2015/09/08 業界コラム 熊谷 卓 2 巧妙性実現の手段群(6) 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業...もっと見る 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業 1955年04月 マミヤ光機株式会社入社 1962年11月 技術士国家試験合格・機械部門技術士登録 1963年03月 株式会社 新興技術研究所設立 代表取締役就任、現在 同社取締役会長(業務内容:自動組立機をはじめ各種自動化設備機器等の開発・製作・技術指導) 【歴任】 米国・欧州自動化技術視察団コーディネータ 8 回 自動化推進協会 理事・副会長 精密工学会 自動組立専門委員会 常任幹事 日本技術士会 理事・機械部会長 中小企業大学校講師 日本産業用ロボット工業会 各種委員 神奈川大学講師 自動化推進協会理事 高度職業能力開発促進センター講師 等を歴任 【業績】 著書 自動化機構300選(日刊工業新聞社)、メカトロニクス技術認定試験教本(工業調査会)ほか多数 講演 アジア生産性機構講演で自動化システムを W・T・MACS で表示・解析を提示(世界初)ほか多数 論文 自動化システムのデバッギング理論「チェック機構と最適稼働率」が欧州年間論文大賞にノミネイトほか多数 発明 メカトロニクス技術実習モジュールの発明、地震予知システム「逆ラジオ」の発明ほか多数 株式会社新興技術研究所 熊谷会長様による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」の 9 回目です。 先月に引き続き、「円と直線の組合せが面白い第 1 世代・ヒンジとスライドのシステム」を紹介します。 2-2 円と直線の組合せが面白い第1世代・ヒンジとスライドのシステム メカニズムの力特性の活用・理論上は無限大の力を得る(その1)昔から人間の力を補助するものとして使われてきたメカニズムは梃子(てこ)です。 昔の有名な科学者が「われに支点を与えよ、さらば地球をも動かさん」と言ったという話がありますが、何か大きな重いものを動かそうと思ったとき、最も単純でわかり易いメカニズムとして、誰でも最初に考えるのが梃子(てこ)でしょう。 いまさらそんな物を勉強する必要は無い、とお考えの方もあるでしょうが、とりあえず話の順序として梃子について考えてみることにしたいと思います。 図 2-14 梃子の原理図(A)図 2-14 梃子の原理図(A)を見てください。 当然、入力 F1 に対して出力 F2 は大きな力となります。その式は \(F2=\displaystyle\frac{L1}{L2} \times F1\) ・・・(2-11) と言われていて、これが梃子の基本式のようになっています。 しかし、よく考えてみるとこれは真の意味の「基本式」ではないのです。 ではなぜこのような式ができて「基本式」と呼ばれたのか、大もとの理由から考えて見ましょう。 まず、メカニズムというものの本質をみると、図 2-6 に表示されているとおり、回転・直進・揺動などの「機械的運動」を入力として、同じく回転・直進・揺動などの「機械的運動」を出力するもので、この間に質的な変換は入りません。 例えばアクチュエータは一般に、熱、空気圧、電気などの「エネルギ」を入力として、回転・直進・揺動などの「機械的運動」を出力するもので、入力と出力との間に{質的な変換}が入ります。 通常、質的な変換が入る場合は変換効率が 100% になることはまずありません。 しかし、メカニズムのように入出力が同質の場合は、もちろん摩擦や空気抵抗などで減少しますが、理想的には 100% と考えていい場合が多いのです。 従って、梃子の場合、入力エネルギ (E1) と出力エネルギ(E2) を同じと考えて見ます。 エネルギを「力 × 距離」 と置いて、入力の力 F1 で距離 S1 だけ動いたとすれば、 \(E1=F1 \times S1\) ・・・・・(2-12) \(E2=F2 \times S2\) ・・・・・(2-13) となります。 入出力のエネルギ量を同じと置けば \(E2=F2 \times S2 =F1 \times S1=E1\) ・・・・・(2-14) となり、 \(F2=\displaystyle\frac{S1}{S2} \times F1\)・・・・・(2-15) となって、移動距離(ストローク)の比に逆比例することになります。 本来、これが「梃子の基本式」なのですが、現実には移動距離(ストローク)というのは測りにくいので、その簡易化のためにひと工夫します。 図 2-14 で、支点の右側の斜線を引いた扇形と左側の扇形とは相似形です。そこで、移動量 S1 と移動量 S2 の比は支点から力点までの長さ L1 と L2 の比と同じであることは明らかです。 従って、 \(\displaystyle\frac{S1}{S2}=\displaystyle\frac{L1}{L2}\) ・・・・・(2-16) となり、これを 式(2-15)に適用すればいわゆる「梃子の基本式」 式(2-11)となるのです。 図 2-15 てこの原理図(B)但し、数学的には図 2-15 のように、微少移動量⊿S1、⊿S2を想定して斜線を引いた三角形で理論式を立てますが、結果として「梃子の基本式」 式(2-11)は同じになります。 \(F2=\displaystyle\frac{⊿S1}{⊿S2} \times F1\) ・・・・(2-15A) \(\displaystyle\frac{⊿S1}{⊿S2}=\displaystyle\frac{L1}{L2}\)・・・・・(2-16A) \(F2=\displaystyle\frac{L1}{L2} \times F1\)・・・・(2-11) 式(2-11)は、梃子の力特性を考えるには大変便利な式なので、基本式であってもなくても気にする必要はありません。 それならこんな話をする必要は無いだろう、と言われる向きもあるかもしれませんが、実はこの先があるのです。 次に、この梃子の考え方に速度の要素を加えて見ましょう。 今、式(2-15)で、移動量 S1 を T 秒で動かしたとします。 移動量 S2 も当然同じ時間で動きますので、それぞれの動きを速度 V1、V2 で表して見ます。 S1 の方の速度 V1 は、 \(V1 = S1 \div T\)・・・・(2-17) S2 の方の速度 V2 は、 \(V2 = S2 \div T\)・・・・(2-18) となります。すると \(S1 = V1 \times T\)・・・・(2-19) \(S2 = V2 \times T\)・・・・(2-20) となるのでこれを 式(2-15)に代入してみます。 \(F2=\displaystyle\frac{S1}{S2}\times F1=\displaystyle\frac{V1\times T}{V2 \times T} \times F1\)となり、T が上下にあるので消えて \(F2=\displaystyle\frac{V1}{V2} \times F1\)・・・・(2-21) となります。 さてここでクイズです。 今、F1=10N、V1=1.0M/秒、として、V2=0 とした場合、出力 F2 はいくらでしょうか? F2 は : ① 答えは存在しない ② ゼロになる ③ 無限大になる ④ 入力と同じになる 前々回の講座でも似たようなことが出たのでお判りでしょう。式 2-21 に代入すると、 F2=∞です。 これは梃子だけではありません、すべてのメカニズムに共通なのです。つまり 「メカニズムを使って出力速度をゼロにしたら、その出力の『力』は 無限大になる」 のです。 以前紹介したクランクなどの「末端減速特性」を持つメカニズムは、出力動作が往復運動なので前進から後退に移るとき、必ず出力速度が瞬間的にゼロになります。 したがって、そこでは出力無限大になっていることになります。 「無限大!? こんな程度のメカニズムで、そんなに大きな力を出せるわけ無いだろう!」と思われるのも当然です。 次回は実際のメカニズムの力特性を測定して、本当に「出力無限大」になっているかどうかを考えてみることにします。 株式会社新興技術研究所 熊谷 卓 による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」は、クリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 2.1 ライセンスの下に提供されています。 Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 2.1 Japan License この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓さんのその他の記事 2018/06/05 業界コラム 5 これから面白くなる自動化の考え方・第 4 世代のシステムへ(6) 2018/05/09 業界コラム フィードバックシステムの巧妙性実現からその先へ(その1) 2018/04/03 業界コラム 文学的表現から工学的表現にしてシステムを構築 2018/03/06 業界コラム 真の巧妙性を駆使するベテラン作業員の説明 2018/02/06 業界コラム 第 4 世代のシステムの実例 2018/01/10 業界コラム ベテラン作業員の頭の中はカム曲線の集合か? 2017/12/05 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(7) 2017/11/07 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(6) 2017/10/03 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(5) 2017/09/05 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(4) 2017/08/01 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(3) 2017/07/04 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(2) 2017/06/06 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(1) 2017/05/10 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(5) 2017/04/04 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(4) 2017/03/07 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(3) 2017/02/07 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(2) 2017/01/11 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(1) 2016/12/06 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(21) 2016/11/08 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(20) 2016/10/04 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(19) 2016/09/06 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(18) 2016/08/02 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(17) 2016/07/05 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(16) 2016/06/07 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(15) 2016/05/11 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(14) 2016/04/05 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(13) 2016/03/08 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(12) 2016/02/09 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(11) 2016/01/13 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(10) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月