スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師

杉田 美保子

スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。
石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。
京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。

スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。

「日本はテクノロジーの国だよね」と言われ続けてきましたが、なんの、なんの、今のスペインだってかなりなものです。筆者の在住していた時期が、1988年から2015年、となると、確かに日本はその頃、絶頂期にあったのかな、とも思うのですが、それよりも、筆者の年齢が「若者」だったからかも、とも思います。その理由は…

スマホは生活必需品

17~18年ほど前は、日本に休暇で一時帰国した際、東京や大阪に行く機会があって、地下鉄利用をしたものです。その当時、首都圏の通勤通学の方々がすでに「携帯電話」でメールや映画鑑賞などを行なっている景色を見て、驚いたものです。「東京の電車の乗り換えが分からない」ということで、行く先々で経路を教えてもらっていたのですが、みなさん携帯電話で調べて、それをメモして、という移動をしていました。

日本の雪国に行くと割と普通の縦設置信号、バルセロナは雪が積もらないのに、信号は縦設置

バルセロナでも携帯電話は持っていたのですが、国外に出るとキャリアが違うため使えず、操作ミスでローミングなんかをされてしまうと、バルセロナに帰ってから莫大な電話料金の請求がある、とかで、ましてWi-Fiはまだまだ今ほど日本の町中を網羅しておらず、大変な思いをした一時帰国経験でした。当時のバルセロナの地下鉄では、紙媒体の新聞、雑誌、文庫本を読んでいる人が圧倒的多数で、東京の電車に乗ると、「おお、やっぱり日本はすごいなぁ」と思ったものでした。

それが、2024年。5年ぶりに行ってみると、バルセロナのメトロの中で新聞や本を持っている人はほぼ皆無。そうです。紙媒体ではなく、ノートパッドや電子書籍で読む人、スマホで動画を見る人で溢れていたのです ! 今、バルセロナを旅行する方々にとっては、日本と全く変わらない景色のため、違和感はないのだと思いますが…。

スペ インのポストは黄色、日本は赤。最近では四角型が増えてきているが

今回の里帰りは、SIMカードを交換できるスマホに変えていたので (つい1年半前までは、SIM交換ができない旧式を使用、だったのです) 、バルセロナ到着数日後にはデータ容量の多いSIMカードを購入し、そのデータでネット検索やアプリ通話などができ、「ああ、2019年のバルセロナ滞在では、無料Wi-Fi探しでバルやカフェを転々としたものだったなー。現地の友達のスマホからデータ飛ばしてもらったり…」と、感無量です。

そんな中、今回の筆者の問題は、バッテリー保ちでした。バッテリーチャージャーとライトニングケーブルは必携。そのため、身軽に街を歩きたいのに、バッグが重くなってしまいました。滞在先の美々ちゃんのお家は郊外で、市内に出るには約30分の電車利用、ついその時間にスマホ操作をしてしまいます。

ですが、なんと、カタルーニャ公営鉄道の車両には、各座席にUSBポートがあったのです ! 日本のJR車両、特に新幹線に、そして飛行機などの座席にはもちろんポートがあるタイプが多いのですが、まさかこのローカルなカタルーニャ州の鉄道車両にUSBが付いているとは ! (ただし、新型車両のみで、旧型には付いていませんでしたが)

スペインのガリシア地方のリベイロは盃のようなグラスで、1970年の赤ワインは大きめのグラスで、サングリアには撹拌のためにストローが付いてきたり

2019年の滞在までは、「携行品に注意してね。フッと気を抜いた隙に、テーブルやカウンターに置いたスマホを持っていかれちゃうことあるからね、置き引きに」と言われていたのが、今は町中老若男女、全てがスマホ所持です。それもそのはず、新型コロナ感染症で、リモートワークが増え、外出禁止命令などが厳しかったスペインでは、多くの事務処理や銀行手続き、支払いなどをデジタル化したため、たとえその方が90歳を超えて、スマホ操作が困難であったとしても、スマホアプリからの手続きをせざるを得なくなっていたのです。これにはびっくりでした。

特に驚いたのが、従来ならば市役所に行って、住民票などの書類を発行してもらうのが普通だったのに、感染予防対策のため対面での手続きをしなくなり、代わりに市役所が独自のアプリを構築、それを市民にダウンロードしてもらい、そこから各自が国民身分証明書番号 (日本でいうマイナンバー) を使いパスワードを設定、そこから自分に必要な所得証明や、住民票といった書類をPDFでダウンロードし、さまざまな手続き (これもほとんどデジタルで、ですね) 先に転送する、というものです。

メノルカ島在住の友人家族が金沢に。筆者が向こうに遊びに行くと、「エンサイマーダ」というブリオッシュタイプのパンが振る舞われる。カットはハサミで。この島のあるバレアレス諸島で今も伝わるサンダル、「アバルカス」

