2024/12/10 業界コラム 杉田 美保子 スペインの知られざる文化 No.72 スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師 杉田 美保子 スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。 石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。 京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。 スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。 「日本はテクノロジーの国だよね」と言われ続けてきましたが、なんの、なんの、今のスペインだってかなりなものです。筆者の在住していた時期が、1988年から2015年、となると、確かに日本はその頃、絶頂期にあったのかな、とも思うのですが、それよりも、筆者の年齢が「若者」だったからかも、とも思います。その理由は… スマホは生活必需品17~18年ほど前は、日本に休暇で一時帰国した際、東京や大阪に行く機会があって、地下鉄利用をしたものです。その当時、首都圏の通勤通学の方々がすでに「携帯電話」でメールや映画鑑賞などを行なっている景色を見て、驚いたものです。「東京の電車の乗り換えが分からない」ということで、行く先々で経路を教えてもらっていたのですが、みなさん携帯電話で調べて、それをメモして、という移動をしていました。 日本の雪国に行くと割と普通の縦設置信号、バルセロナは雪が積もらないのに、信号は縦設置バルセロナでも携帯電話は持っていたのですが、国外に出るとキャリアが違うため使えず、操作ミスでローミングなんかをされてしまうと、バルセロナに帰ってから莫大な電話料金の請求がある、とかで、ましてWi-Fiはまだまだ今ほど日本の町中を網羅しておらず、大変な思いをした一時帰国経験でした。当時のバルセロナの地下鉄では、紙媒体の新聞、雑誌、文庫本を読んでいる人が圧倒的多数で、東京の電車に乗ると、「おお、やっぱり日本はすごいなぁ」と思ったものでした。 それが、2024年。5年ぶりに行ってみると、バルセロナのメトロの中で新聞や本を持っている人はほぼ皆無。そうです。紙媒体ではなく、ノートパッドや電子書籍で読む人、スマホで動画を見る人で溢れていたのです ! 今、バルセロナを旅行する方々にとっては、日本と全く変わらない景色のため、違和感はないのだと思いますが…。 スペ インのポストは黄色、日本は赤。最近では四角型が増えてきているが今回の里帰りは、SIMカードを交換できるスマホに変えていたので (つい1年半前までは、SIM交換ができない旧式を使用、だったのです) 、バルセロナ到着数日後にはデータ容量の多いSIMカードを購入し、そのデータでネット検索やアプリ通話などができ、「ああ、2019年のバルセロナ滞在では、無料Wi-Fi探しでバルやカフェを転々としたものだったなー。現地の友達のスマホからデータ飛ばしてもらったり…」と、感無量です。 そんな中、今回の筆者の問題は、バッテリー保ちでした。バッテリーチャージャーとライトニングケーブルは必携。そのため、身軽に街を歩きたいのに、バッグが重くなってしまいました。滞在先の美々ちゃんのお家は郊外で、市内に出るには約30分の電車利用、ついその時間にスマホ操作をしてしまいます。 ですが、なんと、カタルーニャ公営鉄道の車両には、各座席にUSBポートがあったのです ! 日本のJR車両、特に新幹線に、そして飛行機などの座席にはもちろんポートがあるタイプが多いのですが、まさかこのローカルなカタルーニャ州の鉄道車両にUSBが付いているとは ! (ただし、新型車両のみで、旧型には付いていませんでしたが) スペインのガリシア地方のリベイロは盃のようなグラスで、1970年の赤ワインは大きめのグラスで、サングリアには撹拌のためにストローが付いてきたり2019年の滞在までは、「携行品に注意してね。フッと気を抜いた隙に、テーブルやカウンターに置いたスマホを持っていかれちゃうことあるからね、置き引きに」と言われていたのが、今は町中老若男女、全てがスマホ所持です。それもそのはず、新型コロナ感染症で、リモートワークが増え、外出禁止命令などが厳しかったスペインでは、多くの事務処理や銀行手続き、支払いなどをデジタル化したため、たとえその方が90歳を超えて、スマホ操作が困難であったとしても、スマホアプリからの手続きをせざるを得なくなっていたのです。これにはびっくりでした。 特に驚いたのが、従来ならば市役所に行って、住民票などの書類を発行してもらうのが普通だったのに、感染予防対策のため対面での手続きをしなくなり、代わりに市役所が独自のアプリを構築、それを市民にダウンロードしてもらい、そこから各自が国民身分証明書番号 (日本でいうマイナンバー) を使いパスワードを設定、そこから自分に必要な所得証明や、住民票といった書類をPDFでダウンロードし、さまざまな手続き (これもほとんどデジタルで、ですね) 先に転送する、というものです。 メノルカ島在住の友人家族が金沢に。筆者が向こうに遊びに行くと、「エンサイマーダ」というブリオッシュタイプのパンが振る舞われる。カットはハサミで。この島のあるバレアレス諸島で今も伝わるサンダル、「アバルカス」日本でいうマイナンバーカードは、DNI (Documento Nacional de Identidad=国民身分証明書) と略されるカードで、もちろん各自携帯することが義務化されていますが、そのカードのチップには、カードの裏表に書かれている個人の氏名や性別、誕生日がインプットされているだけです。書類を作るときにそのカードを読み込めば、カード表面のデータがデジタル化され出てくるため、フォーマットに手書きをしなくて済む、という感じの仕様。外国人の滞在許可証は2019年当時チップは付いておらず、そこに書かれた番号が永久個人番号となります。つまり筆者が学生だった頃も、永住許可を取得したときも、同じ番号、ということです。 日本では現在、その「カード」に免許証や保険証、果ては違反歴、処方薬などといった個人情報を紐づける、と言っていますが、スペインの場合は「番号」への紐付けであり、「カード取得」はプッシュ型、カードにポイントがついてくる、なんていうプロモーションもないわけです。つまり、スペインの場合、「身分証明書カード」を紛失しても、そこには重要なデータは入っていないとのこと。ハッキングテストでも、セキュリティが脆弱だということで、シンプルに、現在の様式になっているとのことです。もちろん保険証も、免許証も、独自に存在し、それぞれの省庁が「国民身分証明書番号」を使って紐付け管理している、ということになります。 ここ金沢では、ご高齢のお友達とお買い物に行く機会が多いのですが、銀行のATM操作はもう慣れたご様子の86歳。それでも、スーパーの自動支払いシステムは「もう覚える気はないわよ」と、有人支払いレジに並びます。スマホは持たれていて、お孫ちゃん、ひ孫ちゃんたちからアプリ経由で写真が届きます。「あ、私もこのアプリ使ってるから、友達になろうね」と、アカウントを交換、日々の連絡事項はアプリです。