スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師

杉田 美保子

スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。
石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。
京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。

スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。

日本以外の国でも、俳句や短歌が作られている、ということ、ご存知でしたか?

5、7、5 や、5、7、5、7、7 という、音の数を数えて、子供の頃には俳句や短歌、はたまた川柳を作る、という宿題が出たこと、ありませんか? 今月は、バルセロナでの俳句、短歌、短編物語を創作し、それを FM ラジオに乗っけてしまった友達のお話をしますね。もちろん、筆者も参加することになりました。でも、その前に、ちょっとそこへ行き着くまでの経緯を簡単に。

俳句、Haiku、短歌、Tanka

2008 年のリーマンショックによるリストラの余波で、2010 年から「失業者」という身分になりました。大企業のリストラには思いがけないたくさんの慰謝料、退職金、有給休暇の買取が行われ、かなりの保障をいただけたので、解雇のショックは大きかったものの、一年はあくせくせずに過ごせるほどのお金が銀行口座に振り込まれました。(スペインでの社員時代のことなどを去年掲載していただきました。(スペインの知られざる文化 No.16

ラジオ番組には、自作の詩やポエムを持参するメンバーもいる。ラジオは貴重な発表の場
数多くの俳句の出版物が存在する

その後、もちろんのこと、スペインのハローワークでの手続きなども経験し、解雇から数ヶ月は「失業保険」を支給されたのですが、そこはラッキーな筆者のこと。失業保険は最初の二回だけもらい、すぐに色々なお仕事をいただけることになりました。お仕事をする=就業者に戻る、ということなのですが、そのあとにやって来たお仕事は、正社員としての雇用ではなく、自営でお仕事を請け負う、というものでした。

友人からの紹介で、料理コースの欠員を埋める、というお仕事が来ました。それが、バルセロナ各地区にあるいくつかの市民センターで、日本食のワークショップを開く、というものでした。えええ、楽しそうじゃん!  という軽いノリで始めた、病欠の講師の代わりのワークショップ。市民センターというのは単発でクラスを募集したりするのですが、ほとんどが 10 回ワンコースというものでした。つまり、毎週 2 時間の料理教室が三ヶ月ほど続くのです。そういう市民センターの料理講座を三つほどを頼まれ、レシピ作りに始まり、材料の買い出し、それをそれぞれの日にセンターに運び、2 時間で基本二品を作り、試食、片付けで授業が終了です。そんな市民センターの一つで、サルバドールを紹介されたのです。

帰国後、こんな写真が届いた。 気持ちはいつも、バルセロナに飛んでいく

サルバドール! そうです、このコラムに写真を提供してくれている、サルバドールです。サルバドールというのはスペインではよくある名前ですが、「救世主=助けてくれる人」という意味で、この出会いから現在に至るまでこの Salvador には再三助けてもらっているのです。

「あ、ミホコ。君は日本人だよね。このセンターにも、サルバドールと言って日本の文化を伝えている人がいるんだ」と市民センターの責任者チャビから紹介された時には、それがまさか「俳句」で、その俳句でラジオ番組が組まれているなんて思いもよらず…。

Teatrí de Butxaca というのが「ポケット劇場」(https://www.facebook.com/Teatridebutxaca/)で、私が参加していた時には 1 時間枠、今年から 2 時間枠になり、グラシア地区の FM 局で毎週木曜日にオンエアーとなっています。その昔コミック雑誌を出版していた会社の跡地が、廃業により市の管理となり、そこが市民センターとなりました。金沢市でも、山の中にあった小学校などが廃校・統合となり、そこがガラスアートの工房となったり、高齢者のためのセンターになったりしているので、これはどの国も同じですね。この FM 曲のある市民センターには、料理教室のできるキッチン、就業前の子供たちを預かる施設、近隣の高齢者がドミノやカードを介して交流するホール、若者のグループによる文化活動、ありとあらゆる福祉・教育・文化サービスを提供していて、この Salvador はラジオだけでなく、若者のショートムービーにも出演したり、と多岐にわたる才能を発揮いています。

市民センターで行われる現地住人たちの懇親会は、料理教室の行われるキッチンで

現在のメンバー。
22 人が交代でオンエアーに挑む

サルバドールがみんなに用意してくれたプレゼント。 線も色も緻密

さて、この俳句のラジオ。

どんな番組なの?  俳句をスペイン語で?  いやいや、バルセロナはカタルーニャ地方だから、カタラン語で?  575 は大丈夫?  短歌も?  長くない?  57577 でしょ、カタラン語で?  短編のお話、それも「禅」をモチーフにした道徳的なお話?  でも、西洋の人に東洋の考え方が理解できるの?

