2016/09/06 業界コラム 熊谷 卓 2 巧妙性実現の手段群(18) 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業...もっと見る 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業 1955年04月 マミヤ光機株式会社入社 1962年11月 技術士国家試験合格・機械部門技術士登録 1963年03月 株式会社 新興技術研究所設立 代表取締役就任、現在 同社取締役会長(業務内容:自動組立機をはじめ各種自動化設備機器等の開発・製作・技術指導) 【歴任】 米国・欧州自動化技術視察団コーディネータ 8 回 自動化推進協会 理事・副会長 精密工学会 自動組立専門委員会 常任幹事 日本技術士会 理事・機械部会長 中小企業大学校講師 日本産業用ロボット工業会 各種委員 神奈川大学講師 自動化推進協会理事 高度職業能力開発促進センター講師 等を歴任 【業績】 著書 自動化機構300選(日刊工業新聞社)、メカトロニクス技術認定試験教本(工業調査会)ほか多数 講演 アジア生産性機構講演で自動化システムを W・T・MACS で表示・解析を提示(世界初)ほか多数 論文 自動化システムのデバッギング理論「チェック機構と最適稼働率」が欧州年間論文大賞にノミネイトほか多数 発明 メカトロニクス技術実習モジュールの発明、地震予知システム「逆ラジオ」の発明ほか多数 株式会社新興技術研究所 熊谷会長様のご好意による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」の 21 回目です。前号に引き続き「巧妙性が面白い第 2 世代・メカニカルカムのシステム」から「メカニカルカムの使用目的別分類と機能」を紹介します。 メカニカルカムの使用目的別分類と機能(その1)2-4 巧妙性が面白い第 2 世代・メカニカルカムのシステム 前回はベテラン作業者の巧妙性作業を模倣する、いわば「巧妙性模倣型カム」について述べましたが、カムは「巧妙性模倣」だけに使われるものとは限らず、昔からいろいろな目的に使われてきました。 分類してみると例えば: ( 1 )巧妙性模倣型カム ( 2 )Point to Point 型カム ( 3 )数式実現型カム ( 4 )動作拡大・縮小型など、その他のカム のようになります。 本誌の構成上、巧妙性実現のための手法を述べてきたので、( 1 )巧妙性模倣型カム を先に述べましたが、現在、一般に「自動化のためのカム」と言えば( 2 )のPoint to Point 型カムを指す場合が多いのです。 ここではこの Point to Point 型カムについて概要を述べることにします。 Point to Point 型カム第 2 章で述べた末端減速型の速度特性は、実はポイント・ツウ・ポイント型のカムについてのことです。 ちょっと思い出してみることにしましょう。 例えば対象物を基準点A点から目的点 B 点へ移動する場合、単純な空気圧シリンダで駆動(図 2-52A)したとすると図 2-52B のように矩形波の速度特性となり、始端と終端での加速度は理論的には無限大に近くなります。 これを改善して速度特性を末端減速特性にすることを考えます。 巧妙性実現の手段群(4)に述べたとおり、最も簡便にはクランク機構を使って動作特性を疑似サインカーブにすることもできます。疑似サインカーブでなく正しいサインカーブにする場合には、スコッチヨークというメカニズムもあります。 図 2-52A 空気圧シリンダによる直進テーブルに乗せたワークの移動図 2-52B 矩形波速度特性では始端・終端の加速度は無限大に近いスコッチヨークは図 2-53A のとおり直線溝の中をピンホイールのピンがスライドするだけの単純な機構ですが、クランク機構のコネクティングロッドの傾斜角による誤差がないので動作特性は正確なサインカーブとなります。 (図 2-53B 参照:接線を引いた場合、上死点側と下死点側との交点位置{A}と{B}が同じ) クランクによる駆動実験では、往復 0.8 秒ぐらいまで水がこぼれずに駆動できることをビデオで確認しました。 しかし図 2-53C のように、いずれも上死点、下死点で突然大きい加速度が働きます。このことはクランクを使っても前進端と後退端で水がこぼれそうになることでもわかります。 図 2-53A 正しいサインカーブの動作特性を実現するスコッチヨーク機構図 2-53B スコッチヨークで実現した正しいサインカーブの動作特性(A=Bとなる)図 2-53C 正弦波速度特性の場合加速度 $\alpha$ は CosV で無限大にはならない人の動作も基本的に末端減速特性です。 コップの水を運ぶときに限らず、ものを人に受け渡すときや目的位置に置くときにも必ずスタート時と最終端での停止時には速度を落とすのが当然で、いつも「末端減速特性」を使っているのです。 矩形波特性でドシャンとものを置くのは怒ったときぐらいでしょう。 もっとスタート時・停止時の特性を滑らかにしたいとの意図でサインカーブを始端・終端で少し加速度を減らした「変形正弦曲線」が開発されました。(山梨大学工学部の牧野洋 助教授〔当時〕の開発による)。 始端と終端の部分を全体の移動時間の 8 分の 1 だけ別のサインカーブを用いてうまく接続できるようにした独特の特性曲線です。(図2-54参照) このほかに変形台形曲線や変形等速度曲線その他多くの特徴的な特性曲線が開発されました。その後、設計から機械加工まで一連の CAD/CAM システムが開発され、それぞれの動作特性曲線を実現するカムを自由に製作できるようになりましたが、現状では変形正弦曲線が一番多く使われているようです。 このような独特な動作特性を実現するためには、「自動化機構 300 選」のインデックスのページの「任意特性」の列に出ている通り、カムが最有力のメカニズムです。 