「耳が遠くなってきたから、文字の方がわかりやすいのよ」と彼女のコメント。……そして20年後の自分を想像します……。 ガウディ作のサグラダファミリア教会も、ペドレラという名 (カサ・ミラ、ミラ邸) の建物も、青い空にとても映える。同時代の建築家ドメネック・イ・ムンタネーのサンパウ病院も美しいアラ還の筆者、30歳からお仕事はデジタル機器を使用なので、なんとか一般的なものは使えていますが、これからチャットGPTだの、ネットですべて自動完結なお買い物など、覚えられるかしら ? できるもの、できないものが分かれ、このお友達同様、自分の興味のあることだけ習得、となるんじゃないかな、と思います。 2002年にユーロ導入となったヨーロッパで、それまでスペイン通貨は「ペセタ」でした。そのペセタをユーロに換算するトレーニングも、40歳前の柔軟な頭だったので混乱はありませんでしたが、今ならどうでしょうか ? もし現在、新円に切り替わって、1新円を166,384旧円にする、などと言われたら、即座に対応できるでしょうか ? 時間がかかりますよね。結果、ユーロ導入から22年が経ち、今では誰もペセタで考えなくなりました。そうなのです、時間というものは、ある時はのんびりと、ある時はあっという間に物事を変えて行ってしまうのです。 毎月ここに書かせていただいている日本とスペインについてのコラムですが、2016年5月より、日本とスペイン、両国の「ゆとり」について、に始まり、世界遺産の「スペイン巡礼の道」のこと、最近では日本、スペインの知られざる文化、として、「両国の文化比較・魅力」をテーマとして書かせていただきました。あれから8年も経ったのですね ! 文化や風習についてが多かった、文系の筆者ですが、このコラム、実は終盤を迎えていて、最後にちょっと、テクノロジーについても書いてみたかったのです。技術者ではないので、専門的なことをお話しすることはできなかったのですが…… キノコの王様「ロベジョンズ」は丸焼き、アホ・イ・ペレヒール (ニンニクとパセリ) 、オリーブオイル、塩でいただく。ガリシア地方名物の「プルポ・ア・ラ・ガジェガ」は木の平皿に乗り、パプリカ、塩、オリーブオイルで味付け。スペインで流行っている日本のラーメン。枝豆も、たこ焼きも…ということで、この8年の総まとめとは言えない内容ですが、今月も日本とスペインの違いについてお話ししてみました。また、コラムにはそのテーマに合った写真をお送りしてきたのですが、今回のテーマは画像選びが難しく、今まで使ったことのないスペインの風景や日常、変わったものの画像を使用させていただきますね。 写真キャプションと、本文の内容が合っていない、という珍しいコラムですが、連載もあと残りわずかです。どうかお許しいただければと存じます ! 今月のフレーズ - スペイン語 - Todo fluye, todo cambia. (トド・フルージェ、トド・カンビア) 全て流れる、全て変わる=万物流転 (諸行無常) この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師 杉田 美保子さんのその他の記事 2025/01/15 業界コラム スペインの知られざる文化 No.73 (最終回) 2024/12/10 業界コラム スペインの知られざる文化 No.72 2024/11/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.71 2024/10/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.70 2024/09/10 業界コラム スペインの知られざる文化 No.69 2024/08/07 業界コラム スペインの知られざる文化 No.68 2024/07/09 業界コラム スペインの知られざる文化 No.67 2024/06/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.66 2024/05/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.18 2024/04/09 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.17 2024/03/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.16 2024/01/10 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.15 2023/12/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.14 2023/11/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.13 2023/10/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.65 2023/09/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.64 2023/07/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.12 2023/06/13 業界コラム スペインの知られざる文化 No.63 2023/05/09 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.11 2023/04/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.10 2023/03/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.9 2023/02/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.8 2023/01/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.7 2022/12/13 業界コラム スペインの知られざる文化 No.62 2022/11/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.61 2022/10/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.60 2022/09/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.59 2022/08/09 業界コラム スペインの知られざる文化 No.58 2022/07/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.6 2022/06/14 業界コラム スペインの知られざる文化 No. 57 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月