2015/06/09 業界コラム 熊谷 卓 2 巧妙性実現の手段群(3) 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業...もっと見る 1955年03月 東京大学工学部精密工学科卒業 1955年04月 マミヤ光機株式会社入社 1962年11月 技術士国家試験合格・機械部門技術士登録 1963年03月 株式会社 新興技術研究所設立 代表取締役就任、現在 同社取締役会長(業務内容:自動組立機をはじめ各種自動化設備機器等の開発・製作・技術指導) 【歴任】 米国・欧州自動化技術視察団コーディネータ 8 回 自動化推進協会 理事・副会長 精密工学会 自動組立専門委員会 常任幹事 日本技術士会 理事・機械部会長 中小企業大学校講師 日本産業用ロボット工業会 各種委員 神奈川大学講師 自動化推進協会理事 高度職業能力開発促進センター講師 等を歴任 【業績】 著書 自動化機構300選(日刊工業新聞社)、メカトロニクス技術認定試験教本(工業調査会)ほか多数 講演 アジア生産性機構講演で自動化システムを W・T・MACS で表示・解析を提示(世界初)ほか多数 論文 自動化システムのデバッギング理論「チェック機構と最適稼働率」が欧州年間論文大賞にノミネイトほか多数 発明 メカトロニクス技術実習モジュールの発明、地震予知システム「逆ラジオ」の発明ほか多数 株式会社新興技術研究所 熊谷会長様のご好意による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」、今号は、「巧妙性実現の手段群(3)」を紹介します。 2-1 メカニズムの速度特性の活用と加速度 物は加速度で動かされる(その2) 結局、ハンドリングシステムの最大加速度を小さくする工夫の方が有効なことがわかりました。 そこで、これからハンドリングシステムの最大加速度を小さくする方法を考えることにします。 その前に、最大加速度はどのように発生し、どうして大きな値になるのかを考える必要があります。 言うまでもありませんが加速度は速度の変化率(微分係数)です。 今、秒速 1 メートルで走っている状態から、4 秒間かけて秒速 4 メートルまで加速したとすればその加速度 α は、速度の増加分 ⊿V をこれにかかった時間 ⊿t で割って \(α = ⊿V/⊿t = (4m/sec – 1m/sec)/4sec = 0.75m/sec^2\) ・・・・ (2-9) となります。 ⊿V は速度の変化分(m/秒)で、⊿t はそれに要した時間(秒)です。 これを、4 秒間でなく、0.4 秒間で 1m/sec から 4m/sec まで増速したとすれば ⊿t は 0.4 秒なので加速度は α=7.5m/sec2 となります。 当然、速度が変化するに要する時間が短いほど、加速度は大きくなるのです。 もし 0.1 秒間で 1m/sec から 4m/sec まで増速したとすれば α=30m/sec2 となります。 加速度は増速とは限らず、減速の場合もありますが「減速度」ではなく「マイナスの加速度」と言います。 自動車の衝突を図 2-3(c)の漫画で考えて見ます。時速 72km (秒速 20m)で走ってきた自動車がそのまま硬い壁に衝突したとします。ボンネットの部分が 1m 潰れて停止したとすると(実物でそうなるかどうかわかりません)、一定条件で減速したとして 0.1 秒で停止することになります。 図 2-3(c)マイナス加速度の例この場合速度の変化量 ⊿V はマイナス 20m/sec で、⊿t は 0.1 秒なので、 \(α = -20m/sec÷0.1sec = -200m/sec^2\) ・・・・ (2-10) となり、地球の重力加速度 G=9.8m/sec2 とすれば、約 20G の「マイナスの加速度」を受けたことになります。 20G という加速度は式(2-2)によれば、体重 W=60kg の運転者の場合、20 倍の 1200kgf の力を受けることになり重大なダメージを受けます。 あらゆるワークのハンドリングにおいて、加速度は平均値が問題なのではなく、一瞬でも大きな加速度がかかればワークは動かされてしまうので、「最大加速度」に注意が必要です。 以上の通り、速度の変化率が加速度なので、もし「瞬間に速度が変化」したらどうなるでしょうか? 速度の変化に要した時間を「ゼロ秒」と置けば、速度の変化分 ⊿V をゼロ秒で割ることになります。 \(α = ⊿V/0\) ・・・・ (2-11) ですが、コンピュータではゼロで割ると「Div by Zero」と表示されてエラーになり、ゼロで割ることはできません。よく「ゼロで割ると答えはありません」という人がいます。 しかし、数学的にはできるのです。 実は「ゼロとは無限小のことである」と理解すればゼロで割ることが出来ます。 1、 0.1、 0.01、 ・・・・ と桁を下げていって 0.00000000000・・・・・・00001 と桁が無限に下がっていく状態が「無限小」です。したがって無限小で割って得た加速度の値は ∞(無限大)となります。 もちろん現実には、瞬間でも「時間ゼロ」ということはないので、加速度は無限大にはなりませんが、図 2-4(a)のように極めて大きい値となることは間違いありません。 図 2-4(a)は、「矩形波速度特性」または「等速度特性」と呼ばれる速度のグラフです。 これは、ある時刻に走り始めて、そのまま同じ速度で走り続け、最後にピタッと止まる速度特性です。 「ずっと同じ速度で何の変化もなく走る」と聞けばきわめて安定した動作特性のような気がすると思います。 しかし、ちょっと走り始めを想像してみてください。それまで静止していたボールが蹴られたのと同じ状態です。いわば「ズドン!」と叩き出される状態です。 