はい。

はてなマークが山のように頭に浮かぶことと思います。

スペインで俳句の第一人者といえば、Vivente Haya(ビセンテ・アヤ)という方です。サルバドールも彼の書籍や研究書を読み、バルセロナで新書発表会があれば参加し、直接お話ができるならば、いろいろな質問をし、スペイン語でどのように 575 を構築するのか、季語はどうするのか、を学び、現在に至っています。日本の皆さんが想像する以上に、日本の俳句・短歌はヨーロッパに浸透しているのです。

そしてバルセロナは、独立を目指すカタルーニャ州にあるので、公用語はもちろんカタラン語です。そう。基本的に俳句はカタラン語で発表されます。

俳句・短歌・説法のミーティングは、 現地のレストランで。 サルバドールは挿絵も描く編集長兼ディレクター

スペイン語は子音と母音の組み合わせが多いので、5、7、5 はなんとなく理解できるのですが、サルバドールがカタラン語で作る俳句は、二重子音、三重子音が巧妙に組み込まれ、言葉の意味のみならず、言葉の流れ、リズムが音楽的でさえあるのです。これはある種、日本の俳句より奥が深いのではないかとも思えます。

サルバドールは、この太陽さんさんの明るい国にいながら、侘び寂びを詠む俳句をたしなむ、という日本的な感性を持っているのですが、なんとラジオ番組のみならず、俳句、短歌の文学賞まで作ってしまったのです。

PREMIS LITERARIS GRAU MIRÓ(グラウ・ミロ文学賞)。現在のところ、「日本語枠」での募集はないのですが、俳句をたしなむ方、飛び入りで参加しませんか? https://premisliterarisgraumiro.wordpress.com

さらに、去年は俳句、短歌、短編のお話の本まで自費出版した私たちです。今年は第二弾の出版のミーティングも兼ね、筆者はまたまたバルセロナに来ています。

ところで、バルセロナへの出発前日、父と食事をし、今打ち込んでいることについて話をしてくれました。なんでも、手書きで数十冊ある、先代のお上人の残した説法集を読み解いている、ということでした。80 過ぎのアナログ人間な父は、ワープロ(使ったことある人、いますか?)で文章を書き綴るのを覚えたものの、もうワープロは壊れてしまい、パソコンに変更となり、その法話集を慣れないパソコンに書き溜めているのです。法話の内容は、実話であったり、空想だけれど道徳的な話であったりするそうで、それが達筆で、当て字を含めた字で書いてあり、解読に苦労する、というものでした。

この父の話を聞きながら、スサーナが書き溜めている「短編禅物語(造語です)」を思い出したのです。

これは、「法話」もしくは「説教」と呼んでもいいんじゃないかな、と。今回のミーティングでは、スサーナの作品群に日本語で名前を付けようか、どうか、協議することにします。

音響の他に、ビデオも駆使しました。ホームビデオの様子が微笑ましいので、リンクを掲載しますね。https://www.facebook.com/Teatridebutxaca/videos/1499970550055113/

会議参加者一人一人に描いてくれた絵のディテール

こういう楽しい経験をさせていただくことになりました。そして、現在進行形です。あ、誤解のないように言いますと、この俳句関連の活動は「お仕事」ではないので、全て手弁当となっています。第二弾の俳句、短歌、説法の本が出版された暁には、読者プレゼントをしてみたいな、と思います。もちろん、中身は多言語ですので、その時をお楽しみに!

¡Qué sea leve la lluvia!

(ケ・セア・レベ・ラ・ジュビア= 雨がひどくなりませんように)

写真協力:
Salvador Barrau Viñas
ガウディの作品群詣うで。 久しぶりの抜けるような夏の青い空が心地よい
モンセラット修道院。 ここも青空