2024/06/11 業界コラム 杉田 美保子 スペインの知られざる文化 No.66 スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師 杉田 美保子 スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。 石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。 京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。 スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。 先月は20代30代の若者の旅行スタイルをご紹介しましたが、今月はスペインの文化を再び。毎年恒例の京都「バルセロナ文化センター」の開館記念およびサンジョルディのお祭りの模様をご紹介します。 バラの花と本のプレゼント交換、昔と今4月23日は、バルセロナの祭日です。でも、祝日とはならないことは、度々ご紹介して来ました。今年も年が明け、能登半島地震の余震もおさまってきたあたりに、早速館長ロサリアからの打診です。今年は4月23日が平日で、それでは前倒しに日曜日に、ということで21日の開催となりました。 毎年バラの花が来場者にプレゼントされる。今年は50本、足りるかな、足りないかな ? 満員だ「ねぇ、美保子、今年もバラの花のワークショップと、イベント進行のお手伝い、してくれるわよね。頼りにしているわ (ハート) 」 「そりゃ、もちろん ! ああ、でもねぇ、1つ問題があるのよ〜。北陸新幹線の敦賀延長に伴って、金沢から京都へ直通で行けたサンダーバードがなくなってしまって、敦賀で乗り換えしなければならないの。うううん、ワークショップの材料も持っていかないといけないし、荷物が大変…。新幹線だから、料金もあがっちゃったし。じゃあ、今回は車で行くことにするわね ! 」と。 どこまでも楽天的な筆者は、みんなが「えー ? 」と言っても、動じません。年末に車検で整備をしてもらっていたので、大丈夫でしょ、と、あくまでも無鉄砲です。ほぼ15万キロ近く走り、かれこれ15年は経っている軽自動車。大丈夫 ? はい。大丈夫 ! と信じましょう。 荷物を積み込み、20日の朝9時ごろ出発。多分220-230キロぐらい走ると到着。途中福井でお昼食べて、琵琶湖近くで休憩して、などワクワクが止まりません。何しろ、バルセロナ時代は2-3週間のまとまった休暇が取れる環境にいたので、キャンプに、郊外に住む友達訪問、フランスまでのドライブなどはかなり経験していたのですが、日本はワーカホリックか、と思うほど長期のお休みが取りにくいので、遠出は久々です。福井の道の駅でソースカツ丼とおろしそばのセットを食べ満足。金沢では買いに行く時間がなかったので福井、滋賀の道の駅でお土産を調達、高速道路を使う気がなかったので下道でチンタラと、京都のバルセロナ文化センターに到着したのは午後5時前。どれだけ寄り道をしたのかはご想像にお任せします。 バルセロナ文化センターではスペイン語のクラスを開催しているため、やはり土曜日の午後の授業は続き、その間に車を駐車し荷降ろし、休憩。午後7時からイベントの準備です。さあ、明日のイベントは10時から ! 早々に引き上げ、翌日に備えたのでした。 始めは緊張している参加者も、和気あいあいと作業を進めていく。ほとんど出来上がった作品が乾くあいだに、コーヒータイムイベント当日は、大阪の「陶芸Tocoton」による「モダニズムトレンカディス」の写真立てを作るワークショップで幕開けです。年々参加者が増え、座るところもないぐらい、盛況でした。空きがあれば、参加して、写真立てをゲット、という筆者の目論見は見事はずれ、それはそれは賑やかな2時間となりました。トレンカディスというのは、アントニ・ガウディの建築作品に使われている手法で、割れて小さくなった陶器 (特にタイル) をモザイクのように組み合わせて行くものです。 決して広くはない文化センター。でもスペインスタイルの立ち飲みコーヒーブレイクには十分なスペース。笑いとおしゃべりが続く当初ガウディがこの手法を取り入れた頃は、「割れたタイル」を利用したようですが、現代では「タイルを割って」作品にする、になっています。一つとして同じピースがないのだから、想像力と創造力を掻き立てる、とてもリラックスした時間が持てますよね。スペインのアートに触れたくなったら、また大阪でお近くの方、工房を訪ねていかれるのも良いのかな、と思います。 スペインでは、お昼ご飯は重要です。その昔、「シエスタ (お昼寝) 」の時間と称して、昼食時間はお店を閉める、という習慣がありました。午後2時から4時まで閉店、という商店が並び、「シエスタの時間は人通りが少ないので、一人で歩いたらダメよ、危ないから」と言われた地区もあったほど。また、小学校などは午後1時から3時までは一時帰宅して、おうちでご飯を食べて、午後3時から授業再開、というのも一般的でした。だんだんと欧米化が進み (一応ヨーロッパですが、スペイン) 、お昼に休業するお店は少なくなりましたが…。 