スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師

杉田 美保子

スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。
石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。
京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。

スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。

コラム執筆にあたって

能登半島地震によりお亡くなりになられた方々に心よりお悔やみ申し上げます。そして被災されたみなさまに心よりお見舞申し上げます。また、石川県を心配してお見舞いのご連絡をくださったみなさまには、厚くお礼申し上げます。

今年は元旦に大変なことが起こってしまい、心が痛い日々が続いております。筆者の住む石川県ですが、金沢市から南の被害は奥能登の比ではなく、歩道が隆起、土砂が環状道路入り口を塞ぎ、屋根瓦の崩壊、壁の亀裂、家具が動いたり、食器が割れたりという程度で済んでいます。そしてほぼ県民の全てが能登に親戚や友人を持ち、三が日は電話や通信アプリを利用しての安否確認に追われました。そんな始まりの2024年ですが、当初の予定通り、コラムを掲載していただくようにお願いしました。どうぞ本年もよろしくお願いいたします。

2024年が始まりました ! 毎年この時期になると「ああ、月日が流れるのは早いなあ」と実感しますが、これは日本の一年の始まりが元旦だからでしょう。スペインには四月の入社式なんてものもないくらいで、決まった日付で何かが始まる、というのはクリスマスぐらい、と少なめです。大晦日はカヴァのビンを持って友達たちとカウントダウンに街に繰り出し、元旦は昼まで寝ているのがごく普通です。2日が平日なら仕事があり、仕事始めというコンセプトもありません。もちろん三が日、なんてこともないので、淡々と日常が続くわけです。日本に住み、季節感が一番感じられるのが、1月だと思います。

まちなか観光だけが、観光じゃない !

大乗寺公園から日本海に向かって見た金沢の町。12月4日、前日の雨が嘘のように晴れた

金沢はどの観光名所に行くにも徒歩20分圏内で、週末を金沢で楽しもうという日本各地の観光客の方々にとって、大変コンパクトな町です。兼六園に金沢城公園、近江町市場にひがし山茶屋街。長町武家屋敷に尾山神社。お天気さえ良ければ、テクテクと歩いて回れるのです。そんな町の中心部は、昨今のテクノロジーの進化のおかげで、外国人だって道を間違えることなく動けます。

バルセロナへの里帰りが、円安やお仕事の影響で実現できていない今、ありがたいことに友達たちがどんどん訪ねてきてくれている、ということをここ数ヶ月に渡ってお話ししてきましたが、12月も例に漏れず、来沢友人2組です。先月のボードゲームデザイナー率いる4人の友人たちとのその後、を書こうと思ったのですが、それはもう少し先に延ばし、今日はこの12月の友人とのことをお話ししましょう。

「ほら、これルイスとHちゃんだよ!」と確認。「みんな若かったよね〜。30年前だからね〜」

「ルイスが念願の金沢に行きたいって言っているよ」とのメッセージが、現在東京に住むバルセロナ時代の友人Hちゃんから届きました。Hちゃんとは1988年、当時オープンしたての「チキート」というペンションで知り合い、今も親交があります。かれこれ35年のお付き合いになるんですね。今調べたら、1994年に天皇陛下のスペインご来訪がありました。バルセロナのサン・ジャウマ広場でのお出迎えだったのですが、そこでHちゃんの友人のルイスと初めて会ったと記憶しています。それもかれこれ30年近い年月が過ぎているんですね。

「12月3日に到着してから、4日、5日と金沢に泊まって、6日に関西に向かって出発の予定だけど、美保子は大丈夫 ? 会える ? 」 「3日は仕事を抜けられないけれど、仕事前に到着してくれたら迎えに行くし、宿まで送るよ。で、ラッキーなことに4日と5日は連休 ! 」
そうと決まれば、頭の中で観光ルートが構築されます。私のお役目は単純ですが、「徒歩圏ではない所」へご案内する、に徹底することです。バルセロナ居住中も、テントとシェラフを車に積んでキャンプ場を渡り歩いた経験上、旅をするなら郊外の村々の方が私にはしっくりくるわけで、それをお節介にも友人たちにオススメする、という変な癖があるのです。

