2025/01/15 業界コラム 杉田 美保子 スペインの知られざる文化 No.73 (最終回) スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師 杉田 美保子 スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。 石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。 京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。 スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。 ¡Feliz Año Nuevo! Bon Any Nou! 新年明けましておめでとうございます。 変化、という観点で見ると、やっぱりスペイン変わった !30年以上前、バルセロナ五輪の頃にバルセロナで知り合った麻紀ちゃんと、久々に金沢で再会しました。お互い20代だった私たち、当時はフットワークも軽く、家族がいたわけではないので、かなり自由に旅行したものです。当時、クラブメッド1週間滞在がお気に入りで、冬はアルプスのスキーリゾート、夏は中央フランスの高原で乗馬を楽しみ、というお気楽なバカシオネス (vacaciones (スペイン語) 、vacançes (バカンセス、カタラン語) =バカンス、休暇) を楽しんだものです。 調べてみると、現在はとても価格が上がっていて、また円安の折、「無理無理無理」と心の叫びが聞こえてきました。当時、1週間滞在、連日3食にはワインなどの飲み物代込み、スキーレッスン、リフト券や、乗馬レッスン代を入れても、一泊1万円ほどの計算だったと思うのですが、今は当時行ったリゾート地さえ、リストには見当たりません…。 30年前のスペインは、12月号でお話しした現在のスマホ世界なんて、近未来映画のようなもの、携帯電話は普及しておらず、公衆電話は当たり前。固定電話で待ち合わせ時間を決め、当日遅刻しても連絡できず、という生活でした。そんな中、麻紀ちゃんとの連絡をどうやってしていたのか、なんて、到底思い出せませんが。 カタルーニャ以外に、スペイン、南仏をスケッチされた谷さんの画集。筆者も巻末に旅日記を寄稿させていただいた1993年4月、谷昭二さんという、光風会会員、日展会友であった画家さんが金沢からデッサン旅行に来ました。カタルーニャ州はスペインの北東に位置し、北はピレネー山脈でフランスと接し、西は乾燥した内陸、東は穏やかな地中海、という、逆三角形のような地形。カタルーニャにある4県を5週間かけ、スケッチして回る、という夢を叶えるべく、スペインにいらっしゃったのです。 カタルーニャ州北西のピレネー山脈、南部内陸、バルセロナ西部近郊、村には必ず教会がある。石造りの建物は、日本の田園風景とはかなり異なるバルセロナでももちろんスケッチ。何度か訪れたスペイン各地の作品をまとめて出版されたため、取材地はかなり多い移動は電車、バス、タクシーを駆使。旅行中にスケッチをされている間は、筆者のすることはほぼ皆無だったため、麻紀ちゃんを誘って、三人で旅をしたこともあります。谷さんを草原や丘に案内し、お迎えに来る時間と場所を決め、自由行動です。宿泊したホテルで自転車を借り、サイクリングしていると、乗馬のできる施設を発見、筆者にとっては初めての体験です。基本馬は私なんかの言うことは聞かず、最前を行くインストラクターの掛け声と鞭を見て、筆者を背中に乗せ、トロット、キャンターと速度を変えていきます。乗馬未経験だった筆者は、比較的穏やかな、どちらかというと高齢の馬に案内されたものの、あまりの速さに怖気付きます。「あああ、やめてー」と手綱を引くと、ここは言うことを聞く馬。…急ブレーキ。はずみで筆者落馬 ! バルセロナから海岸線を北上、フランス国境近くの「コスタ・ブラバ (荒い海岸) 」にある村、カダケス。海あり山あり、1日では描ききれない。せっかくだからと麻紀ちゃんを誘い、ここで乗馬初経験をする草原でのお散歩、落ちたところは柔らかく、ケガはなかったものの、悔しい ! それが麻紀ちゃんとの乗馬バカンス計画へと発展したのです。 行き先はポンパドゥール、フランス中央部より南西にある町で、クラブメッドもリゾート施設を展開していました。バルセロナから電車を乗り継ぎ、いざ出発。 お互いの固定電話で日時と集合場所を決め、理由は忘れたのだけれど、バルセロナ中心の駅ではなく、乗る予定の特急が停車するという郊外の駅で落ち合いました。「あ、あの電車だね ! 」と止まっていた電車に乗り、「まだ時間あるから、送ってきてくれた友達に挨拶してくるねー」と麻紀ちゃんは荷物を座席に置き、ホームへ下り… 「プシュー…… ガッタン………ガッタン……ガッタン…」 なんと電車が音もなく発車し始めたのです ! そうです。現代こそ、安全確認のために「ドアが閉まります。白線までお下がりください。発車します」というアナウンスが入るものの、当時のバルセロナ、定刻になるとドアが閉まり、静かに出発、と言うパターンが普通でした。そして、電車の窓も手動で開けることができ、「麻紀ちゃーん」「みほさーん」「次の駅で降りて待ってるね ! 」と。 ホームに残った麻紀ちゃんは、切符もお財布も一足先に旅立ったため、「えー ? 信じられない ! 」状態で、しばし呆然。筆者は貴重品を手に、車掌を探しにいきます。かくかくしかじかを説明し、私はどこで友達と落ち合えるか、乗車中の電車は次、どこに止まるか、ポンパドゥールへ行く次の電車の時刻、などの情報を得ます。現代ならば、バッグを座席に置いても、スマホは手にして、と言う感じなので、麻紀ちゃんに電話すれば話は済んだのですが、当時はそんな文明の利器はありません。 借り物のヘルメットにブーツ、記念撮影はサービスに含まれていなかったが…各駅停車で次の駅で降り、私を送ってくれた友達に公衆電話から電話をすると、無事帰宅していて、事の次第を説明。麻紀ちゃんも私の友達に電話をして、どの駅で落ち合えるか説明。再び私も電話をかけ直して説明を聞き、と言う伝言ゲームが始まったのです。「今なら絶対にこんな混乱は起きないよねー。ハハハハハ」 バッグもなく、もちろん携帯なんてものも持たずに麻紀ちゃんが私の自宅に電話できたのは、今では不思議と思われることでしょう。当時はほぼ全ての人が、最低5つの電話番号をメモなしで、頭にインプットしていたものです。自宅、職場、友人、家族…。今ではスマホの住所録を見ないと、電話なんてかけられません。進化と呼ぶのか、退化と呼ぶのか… ? 別の旅行ではフランスのアルプスにスキーへ。ありがたいことに地続き、電車を乗り継げばどこへだって行ける金沢で久々の再会で麻紀ちゃんが覚えていたのは、あれは駅で乗り込んだ電車が近郊線の各駅停車だったこと。乗るはずの特急は到着が遅れていた、とのことですが、後の祭り。結局、お昼に到着予定が、夕食時間になってしまい、とんだ長旅となってしまったのです。細部はすっかり忘れていた筆者。日本では30年前でもここまでの悲劇は起こらなかったでしょうし、小さな駅でも遅延情報は駅で確認できたことでしょう。そこが、スペインのゆとり。何事もポジティブにとってしまうのが精神衛生上良いのかな、と思っています。 