バルセロナ文化センター近くのカレー屋さんでスタッフとのゆっくりとした昼食と歓談の後、午後2時からサテンシルクのワークショップです。 30ミリ、25ミリなど様々なサイズのリボンで、バラの花の大きさが変わる。たくさん作って束ねたり、どうやってまとめようか、それぞれ考え中透明な蓋つきの缶、ガラスの一輪挿し、ココット皿、バスケットなど、各自好きな器に入れ、デコレーション。がぜん想像力がわく毎年折り紙を使うのですが、折り紙でバラ、というのはなかなか難しく、ワークショップが得意の筆者ですら、「折り紙でバラは…」ということで方向転換。雪で引きこもりがちの金沢での練習。不器用な人でもそれなりに、というのは、折り紙と同じなのですが、いえいえ、今回の参加者の方は色や大きさ、本数を増やしたり、などなど、器用な方ばかりで、ワークショッパーとしての役割は果たしていなかったわけです。 講演は1時間、そんな短時間で様々なことを伝えてくれた宇野さん。お子さんを連れての留学、住まい探し、教育の違いなど、来場者はその話にどんどん引き込まれていった午後はサンジョルディのお祭りの由来の説明、カフェタイムにはチェロの演奏会も続きました。時間が押してきた中、午後5時半を過ぎ、「ミランフ洋書店」店長の宇野和美さんが、バルセロナの大学院での生活の楽しかったことや苦労されたこと、翻訳のお仕事のこと、洋書店を開くきっかけなどを講演してくださいました。実際に体験されたお話を聞き、彼女の児童書に対する愛情や、どのようにスペインの書籍を日本語版へと翻訳していかれるのか、という苦労話などが大変よく伝わってきた時間でした。講演を聞きにきてくださった方々からも質問が出て、それに丁寧に、ユーモアを交えて答えてくださった宇野さんでした。 日本で洋書を手に入れるには専門店に行かなければならず、その上、言語がスペイン語、となると、なかなか難しいものがあります。昨今のデジタル書籍、便利になってきたとも思いますが、児童書は違います。一冊の本を手に取り、一枚一枚ページをめくるワクワク感。あれ、なんて書いてあったかな、とページを戻ったり、また進めたり。「あ、今の所絵がよく見えなかった」と絵本の取り合いになったり、もしかしたらページが折れ曲がったり、汚れたりするかも、だけど、実際に手にする本は、中に書いてある文章の意味以上に愛着が湧くものです。 カタルーニャ州のプロモージョンビデオ。長い休みが取れたら、行きたいところばかり、とため息コーヒーブレイクの焼き菓子「コカ」と、チェロの演奏会そんな中、題名に触れますね。「昔と今」です。 イベント半ばで、サンジョルディの日の由来についてのスライドを紹介しました。イベントがあると必ずハプニングというのは付き物なのですが、当日の朝、発表者の声が出ない、という事態が発生してしまったのです。「ねえ、美保子、代役をしてくれない ? 」 「ま、できる限りで良いなら、やってみるわね」とは、あくまでも軽いノリの筆者。「Gràcies, molt bè, Mihoko! (グラシアス、モール・べー、ミホコ) =ありがとう、最高よ、美保子」と満面の笑みのロサリア。 パワーポイントは当日の朝に目を通し、原稿もなく、ぶっつけ本番です。その中で、10年ほどスペインを離れた筆者が「うんうん」と頷いたのは、バラと本のプレゼントの相手です。 その昔は、サンジョルディ当日市場に買い物に行くと、店主からよ、ということで女性買い物客にバラが一本進呈されました。出勤すると、入り口で課長やら部長やら男性社員が女性社員にバラを一本ずつ渡してくれました。通りの店先や歩道に出ているバラ売り場には、男性が「母と、妻と、長女と次女、孫娘にも」と、プレゼント用のバラを買い求める姿が目立ちました。そうです。バラの花は、男性から女性にプレゼントされるというのが一般的だったのです。反対に、女性は本の見本市や書店の棚の前で、「父には小説、旦那には今流行りのアウトドアの本、息子にはこの絵本かな」などと、数冊の本を買い、レジに。そうです。本は、女性が男性にプレゼントするアイテム、というのが主流だったのです。 それが、今や男女問わず、本とバラはお互いの性に関係なくプレゼントされるものへと変わりつつある、というのです。女の子だって、勉強したい、であったり、本を読んで知識を得たい、というポスターが貼られたり、男の子がバラの花を愛でている写真だったりが目に付くようになりました。そうなんです。多様性、ということなんですよね。日本で根付いたバレンタインチョコ、女性が男性にプレゼントする、という習慣が、「自分の好きなチョコを自分に」と変わってきたこと同様に、サンジョルディのバラと本も、お互い好きなものをプレゼントする、という風習に変わってきたというのです。 サンジョルディの焼き菓子を作ってくれた、レストランティオペペのオーナーの、火災した店舗復興のためのサプライズオークション。なぜか筆者が再び司会…バルセロナ文化センターの入り口では、終日「古書店エルカミノ」の店長さんが、スペイン、スペイン語、カタルーニャ地方に関連した古書を展示、販売してくれました。 窓辺のバラの花、そして本の販売、京都にいながらにして、バルセロナの街角を彷彿とさせる、素敵な空間が出来上がりました。