「お、これが美保子の家か ? 『味』があって(笑) イイね !」何が楽しいのか、玄関先で記念撮影

ルイスは映画監督・プロデューサーをしていて、バルセロナ滞在中は年に数回ご飯を食べたり、パーティーに行ったり、というお友達なのですが、私の前職、映画雑誌「Fotogramas(フォトグラマス)」(過去のコラム)での関係上、共通の友人も大勢います。一緒に観光したことはなく、今回初めて金沢近辺で歩き回ることになったのです。

到着した日は駅でピックアップ、軽く昼食を取り、近江町市場まで送り、仕事の後に再び市場でピックアップ、という計画を立て、初日スタートです。ミゾレとまでは言わないものの、冷たい雨が降ったり止んだりするお天気の中、ちゃんと金沢城公園にも足を運び、ひがし山茶屋街、もちろん近江町市場、歩き回ったようです。「50パーセント残っていたバッテリー、写真撮りすぎちゃって残り少ないから、これから先メッセージ送れないかも。でも、さっき降ろしてくれたところで待っているから」とアプリ経由で連絡が入り、無事落ち合うことができました。

数少ない紅葉の木を狙っての撮影。「この木は何?」と訪ねるのも、彼の生家近くの山も、紅葉するから

スペインから来る友人たちは、ほとんどの場合SIMデータを購入、スペインの電話会社とは関係のないところで通信をするのが普通なのですが、ルイスは各国の映画フェスティバルに参加したりする機会が多いため、スペインの電話会社との国際データ通信を契約して外国に行くので、バッテリーさえ残っていれば通信可能です。ちなみに9月のオリオールたちは、空港でポケットWi-fiを借り、4人で共有していました。日本のWi-fi環境は外国人にはあまり優しくなく、苦労する、という情報が出回っているようで、ちゃんと下調べをしてやってきます。私がバルセロナに行けば、どこででもWi-fiが拾える(喫茶店、レストラン、バル、図書館などなど)ので、金沢でもそうなのかな、と思ったら、案外繋げなかったり、というのは帰国時に経験しました。帰国後8年の今、日本でのスマホ契約なので、考えることは少なくなりましたが…。

日本の紅葉に負けないくらいのピレネー山脈の風景は、11月20日のもの。ただ、黄色とオレンジが目立ち、日本のモミジの赤は、あまり無い

夜は近所の焼き鳥屋さんで熱燗を飲みながら、おしゃべり。宿はうちから歩いて10分のひがし山茶屋街の民宿、築200年の町家はオーナーが「一組のお客さんが来たら、あとは予約を取らないんです」と、ルイス1人が滞在。なんと贅沢な…。

4日は好天。ドライブ日和、ということで大乗寺公園で散歩。自身もピレネー山脈の村に生家があり、度々自然の中で散策する、というルイスは、日本の草花や木にも興味を持ちます。快晴の公園からの金沢市のパノラマは、町中では味わえない開放感です。その後、私の大好きな白山ひめ神社へ。本来なら、表参道に車を駐めて、階段を登って境内に着く、というのが好ましいのでしょうが、友人の甘味処「善与門」でお茶をしたかったので、10時半過ぎに駐車場に到着です。

白山ひめ神社の手水鉢は、お花で一杯。「秋の花手水]とは素敵なネーミング

「お茶の前にお参りして来るね」と顔を出し、境内に向かったのですが、さすが映画に携わる人はカメラを離しません。手水鉢、鳥居、大きな杉の木の肌触り、結ばれたおみくじ、並んだ絵馬、などなど、1つ1つを画像に収めます。「ここが禊をする場所よ」と案内すると整備中で、普段の様子とは違っていたものの、岩の表面だったり、見たことのない枯れかけた植物だったり、一つ一つ丁寧に観察するのです。多分、頭の中に大きなスクリーンがあって、どういう構図だと美しいか、などなど考えたりしているのでしょうね。