その後一定の速度でボールは飛んで行きます。これが等速度での走行です。 今度は停止の瞬間を想像してください。一定速度で走ってきたのが、一瞬にして止まります。 ちょうど最後にボールが壁にぶつかって「バチン!」と止まったのと同じです。 つまり矩形波特性では走っている間は全く変化がなく安定していますが、スタートとストップが「ズドン」と「バチン」なので、図の加速度特性がそれを示しているのです。 これに対してスタート時に速度ゼロから次第に速度を上げて行き、停止時にも次第に速度を下げてきて最後に静かに止まるようにすると始端・終端での加速度が小さく「ズドン」と「バチン」がなくなります。 このような速度特性のことを「末端減速特性」と呼びます。 図 2-4(a)矩形波速度特性の場合、加速度は無限大に近い次回はこのような末端減速特性の作り方について述べることにします。 株式会社新興技術研究所 熊谷 卓 による「生産性向上とメカトロニクス技術講座」は、クリエイティブ・コモンズ 表示 – 非営利 – 継承 2.1 ライセンスの下に提供されています。 Creative Commons Attribution-NonCommercial-ShareAlike 2.1 Japan License この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 株式会社 新興技術研究所 取締役会長 熊谷 卓さんのその他の記事 2018/06/05 業界コラム 5 これから面白くなる自動化の考え方・第 4 世代のシステムへ(6) 2018/05/09 業界コラム フィードバックシステムの巧妙性実現からその先へ(その1) 2018/04/03 業界コラム 文学的表現から工学的表現にしてシステムを構築 2018/03/06 業界コラム 真の巧妙性を駆使するベテラン作業員の説明 2018/02/06 業界コラム 第 4 世代のシステムの実例 2018/01/10 業界コラム ベテラン作業員の頭の中はカム曲線の集合か? 2017/12/05 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(7) 2017/11/07 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(6) 2017/10/03 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(5) 2017/09/05 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(4) 2017/08/01 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(3) 2017/07/04 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(2) 2017/06/06 業界コラム 4 フレキシビリティが面白いインフォメーションカム(1) 2017/05/10 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(5) 2017/04/04 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(4) 2017/03/07 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(3) 2017/02/07 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(2) 2017/01/11 業界コラム 3 生産性向上の 4 手法(1) 2016/12/06 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(21) 2016/11/08 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(20) 2016/10/04 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(19) 2016/09/06 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(18) 2016/08/02 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(17) 2016/07/05 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(16) 2016/06/07 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(15) 2016/05/11 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(14) 2016/04/05 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(13) 2016/03/08 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(12) 2016/02/09 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(11) 2016/01/13 業界コラム 2 巧妙性実現の手段群(10) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月