2015/10/06 業界コラム 熊谷 卓 2 巧妙性実現の手段群(7) 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業...もっと見る 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業 1955年04月 マミヤ光機株式会社入社 1962年11月 技術士国家試験合格・機械部門技術士登録 1963年03月 株式会社 新興技術研究所設立 代表取締役就任、現在 同社取締役会長(業務内容:自動組立機をはじめ各種自動化設備機器等の開発・製作・技術指導) 【歴任】 米国・欧州自動化技術視察団コーディネータ 8 回 自動化推進協会 理事・副会長 精密工学会 自動組立専門委員会 常任幹事 日本技術士会 理事・機械部会長 中小企業大学校講師 日本産業用ロボット工業会 各種委員 神奈川大学講師 自動化推進協会理事 高度職業能力開発促進センター講師 等を歴任 【業績】 著書 自動化機構300選(日刊工業新聞社)、メカトロニクス技術認定試験教本(工業調査会)ほか多数 講演 アジア生産性機構講演で自動化システムを W・T・MACS で表示・解析を提示(世界初)ほか多数 論文 自動化システムのデバッギング理論「チェック機構と最適稼働率」が欧州年間論文大賞にノミネイトほか多数 発明 メカトロニクス技術実習モジュールの発明、地震予知システム「逆ラジオ」の発明ほか多数 株式会社新興技術研究所 熊谷会長様のご好意による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」の 10 回目です。先月に引き続き、「円と直線の組合せが面白い第 1 世代・ヒンジとスライドのシステム」を紹介します。 2-2 円と直線の組合せが面白い第1世代・ヒンジとスライドのシステム メカニズムの力特性の活用・理論上は無限大の力を得る(その2)【メカニズムの出力実験①】 図 2-16A は、以前、コップの水がこぼれないようにする駆動方法でおなじみの「クランク機構」の力特性を測定した実験です。 出力の力の測定は、出力スライドブロックとストッパとの間にロードセルを挟み、その出力値を記録するというきわめて単純な実験です。 しかし、入力の一定値化が問題です。 クランク機構モジュールの入力歯車をモータで駆動したのでは、駆動入力のトルクの値を一定の値に安定化することはいささか困難です。 そこで、空気圧系で駆動することを考えます。 ところが、空気圧シリンダの場合、駆動される機構の慣性による停止時の衝撃の影響があるのでこれを避けるため、駆動速度を十分低速にしますが、低速にするとスティックスリップが発生し、これも安定した一定推力に整えることが必ずしも容易ではありません。 そこで実験ではメカトロニクス技術研修モジュールの「空油変換シリンダ」を用いて、ラックアンドピニオンを駆動し、このピニオン側をクランク機構の入力歯車に接続しました。 空油変換することでスティックスリップは発生しなくなります。(註:実践自動化機構図解集 P94 参照) 実験は、図のロードセルホルダの長さを数種類用意してクランクアームの角度 θ を 90° から 178° まで、5 段階で行いました。 結果は図 2-16B のようにクランクアームが 90° の時の 4.54kgf に対して 178° では 43.2kgf と10 倍近い力が出ています。 そしてそのグラフの延長を考えると、180° では無限大になるらしいことがわかります。 図 2-16A クランク機構の力特性(A) 出典:熊谷卓・実践自動化機構図解集 P192図 2-16B クランク機構の力特性(B) 出典:熊谷卓・実践自動化機構図解集 P193【メカニズムの出力実験②】 もう一つ、よく使われる機構の例としてトグル機構を挙げます。 図 2-17A は、「トグル機構」と呼ばれるメカニズムの力特性を測定した実験です。 この場合は構造がシンプルで、あまり慣性によるスティックスリップなどの問題がないので、クレビス型の空気圧シリンダで直接低速駆動し、クランクの時と同様、ロードセルホルダの長さを換えてデータを取ってみました。 結果は図 2-17B に示すように、トグルの角度 174° ですでに測定器の最大目盛を超えてしまいましたが、グラフとしては 180° で無限大になりそうに見えます。 出力無限大とは?上記のように、グラフ上ではどうやら最終出力は無限大になりそうに見えます。 しかしどう考えてもこの程度のメカニズムで無限大などという大きな力が出せるはずが無い、と思うのは当然です。 では、出力無限大になったらどうなるのでしょうか? 図 2-17B のトグルで考えてみましょう。 実験では、トグルの 2 本のリンクアームのなす{くの字}の角度 θ を 90° から始めて、次第に 180° に近づけています。 今、角度 131° のところでは、実験データは出力 10.77kgf となっています。この状態なら出力側から逆向きに、20kgf の力で押せば押し戻すことができます。 角度 158° のところでも、23.25kgf なので、30kgf の力で押し戻せます。 しかし、角度 180° となって、出力無限大となったら、いくら大きな力をもってしても押し戻せません。 無理やり押し戻そうとすれば、しまいには装置が壊れてしまいます。 つまり、「出力無限大」ということは、このメカニズムは「強度限界まで頑張ってしまう」ということなのです。 これはあらゆるメカニズムに共通です。 「メカニズムを使って出力速度をゼロにしたら、理論上、力は無限大出せる」ということです。 これは、「メカニズムを使って」というところがポイントで、ほかの方法で出力速度をゼロにしても絶対に力が無限大にはなりません。 例えばアクチュエータでは、「モータで速度をゼロに落としたら??」と考えて見ます。 モータの速度を落とすのは、制御系からモータに供給するエネルギ量を減らすことであって、いくら速度を落としても、その分、力が増えることはあり得ません。 