最近のバルセロナは、地下鉄のホームやバス停にも電光掲示板で「あと何分で電車が来ます」「〇〇番のバスはあと何分で来ます」表示があり、「次の駅 (バス停) は〇〇です」「スリには気をつけてください」と言う多言語でのアナウンスが入り、乗り間違い、乗り過ごししにくくなっています。その分、雑多な音が耳に入り、昔の静かな車内、という感じではなくなったのが残念な部分もあるのですが。 筆者をスペインへと引き寄せたのは、ナルシソ・イエペスの演奏する「アランフェス協奏曲」。バルセロナ滞在中にイエペス氏の未亡人にお会いでき、10弦ギターを見せていただいた。夢の1つが叶った瞬間それ以外にも、タバコ、不動産、ガソリン、バルで飲むコーヒー、日替わりランチなど、1988年から2024年の36年間で、かなりの物価上昇がありました。日本でハイライトの価格が200円の頃、スペイン標準銘柄タバコは103ペセタ (当時の円では100円を切っていました) 。現在は5.20ユーロ (約832円) 。ざっくり計算で、36年間で8.4倍ほどの上昇率です。 ありがたいことにスペイン、物価は上昇するのですが、その上昇分は毎年の給料の賃上げにも反映します。ああ、またスペインで住みたいな、と言う妄想が頭をよぎるのですが、これから大移動することを想像すると、妄想にとどめてしまいます。やっぱり、様々な経験を重ね、日本滞在も早10年となる今、渡西した22歳の私ではなくなったということなのでしょうね。 バルセロナ到着後に始めた製本の学校で。一枚の紙を折って、切って、プレスして、縫って、貼って、重しをして、と言う工程は長いのだが、忍耐の修行には最適だった書くことの好きだった筆者、後年にはDTPオペレーターとして出版社勤務、果てはコラムも書かせていただけることになった。夢のようなご縁に感謝この10年の日本での生活の間、8年以上に渡り、私事を含め、日本とスペインの生活の違い、それぞれの文化やゆとりの違いを書かせていただきました。このコラムを読んでくださっている方々には感謝の言葉しかございません。また、メルマガの歴代および現在のご担当の方々には締切突破や画像のまずさなどがありながらも、毎月フォローいただきました。こんな貴重な経験をいただけたご縁は、本当に大切な宝物です。ありがとうございました。 これからも、スペインは日本同様変わっていくと思いますが、古くからの文化、習慣、人々の生き様、考え方は代々続いていくものと思っています。どうか、まだスペインを訪れたことのない方、また「もう一度」と考えていらっしゃる方、ご旅行計画を立てていただき、このゆとりを現地で体験していただきたいな、と願っております。長い間、応援いただきありがとうございました ! では、2025年もみなさまの益々のお幸せとご健康をお祈りいたしております。 杉田美保子 今月のフレーズ - スペイン語 - ¡Feliz Año Nuevo! (フェリス・アーニョ・ヌエボ) 明けましておめでとう - カタラン語 - Bon Any Nou! (ボン・アンニ・ノウ) 明けましておめでとう この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師 杉田 美保子さんのその他の記事 2025/01/15 業界コラム スペインの知られざる文化 No.73 (最終回) 2024/12/10 業界コラム スペインの知られざる文化 No.72 2024/11/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.71 2024/10/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.70 2024/09/10 業界コラム スペインの知られざる文化 No.69 2024/08/07 業界コラム スペインの知られざる文化 No.68 2024/07/09 業界コラム スペインの知られざる文化 No.67 2024/06/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.66 2024/05/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.18 2024/04/09 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.17 2024/03/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.16 2024/01/10 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.15 2023/12/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.14 2023/11/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.13 2023/10/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.65 2023/09/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.64 2023/07/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.12 2023/06/13 業界コラム スペインの知られざる文化 No.63 2023/05/09 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.11 2023/04/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.10 2023/03/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.9 2023/02/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.8 2023/01/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.7 2022/12/13 業界コラム スペインの知られざる文化 No.62 2022/11/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.61 2022/10/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.60 2022/09/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.59 2022/08/09 業界コラム スペインの知られざる文化 No.58 2022/07/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.6 2022/06/14 業界コラム スペインの知られざる文化 No. 57 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月