初心者マークをつけて走っていると、必ず後ろからクラクションを鳴らされた、という経験があるのですが、それがスペインでのあおり運転だったのでしょうか? 初心者マーク=ノロノロ運転、という認識のもと鳴らされるクラクションですが、日本ではめっきり聞かなくなりました。去年受けた教習で、「警笛鳴らせ」という標識の前で「ぷふっ」と鳴らし、教官に「もっと警笛らしく鳴らさないと聞こえないので、危ないですよ」と言われるほど、クラクションを使うことはなくなりました。また、後ろからパッシングされることもほぼなくなりました。それもこれも、日本ではドライブレコーダーが発達したからなのかもしれません。
あおり、あおられ

さて、スペインでの交通事情は、自動車学校のことを含み、お話しした(スペインの知られざる文化 No.14)ことがありますが、昨今の日本の陰湿なあおり運転事象には本当に驚かされます。これも、ストレス満載の日本社会の暗の部分なのでしょうか? 高速道路の真ん中で他車を停車させるなんてことは、常識をはるかに超えた行為です。被害者は、自分に起こった突然の災難に声を震わせ恐怖を語り、それがメディアの波に乗り、ますますドライブレコーダーの売上アップ、という構図ですね。あおり運転さまさまのようです。
筆者は決して暴力を肯定しないし、あおり運転は撲滅しなくては、と思うのですが、それでも運転中に「イラっ」と来ることもあるので、何故あおり運転をする人がいるのかは、わかる気もします。どういう時にあおり運転加害者の気持ちがわかるか、というと、目の前の車を追い越ししたいときに、追い越しできない時です。いえいえ、走行車線を走っている車に、ではなく、その横の追い越し車線を追い越しせずに並走している、そこの「あ・な・た」!

のストレス満載の気持ちは、スペイン国境を超えてフランスに入った途端、いっぺんに和らぎます。
「ん? 美保子さん、意味不明ですが?」という声が聞こえてきます。では、スペインとフランスの違いを説明しましょう。
スペインの高速道路の最高速度は 120 キロというのがスタンダードで、一部都市近郊や高速道路の標準サイズに満たないようなバイパスなどで 100 キロに規制されることがあります。一方フランスの高速道路は基本 130 キロ。ただし雨が降ると 110 キロ規制になる標識が数キロ置きに設置されています。スペインとフランスでは、時速で 10 キロの差があります。フランスの方がスピードが早いです。でも、国境を超えフランスに入ると、何故か安定感が増します。もちろん道幅が多少広がるためでもありますが、全体のスピードが上がるのに、増していく安心感。それは、前方に見えている 2 もしくは 3 車線の道路には、一番右の車線(走行車線)、つまり自分の走っている道の前にしか車が見えないからです。とってもゆったり感があるのです。これは、「道路走行は、走行車線。追い越しは追い越し車線で」が徹底しているからなのです。


高速道路ではなくバイパス。その脇が歩けるとは、珍しい。真ん中車線と追い越し車線を行く車両

ここまでガラガラだと、誰にも追い越されないことも多いスペインの高速道路
スペインでの教習でも、「基本走行車線を走り、必要に応じて追い越し車線で追い越すこと」、と習ったのですが、みなさんの地域はどうでしょうか? 走行車線が丸空きなのに、追い越し車線を走っていく車、いませんか? 追い越し車線なのに、走行車線の車と並走するスピードの車、見ませんか? この追い越し車線のドライバーの中には、「この先で右折するから~」とおっしゃる方もいるでしょう。でも、右折が 15 キロ先なら、まだ右車線を走るのは、早くないですか?

スペインでも、この「のんびりさん」が追い越し車線をふさぎ、後ろのドライバーをイライラさせるケースが多々あります。「¡Mira, qué feliz va! (ミラ, ケ・フェリス・バ)見て、なんて幸せに走っているの?」と揶揄するのですが、クラクションかパッシング程度の警告が後ろから飛ぶでことしょう。
先日のドライブレコーダーの映像では、あおり運転をする側を非難する目でコメントが集中しましたが、誰も走行車の位置関係は言及しません。そしてあおった人は「前の車が遅かった」と言っているのです。
そして、つい教習所の教官になった気分で「レクチャー」したのが「あおり運転」と言われてしまった、と加害者は主張しているようですね。
スペインの場合も、「あおり運転」ということに対する処罰は特定されていないようですが、「Conducción temeraria(コンドゥクシヨン・テメラリア)=無謀運転」という名が付き、それに対する処分は厳しいものです。
この無謀運転とは、「その運転方法によってリスクや危険を引き起こし、その車両の運転者、同乗者だけでなく、同じ道路を共有するその他のユーザーに影響を与える運転」です。交通安全法では、とても重大な罪に問われ、500 ユーロの罰金と違反点数 6 点が差し引かれます。

(バルセロナ)

(メノルカ島マオン)
交差点ではなく、一方通行のロータリーが多いが、これも失敗すると、周りから非難のクラクションが飛んでくる。
両側が縦列駐車だと、モタモタするとやはりクラクションが
それとは別に、刑法 380 号では、「モーターを有する車両を高リスクかつ危険な方法で運転することによって、第三者の生命を脅かすこと」には、6 ヶ月から 2 年の禁固刑、そして 1 から 6 年の免許取り消しの刑も定められています。高速道路で第三者を止めるのは、やはり重大な罪ですよね。

ロータリーから出て、道路に入るときには、
右車線をキープするのが普通。これは慣れると難しくない
©S.Nakamura

フランスにも「幸せさん」が追い越し車線に。

イタリアは道が狭い感じ
ただ、私の経験したスペインでのあおりには、クラクション、パッシング、そして窓から中指の立った手が差し出されるぐらい、でしょうか?
たまに怒鳴り声も聞こえてきます。いずれにしても、最近の日本のあおり運転に比べると、カワイイもんですね。
ということで、走行車線がガラ空きなのに、追い越し車線を走ることに対して、ちょっと反省が必要なんじゃないかって思うのですが…。
そこの あ・な・た、追い越し車線に入ったら、ちゃっちゃと追い越して、走行車線に戻ってくださいね!
でも…、これって、もしかして、私…、『あおって』る?
¡Por favor, vaya con cuidado!
(ポル・ファボール、バジャ・コン・クイダード)
気をつけて行ってください。
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