もしモータに「無限大アンペアの電流」を流せれば無限大出力は得られるはずですが、100 万アンペア流しても 1000 万アンペア流しても無限大ではありません。 もし空気圧シリンダに無限大メガパスカルの空気圧を供給できれば、あるいは空気圧シリンダの断面積を無限大に広げれば出力無限大になるはずですが、どう考えても不可能です。空気圧シリンダの断面積を 100 エーカにしても無限大ではありません。 まして制御システムをいくら工夫しても、センサにどんな特殊なものを使っても出力の力を無限大にすることはできるはずがありません。 図 2-17A トグル機構の力特性(A) 出典:熊谷卓・実践自動化機構図解集 P194図 2-17B トグル機構の力特性(B) 出典:熊谷卓・実践自動化機構図解集 P195次回は、メカニズムによる力特性の活用法について説明しす。 【出典書籍】 熊谷 卓「実践 自動化機構図解集」(日刊工業新聞社 1990年4月20日) 株式会社新興技術研究所 熊谷 卓 による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」は、クリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 2.1 ライセンスの下に提供されています。 Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 2.1 Japan License この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓さんのその他の記事 2018/06/05 業界コラム 5 これから面白くなる自動化の考え方・第 4 世代のシステムへ(6) 2018/05/09 業界コラム フィードバックシステムの巧妙性実現からその先へ(その1) 2018/04/03 業界コラム 文学的表現から工学的表現にしてシステムを構築 2018/03/06 業界コラム 真の巧妙性を駆使するベテラン作業員の説明 2018/02/06 業界コラム 第 4 世代のシステムの実例 2018/01/10 業界コラム ベテラン作業員の頭の中はカム曲線の集合か? 2017/12/05 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(7) 2017/11/07 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(6) 2017/10/03 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(5) 2017/09/05 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(4) 2017/08/01 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(3) 2017/07/04 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(2) 2017/06/06 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(1) 2017/05/10 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(5) 2017/04/04 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(4) 2017/03/07 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(3) 2017/02/07 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(2) 2017/01/11 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(1) 2016/12/06 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(21) 2016/11/08 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(20) 2016/10/04 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(19) 2016/09/06 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(18) 2016/08/02 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(17) 2016/07/05 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(16) 2016/06/07 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(15) 2016/05/11 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(14) 2016/04/05 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(13) 2016/03/08 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(12) 2016/02/09 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(11) 2016/01/13 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(10) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月