大杉なのか、はたまた別の木なのか、何しろ数百年の樹齢 の木々が連なる。一本一本、と言えるほど丁寧に観察するルイス

そんなに大きくもない境内、なんと散策に二時間 ! 顔を出して、「ちょっとお参りして来る」と言って別れた友人も、「ありゃ、何してるのかな ? 」と心配だったよう。後日別の友人からも、「この間杉田の車が駐まっていたけど、どこ行ってたん ? 会えんかったな」とのコメント。そうです。二時間ゆっくり散策していたのです。12時半、甘味の時間ではなく、昼食です。友達の娘たち、孫たちの訪問と重なり、大きなテーブルを囲み、楽しくお食事。窓からは、終わりかけではありましたが、赤やオレンジに色づいたモミジの紅葉が見え、隣接の料理宿「和田屋(わたや)」のお庭を見ながら美味しいお蕎麦を食べ、デザートにソフトクリームとコーヒーをいただき、これものんびりした時間を過ごしました。和田屋のお庭も散策。これもまた時間をかけたわけです。「さ、ルイス、日の入りは16時半だから、次行くよ ! 兼六園ね ! 」

監督の目から見た構図は、筆者が撮る写真とは異なることと思うが、何しろじっくり楽しむ。納得いくまで何度でも

そうなんです。11時前に到着し、出発が13時半。14時過ぎに兼六園に到着。これもまた二時間ほどの散策。あっという間に日が暮れます。「さ、6日の切符を買いに、駅まで行こうか。夕食は、どうする ? 温かいもの ? じゃあ、明日も早いし、うちで水炊きでもして食べようか ? 野菜はあるし、お肉とお魚も解凍すればストックがあるし。日本酒は買わないといけないけど」

こうやって、2日目ものんびりと「家にあるものを食べる夕食」で終わり、徒歩圏内の宿まで散歩しながら再びおしゃべり。話題は限りなく出て来るわけです。

「友達に、鈴木大拙の美術館も良いよって言われたんだけれど」と。「いやいや、ルイス、このペースではいくらなんでもそんなにたくさんのところは見れないよ」と爆笑。「次はもう少し滞在日数を増やしてね。能登半島までは足伸ばせなかったから、今回は。羽咋という町には、コスモアイル羽咋という宇宙博物館があってね…。」と言えば、「ああああああ、行きたかった、行きたかった ! 」と口惜し顔。いえいえ、今回の旅では、無理ですって !

明日は最終日、なんと石川をすっ飛ばし、富山散策です。ひがし山茶屋街の玄関先のらんまを見るなり、「これ、好きなんだ。木の彫刻 ! 」ということで筆者の頭は即計画を練り直し、「わかった。明日は五箇山の後に、井波に行きましょう」と。

何しろ人のたくさん集まる観光地は好きではない筆者、世界遺産の「白川郷・五箇山の合掌造り集落」は、五箇山の方が近いのと、村が小さいので必ずそちらに。また、ルイスが宿泊したお宿付近の玄関のらんまを見て、「 ¡Me encanta! (これ大好き ! ) 」というので彫刻の町、井波にもご案内。数年前に新婚旅行で来た友達を五箇山に案内した時に偶然行き着いた井波。…そしてこの最終日のお話は…また近々ご紹介しようと思います。

12月とは思えない空の青さ。兼六園の雪吊りも、ポカリと浮かぶ雲さえも、霞が池に映り込む。監督にとってこの上ない景色

2024年、今年もスペインと日本の「ちょっと」違うところをお話ししていきますね。どうぞよろしくお願いいたします。

今月のフレーズは
¡Me encanta! (メ・エンカンタ !)
「これ大好き ! 」