エレベータで背筋が寒く・・・昔、「日本橋三越にエレベータが出来た」ということで、有名になりました。 まだ動作特性が不完全で、スタート時と停止時に突然やや大きい加速度がかかりましたが、それが面白くて小学生たちが喜んで乗りに行きました。昇りのスタートでは足元から突き上げられるような感じがありこれも面白かったのですが、特に下りの行程のスタートで、子供たちが身構えていると、突然の下向き加速度で足元の「床が抜けたような」感じになり、背筋がスーッと寒くなるようでした。 その感じが面白くて、友達を誘って行ってはエレベータガールと呼ばれたお姉さんに怒られたりしたということです。 図 2-54 さらに末端部の動作特性を滑らかにした「変形正弦曲線」この場合のカムの目的は、Tool または Work をあるポイントから次のポイントまで移動するだけで、その移動をなるべく滑らかにすることにあります。したがって移動の速度特性を気にしなければいわばどんな動作曲線を使っても A 点から「最終的に B 点に到達すればいい」ということになります。 次に C 点まで、さらに D 点まで移動し最後に A 点まで戻るのも全く同じで、加速度特性がある程度以下であれば途中経過は少々違ってもあまり問題にならない、と考えていいのです。 つまり、これら A 点、B 点、C 点、D 点などが目的点であり、これらの目的点の間を移動する特性造りをカムが担当しているのです。これを称して「ポイント・ツウ・ポイントのカム」と言っていいでしょう。 ここで「ポイント」というのは、カムに直すと「ドゥエル(Dwell ※)」に相当します。つまりこの型のカムは「ドゥエル(Dwell)からドゥエル(Dwell)までを適切な速度特性で駆動するカム」なのです。 その意味ではドゥエルの位置が正しければ動作特性曲線は多少違っていても一応目的は達成できると考えてもいいかもしれません。 図 2-55A はメカトロニクス技術認定試験で与えられるポイント・ツウ・ポイント カムの一例です。 (円形のレーダーチャートに乗せるとリフト、ドエル、割付け角などが分かりやすくなります)。 ※ :「Dwell」を日本のカム工業会では「ドエル」と称することになっています。 図 2-55A ポイント・ツウ・ポイント カム の一例このカムではドエル 1、2、3 とありドエル区間はすべて 20° 、カムフォロワーを駆動するリフトの割付け角は 120° 、80° 、100° 、最大リフト量 60mm となっています。 このカムを使って M-310 直進テーブルを駆動するシステムが図 2-55B です。 図ではカムフォロワーを取り付けた従動レバーによって、カムのリフト量が約 2 倍に拡大されています。 図 2-55B 直進テーブルが最終出力端の場合の一例このカムの場合はドエル 1、2、3 とあり、この間を特定の動作特性曲線で接続してあるものですが、通常タイミングチャートには図 2-55C のようにドエルからドエルまでを直線で結んで表示します。 そしてこの斜めの直線部分を別途「****曲線」のように指定するだけです。 その理由は、現在、メカニカルカムのメーカには、しっかりとした CAD/CAM のシステムが用意されていて、ユーザがこのようなタイミングチャートで指定するだけでドエルからドエルまでを指定された特性曲線で駆動するカムを正しく製作してもらえます。 さらに機構上の入出力を考えたカムフォロワーから終端出力レバーまで、ユーザの機構構成に応じて、「最終出力端での動作特性が指定の、例えば変形正弦曲線になる」ようにカムを設計・製作してもらえるのです。 図 2-55C ポイント・ツウ・ポイント カム のタイミングチャートの一例写真 2-7 カム駆動による自動化装置の一例写真 2-7 はシステム全体をポイント・ツウ・ポイントのカムで駆動した自動化装置で、溝カムによる回転板カム 5 枚を同一軸にセットしています。 これらのカムはいずれもポイント・ツウ・ポイントのカムで 2 か所のドエルを持ち同じくインデックスカム機構によるロータリテーブルと連動しているものです。 次回はこのカム駆動自動化システムのビデオを見ながら、カム駆動システムの利害得失とメカトロ化制御手法、およびカム曲線の正規化について解説する予定です。 株式会社新興技術研究所 熊谷 卓 による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」は、クリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 2.1 ライセンスの下に提供されています。 Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 2.1 Japan License この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓さんのその他の記事 2018/06/05 業界コラム 5 これから面白くなる自動化の考え方・第 4 世代のシステムへ(6) 2018/05/09 業界コラム フィードバックシステムの巧妙性実現からその先へ(その1) 2018/04/03 業界コラム 文学的表現から工学的表現にしてシステムを構築 2018/03/06 業界コラム 真の巧妙性を駆使するベテラン作業員の説明 2018/02/06 業界コラム 第 4 世代のシステムの実例 2018/01/10 業界コラム ベテラン作業員の頭の中はカム曲線の集合か? 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Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月