日本でいうマイナンバーカードは、DNI (Documento Nacional de Identidad=国民身分証明書) と略されるカードで、もちろん各自携帯することが義務化されていますが、そのカードのチップには、カードの裏表に書かれている個人の氏名や性別、誕生日がインプットされているだけです。書類を作るときにそのカードを読み込めば、カード表面のデータがデジタル化され出てくるため、フォーマットに手書きをしなくて済む、という感じの仕様。外国人の滞在許可証は2019年当時チップは付いておらず、そこに書かれた番号が永久個人番号となります。つまり筆者が学生だった頃も、永住許可を取得したときも、同じ番号、ということです。

日本では現在、その「カード」に免許証や保険証、果ては違反歴、処方薬などといった個人情報を紐づける、と言っていますが、スペインの場合は「番号」への紐付けであり、「カード取得」はプッシュ型、カードにポイントがついてくる、なんていうプロモーションもないわけです。つまり、スペインの場合、「身分証明書カード」を紛失しても、そこには重要なデータは入っていないとのこと。ハッキングテストでも、セキュリティが脆弱だということで、シンプルに、現在の様式になっているとのことです。もちろん保険証も、免許証も、独自に存在し、それぞれの省庁が「国民身分証明書番号」を使って紐付け管理している、ということになります。

ここ金沢では、ご高齢のお友達とお買い物に行く機会が多いのですが、銀行のATM操作はもう慣れたご様子の86歳。それでも、スーパーの自動支払いシステムは「もう覚える気はないわよ」と、有人支払いレジに並びます。スマホは持たれていて、お孫ちゃん、ひ孫ちゃんたちからアプリ経由で写真が届きます。「あ、私もこのアプリ使ってるから、友達になろうね」と、アカウントを交換、日々の連絡事項はアプリです。「耳が遠くなってきたから、文字の方がわかりやすいのよ」と彼女のコメント。……そして20年後の自分を想像します……。

ガウディ作のサグラダファミリア教会も、ペドレラという名 (カサ・ミラ、ミラ邸) の建物も、青い空にとても映える。同時代の建築家ドメネック・イ・ムンタネーのサンパウ病院も美しい

アラ還の筆者、30歳からお仕事はデジタル機器を使用なので、なんとか一般的なものは使えていますが、これからチャットGPTだの、ネットですべて自動完結なお買い物など、覚えられるかしら ? できるもの、できないものが分かれ、このお友達同様、自分の興味のあることだけ習得、となるんじゃないかな、と思います。

2002年にユーロ導入となったヨーロッパで、それまでスペイン通貨は「ペセタ」でした。そのペセタをユーロに換算するトレーニングも、40歳前の柔軟な頭だったので混乱はありませんでしたが、今ならどうでしょうか ? もし現在、新円に切り替わって、1新円を166,384旧円にする、などと言われたら、即座に対応できるでしょうか ? 時間がかかりますよね。結果、ユーロ導入から22年が経ち、今では誰もペセタで考えなくなりました。そうなのです、時間というものは、ある時はのんびりと、ある時はあっという間に物事を変えて行ってしまうのです。

毎月ここに書かせていただいている日本とスペインについてのコラムですが、2016年5月より、日本とスペイン、両国の「ゆとり」について、に始まり、世界遺産の「スペイン巡礼の道」のこと、最近では日本、スペインの知られざる文化、として、「両国の文化比較・魅力」をテーマとして書かせていただきました。あれから8年も経ったのですね ! 文化や風習についてが多かった、文系の筆者ですが、このコラム、実は終盤を迎えていて、最後にちょっと、テクノロジーについても書いてみたかったのです。技術者ではないので、専門的なことをお話しすることはできなかったのですが……

キノコの王様「ロベジョンズ」は丸焼き、アホ・イ・ペレヒール (ニンニクとパセリ) 、オリーブオイル、塩でいただく。ガリシア地方名物の「プルポ・ア・ラ・ガジェガ」は木の平皿に乗り、パプリカ、塩、オリーブオイルで味付け。スペインで流行っている日本のラーメン。枝豆も、たこ焼きも…

ということで、この8年の総まとめとは言えない内容ですが、今月も日本とスペインの違いについてお話ししてみました。また、コラムにはそのテーマに合った写真をお送りしてきたのですが、今回のテーマは画像選びが難しく、今まで使ったことのないスペインの風景や日常、変わったものの画像を使用させていただきますね。

写真キャプションと、本文の内容が合っていない、という珍しいコラムですが、連載もあと残りわずかです。どうかお許しいただければと存じます !

今月のフレーズ

- スペイン語 -
Todo fluye, todo cambia. (トド・フルージェ、トド・カンビア)
全て流れる、全て変わる=万物流転 (諸行無常)