株式会社新興技術研究所 熊谷会長様のご好意による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」の 最終回、第 5 章「これから面白くなる自動化の考え方・第 4 世代のシステムへ」の 6 回目です。
当月は「フィードバックシステムの巧妙性実現からその先へ」(その2)について紹介し、本講座を終了いたします。
フィードバックシステムの巧妙性実現からその先へ(その2)
Feedforward 制御とは
ここでフィードフォワード制御とはどんなものか、ごく簡単に解説しておきます。
一般に温度制御のような対象物の特定の値を目的通りに操作する場合、「少し冷めてきたからヒータを強くしよう」というように制御される対象物の状態変化に応じて制御操作をするのが通常のフィードバック制御です。
これに対して「外気温の変化」のような制御操作以外の状況変化(外乱)に対してその影響を最小限にするべく、状況変化による制御対象への影響を判定して別経路でのいわば「先回り操作」をするのがフィードフォワードです。
これは制御対象に或る変化が生じてから、これを計測して操作内容を変えるフィードバック制御の「操作遅れ」の欠点を補うための考え方です。
従って多くの場合フィードバックシステムと組み合わせて用いられます(図 5-13)。

簡単な例を挙げると「湯沸かし」という制御対象に「冷風」という外乱が吹き付けて湯温が下がってから、慌ててヒータを強くするのがフィードバックですが、「冷風」を別のセンサで先に検出して「温度が下がりそう」と判断し先回りしてヒータを強くするのがフィードフォワード制御です。
フィードバックより手の打ち方が早いのですが、そのためには外乱を検出するセンサが必要で、また、その影響を算定するアルゴリズムが必要です。
一種類だけでなくいろいろな外乱があるような場合は、適切なセンサの選択と有効なアルゴリズムを準備するのがかなり大変です。

伝説のガンマンもフィードフォワード制御
往年アメリカ映画で西部劇が華やかだったことがありました。
アメリカの西部開拓時代、腰につけたホルスターからいかに早く拳銃を抜いて相手を正確に射撃するかの腕前に生き残りを賭けた頃の時代劇です。その中でも伝説のガンマンがビリー・ザ・キッドでした。ある映画では保安官ドク・ホリデーと友人で、そこに子供が現れ「あ! ビリーのおじさんだ! ねえ、このコインに穴開けて!」と頼みます。「よしコインをもってあそこに立て!」と言って子供がかざしているコインに抜き撃ちで穴をあけるのです。ドクが「なぜ狙わないんだ? 子供に怪我させるかも知れないじゃないか?」と言うと、ビリーは「狙ったよ。俺は手では狙わん、目で狙うのさ。手より目の方がずっと早いからな」と言い、ドクが「恐ろしい男だな!」と言う場面がありました。
今考えると「手で狙う」というのは、拳銃をほぼ的の方向に向けてみて、「もう少し上」「もう少し右」などと向きを少しづつ動かして最終的に狙った的に正しく向ける「検出と制御駆動」のフィードバック動作です。これに対して「目で狙う」というのはホルスターから拳銃を抜き的に向けるのに、腕や肩にどのくらいの駆動力を与えればいいかを目測で計算してその駆動力を一挙に発生する、まさにフィードフォワード動作と言えるでしょう。
伝説のガンマンの操作を単純構造のロボット化した漫画を考えると図 5-14 のように肩関節のアクチュエータのステップ駆動だけで的のコインに銃身を向けられるとして、目測の代わりに画像系の方向検出センサを置き、その信号に従った駆動パルスをコンピュータで算定して一挙に矢印のように駆動すれば伝説のガンマンの動作の真似事ができるわけです。
もちろん、同じことを肩関節のアクチュエータを 1 ステップずつ駆動しながら銃身が丁度視線の方向と一致するまで駆動すればフィードバック制御となります。やはり名人芸のフィードフォワードの方が速い、と言ってよさそうです。
W・T・MACS での Feedforward 制御
しかし、W・T・MACS のシステムではワークを「動かす」ので、対象物の一定状態を保つ通常のフィードバックとは異なります。
まず、第 1 世代から第 3 世代までのシステムで、ワークを所定の速度特性で駆動する場合などは当初から速度特性実現用のメカニズムやソフトウエアカムを入れておき、摩擦などの外乱に対して充分強力なアクチュエータを用いれば外乱を検出するセンサやその影響を算定するアルゴリズムなどは全く不要です。
