スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師

杉田 美保子

スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。
石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。
京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。

スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。

桜の季節、年々開花時期が早まっている感じがします。でも、このコラムは季節の先取りではなく、なんと「後取り」です。今月は、1月号でご紹介したのんびりルイスとの最終日の模様をお届けします。

石川県だけが、観光地じゃない !

手前味噌ではありますが、金沢は北陸の中でも有名な見所がたくさんあり、スペインからの友達を案内するのに困ったことはありません。ですが、筆者本人が「今年は、これで何回目かしら ?」と思うぐらいの頻度で、兼六園や近江町市場を歩いた時期もありました。過去、兼六園のガイドとして勤めていたことがあり、1日に園内のご案内を5周して、休暇の日には友達を連れて、という来園に、少々疲れた時期もありました。ただ、当時は庭園の歴史についていろんな知識があったので、それはそれは楽しかったものです。

人間の脳は、とってもいい加減で (少なくとも私の記憶力の話ですが) 、ガイドを離れると、それまでの知識は途端に頭の隅のどこかの引き出しに仕舞われて行くようで、今ではガイドブックをチラ見しなければ説明できません。なんということでしょう。なので、最近では郊外散策型の遠足の方が楽しいのです。また、だいたい友達は金沢中心部に宿を取ることが多く、兼六園や近江町市場などは徒歩で回る方が、駐車の問題が発生しません。よって、市外に出ることがめっきり多くなりました。

相倉合掌造りの集落は、こじんまりとして、少し高台に上がればこんな景色ものぞめる。それでも、1時間もあればのんびり散策ができる

地理的にも、石川県は細長く、金沢から能登に行くのも、富山に行くのも、そんなに大した距離の違いがなく (逆に奥能登の方が遠いかもしれません) 、つい富山県に行ってしまうのでしょうか。1995年に世界遺産に登録された『白川郷・五箇山ごかやまの合掌造り集落』もその1つで、白川郷の白川村は岐阜県に、五箇山の相倉あいのくら、菅沼2つの集落は富山県に位置するため、どうしても富山県をメインにご案内することになります。

そして、「たくさんの素敵なところを、さらっと回って喜んでもらおう」という筆者の気持ちは、たまに大失敗になってしまうのです。
「さ、ルイス、今日は五箇山と言って、合掌造りの家々の集落に行くからね。世界遺産よ。その後、ほら、ひがし山の民宿で見た、欄間らんまの町に行くわよ」と。でも、石川県と富山県の県境を抜け、五箇山に向かう途中に『城端じょうはな (現在は南砺市なんとし) 』という町があり、そこの街並みも綺麗なのです。
「あああ、せっかく通るんだから、ちょっと止まって写真でも〜」というのが『大失敗』と呼ばれるものになるのですが…。ルイスが訪れたのは、12月初頭。1年で1番日の短い時期。16時30分には暗くなってしまう…。

城端の善徳寺の山門に施されている木の彫刻。井波まで行かずとも、あちこちにルイスの気を引くものがある

通勤ラッシュがおさまる9時ごろにピックアップ。宿はひがし山茶屋街のど真ん中ということもあり、その時間はすでに観光客がひしめいているため、コインパーキングに駐車。ロケーションも、建物も素晴らしいのですが、朝食のつかない民宿、「¡Vamos a desayunar! (バモス・ア・デサジュナール) =朝ごはんにしましょう」。金沢駅の次の次、森本駅近くのパン屋さんにはイートインスペースもあり、そこでスペイン風にパンとコーヒーで朝食。本当に久々に会うと、話は尽きず、ついついおしゃべり。なかなか前に進みません。「¡Venga, vámonos! (ベンガ、バモノス) =さあ、行きましょう」。

金沢の北東を富山に向かい、県境を越えると福光ふくみつ、城端へ、30分ほどのドライブ。まず最初に見たのが「善徳寺」です。本願寺城端別院であり、門構えも立派です。

ここでも、ご期待の通り、1時間超えの滞在です。スペインから日本を訪れる友達のアテンドをするようになって、本当に人の興味というのは千差万別だと感じています。日本語がわからなくても、日本の本屋さんでじっくり時間を過ごす人、海辺で裸足になり、波と戯れることに夢中になる人、秋葉原のショップを1日かけて楽しむ人、美味しいコーヒーを求めて歩き回る人、甘味処のリサーチをして、お抹茶と上生菓子や、ぜんざいを食べ歩く人、そう考えると、ルイスの映像へのこだわりにも納得がいくというものです。一概に、「金沢で何がしたいか」「金沢で何ができるか」でご案内をしてしまえば、つまらないと思われたりもすることでしょう。