来年もまた、4月23日が近くなったら、このイベントのことを思い出し、足を運んでくだされば幸いです。 「バルセロナ文化センター Facebook」 (4月23日) にも記事が掲載されていますのでご覧ください。 センター入り口でエルカミノ書店の本の販売、バラの花が窓辺に。やはりサンジョルディにはどちらも欠かせない今月のフレーズ - カタラン語 - Gràcies, molt bé, Mihoko! (グラシアス、モール・べー、ミホコ) 「ありがとう、最高よ、美保子」 - スペイン語 - ¡Gracias, muy bien, Mihoko! (グラシアス、ムイ・ビエン、ミホコ) 「ありがとう、最高よ、美保子 」 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師 杉田 美保子さんのその他の記事 2024/10/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.70 2024/09/10 業界コラム スペインの知られざる文化 No.69 2024/08/07 業界コラム スペインの知られざる文化 No.68 2024/07/09 業界コラム スペインの知られざる文化 No.67 2024/06/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.66 2024/05/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.18 2024/04/09 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.17 2024/03/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.16 2024/01/10 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.15 2023/12/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.14 2023/11/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.13 2023/10/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.65 2023/09/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.64 2023/07/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.12 2023/06/13 業界コラム スペインの知られざる文化 No.63 2023/05/09 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.11 2023/04/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.10 2023/03/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.9 2023/02/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.8 2023/01/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.7 2022/12/13 業界コラム スペインの知られざる文化 No.62 2022/11/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.61 2022/10/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.60 2022/09/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.59 2022/08/09 業界コラム スペインの知られざる文化 No.58 2022/07/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.6 2022/06/14 業界コラム スペインの知られざる文化 No. 57 2022/05/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.56 2022/04/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.55 2022/03/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.54 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月