第 4 世代のシステムではワークの条件がいろいろ変化する「バラツキ対応」を想定してあります。前述の通りフィードバックシステムでバラツキ対応もできますが、名人と言われる人は動作前にワークの状況を読取り、「このワークの場合こうやればいい筈だ」と一挙に作業を進めるようです。
つまりフィードバックを含めないフィードフォワード動作だけで作業が済むのです。
近い将来、我々はこのような名人芸を実現すべくフィードフォワードのシステム構築を工夫する必要に迫られるかも知れませんが、当面はフィードバック制御の高速化でお茶を濁している例が多いようです。
外野手の例では、素人の外野手の足がものすごく速ければ一歩づつバックしても間に合うかも・・・となりますが、これは当分実現できそうもありません。
しかしシステムを構成する機器などは大変な高速化が進んでいることは周知です。
例えば図 5-11C のフィードバック動作においてデータ入力と ON/OFF 判定が極めて高速であれば、図 5-12 の一括パルス出力と同等の応答特性が得られる可能性があり、あえて外乱リスクを含むフィードフォワード制御にしなくてもいいのではないか、ということになります。
この考え方は W・T・MACS において、W・T・MA までのメカニズム系の運動速度と CS の電子系の応答速度とが圧倒的に異なることによります。
図 5-12 の一括パルス出力に対して Tool は平均秒速 1000mm などとコンピュータを含む電子系の応答からみれば「亀の歩み」にすぎません。
従ってフィードバックで 1 パルスづつ与えてもフィードフォワードで一括で与えても多分「亀の歩み」は同じです。もしそうであれば一括で出力して「後は知らん顔」とした場合は、途中で何らかのエラーが生じても制御的には何の手も打てませんが、フィードバックなら途中でエラー検出も可能なので危険度は下がります。
このような点から、「フィードバックの方が使いやすい」として名人芸のシステム化は必ずしも大きく進んではいないようですが、やはり将来の大きなテーマの一つであることは間違いありません。
「第 5 世代 フィードフォワードの世代」と置いて良さそうです。
終わりに
以上、“工場内のすべての作業ユニットが「いいユニット」でなければならない” から始まった工場内の作業ユニットの「巧妙性実現手段」について、システムの世代分類として第 1 世代から第 5 世代まで、ほぼ全貌を述べてきました。
世代分類としてはこの先に「第 6 世代 AI 等による “疑似目的意識” を持ったシステム」があります。
機械システムに本当の目的意識を持たせるのは極めて困難ですが、いかにも目的意識を持っているかの如く働く、疑似目的意識のシステムはすでに完成している分野もあります。
そして最終的には「最終世代本当の目的意識を持ったシステム」まで、想像は出来ますが実現の可能性は今のところ乏しそうです。
一応本書としては第 5 世代までで完了としますが、各項目で挙げた実例数はあまり十分とは言えません。
そこで、本書で述べた考え方を基本として、工場自動化のためのいろいろなシステム構成についての実例を、機会があれば別冊として記したいと思います。
その内容としては、個々の作業ユニットだけでなく、下記のように工場内のワークのハンドリングや多品種生産対応システムから自動化システムのトラブルシューティングと最適稼働率に至る各項目について述べることになります。
- 6生産自動化の基本となるワークハンドリング
ワークハンドリングの 9 原則について実例と工夫
供給自動化の 7 段階
ホッパータイプ自動供給の各種
マガジン方式の使い方の工夫と効率
装入工程の理論と実例 - 7FA化工場の構成手法
一度捕まえたワークを放さない工夫
工程別自動化から複合自動化へ - 8多品種生産対応システムの理論と工夫
- 9生産システムのトラブルシューティングと部分最適稼働率
長期に亘りお読みいただいた読者の皆様に感謝申し上げるとともに、本書が何らかのお役に立つことを衷心より願うものです。
株式会社新興技術研究所 熊谷 卓 による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」は、クリエイティブ・コモンズ
表示 – 非営利 – 継承 2.1 ライセンスの下に提供されています。
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