 業界コラム 第 4 世代のシステムの実例 2018/01/10 業界コラム ベテラン作業員の頭の中はカム曲線の集合か? 2017/12/05 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(7) 2017/11/07 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(6) 2017/10/03 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(5) 2017/09/05 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(4) 2017/08/01 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(3) 2017/07/04 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(2) 2017/06/06 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(1) 2017/05/10 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(5) 2017/04/04 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(4) 2017/03/07 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(3) 2017/02/07 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(2) 2017/01/11 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(1) 2016/12/06 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(21) 2016/11/08 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(20) 2016/10/04 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(19) 2016/09/06 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(18) 2016/08/02 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(17) 2016/07/05 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(16) 2016/06/07 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(15) 2016/05/11 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(14) 2016/04/05 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(13) 2016/03/08 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(12) 2016/02/09 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(11) 2016/01/13 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(10) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月