やはりスマホで撮影に没頭。どこを向いても、何を見ても、映像に収めなければ、という監督魂

相倉集落に到着したのは、お昼近く。小道を見ると残らず奥まで足を運び、スマホを構える、という散策が始まりました。朝食が遅かったためまだお腹は空いていないので、お店をのぞいたり、資料館を見学したり、やっぱりおしゃべりは止まず、12月の晴れの日はとても珍しく、2人して「晴れ女、晴れ男」だね、というジョークも。
到着直後に入ったお店に再び入ると、「あら、2時間ほど前にもいらっしゃったわよね」と。暗に、「まだいらっしゃったのですね〜」という意味だったのですが、「まあみなさん30分ほどでお帰りになるので、珍しいなと思って」とのご説明。でしょうねぇ。私も2時間は新記録ですよ、と。逐一通訳すると、ルイスも爆笑。

岩に苔とともに生息する植物。調べて見ると、ツメレンゲとイワレンゲ ? どなたかお詳しい方、ご教授いただきたいもの

ただ、ルイスのおかげで、集落のはずれに「植物園」なるスペースがあり、「クマに注意」以外は安心して林の中を歩けること、今まで見たことのなかった植物にびっくりしたこと、何しろいいことづくしでした。やっぱり、旅はじっくり、少数観光地精鋭、欲張っていろいろなところに行くものではありませんね。学びました。

さて、集落から少し離れ、国道156号線を進むと、「捨遍舎」というお蕎麦屋さんがあります。手打ちでコシがあり、近くを通ると必ず立ち寄るお店なのですが、やはり時間が…。営業時間が14時までだったからなのか、それとも定休日だったからなのか、お店は閉まっていました。季節の天ぷらのお蕎麦が食べたかったのに〜、です。でもそこは「Sobre la marcha (行き当たりばったり) がとっても得意な美保子」、大丈夫です。少し戻ったところのお食事処でスペイン時間での昼食をとることができました ! 夕食時にはあまり問題を感じたことがないのですが、昼食時間のズレだけは、多々ある問題です。まあ、場所にさえこだわらなければ、必ずお食事はできるのですが、希望の場所のランチを予約して行く、というのは、地元民が一緒にいても、なかなかハードルの高いものですね、旅行中は。

瑞泉寺の正面にある石垣と、その下に流れる水路。なんのために作られたのか、分からなかったのが残念だ

ということで、ご想像の通り、昼食後に井波へ向かい、到着すると、すでに夜の帳が下り始める頃。冬場の16時近く、当然早仕舞いを始めるお店がほとんどです。そこで写せる写真、私のスマホでは限界があったため、次のリンクをご覧ください。この日本遺産にも登録されている「井波の木彫刻 (日本遺産ポータルサイト掲載) 」ですが、町中が木の彫刻で飾られ、それはそれは歩きがいのある地域です。その中心が真宗大谷派、井波別院瑞泉寺。薄暗くなり始めた頃から始まり、それでもやはり完璧に暗くなるまで散策をするルイス。ひがし山で見かけた欄間を見て「¡Me encanta! (これ大好き ! )」と叫んだのがきっかけで、こうなるわけです (2024年1月号) 。

黒髪庵は、芭蕉と関係深いようで、俳句好きのSalvadorさん (2019年7月号) にもぜひ来ていただきたいものだ

監督が撮る写真は、被写体いかんを問わず、なぜかおしゃれだ

井波は、バス停まで木彫刻

ただし、スペイン人の時間感覚では、18時はまだまだ「午後」。それから金沢に帰り、またまた自宅ご飯を楽しみ、次の日は朝7時ピックアップで関西に向けて出発。タフさにかけてはスペイン人にかなう人種はいないのではないか、と改めて思うわけです。

今月のフレーズ
¡Vamos a desayunar! (バモス・ア・デサジュナール)
「朝ごはんにしましょう」

¡Venga, vámonos! (ベンガ、バモノス)
「さあ、行きましょう」