スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師

杉田 美保子

スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。
石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。
京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。

スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。

先月は20代30代の若者の旅行スタイルをご紹介しましたが、今月はスペインの文化を再び。毎年恒例の京都「バルセロナ文化センター」の開館記念およびサンジョルディのお祭りの模様をご紹介します。

バラの花と本のプレゼント交換、昔と今

4月23日は、バルセロナの祭日です。でも、祝日とはならないことは、度々ご紹介して来ました。今年も年が明け、能登半島地震の余震もおさまってきたあたりに、早速館長ロサリアからの打診です。今年は4月23日が平日で、それでは前倒しに日曜日に、ということで21日の開催となりました。

毎年バラの花が来場者にプレゼントされる。今年は50本、足りるかな、足りないかな ? 満員だ

「ねぇ、美保子、今年もバラの花のワークショップと、イベント進行のお手伝い、してくれるわよね。頼りにしているわ (ハート) 」

「そりゃ、もちろん ! ああ、でもねぇ、1つ問題があるのよ〜。北陸新幹線の敦賀延長に伴って、金沢から京都へ直通で行けたサンダーバードがなくなってしまって、敦賀で乗り換えしなければならないの。うううん、ワークショップの材料も持っていかないといけないし、荷物が大変…。新幹線だから、料金もあがっちゃったし。じゃあ、今回は車で行くことにするわね ! 」と。

どこまでも楽天的な筆者は、みんなが「えー ? 」と言っても、動じません。年末に車検で整備をしてもらっていたので、大丈夫でしょ、と、あくまでも無鉄砲です。ほぼ15万キロ近く走り、かれこれ15年は経っている軽自動車。大丈夫 ? はい。大丈夫 ! と信じましょう。

荷物を積み込み、20日の朝9時ごろ出発。多分220-230キロぐらい走ると到着。途中福井でお昼食べて、琵琶湖近くで休憩して、などワクワクが止まりません。何しろ、バルセロナ時代は2-3週間のまとまった休暇が取れる環境にいたので、キャンプに、郊外に住む友達訪問、フランスまでのドライブなどはかなり経験していたのですが、日本はワーカホリックか、と思うほど長期のお休みが取りにくいので、遠出は久々です。福井の道の駅でソースカツ丼とおろしそばのセットを食べ満足。金沢では買いに行く時間がなかったので福井、滋賀の道の駅でお土産を調達、高速道路を使う気がなかったので下道でチンタラと、京都のバルセロナ文化センターに到着したのは午後5時前。どれだけ寄り道をしたのかはご想像にお任せします。

バルセロナ文化センターではスペイン語のクラスを開催しているため、やはり土曜日の午後の授業は続き、その間に車を駐車し荷降ろし、休憩。午後7時からイベントの準備です。さあ、明日のイベントは10時から ! 早々に引き上げ、翌日に備えたのでした。

始めは緊張している参加者も、和気あいあいと作業を進めていく。ほとんど出来上がった作品が乾くあいだに、コーヒータイム

イベント当日は、大阪の「陶芸Tocoton」による「モダニズムトレンカディス」の写真立てを作るワークショップで幕開けです。年々参加者が増え、座るところもないぐらい、盛況でした。空きがあれば、参加して、写真立てをゲット、という筆者の目論見は見事はずれ、それはそれは賑やかな2時間となりました。トレンカディスというのは、アントニ・ガウディの建築作品に使われている手法で、割れて小さくなった陶器 (特にタイル) をモザイクのように組み合わせて行くものです。

決して広くはない文化センター。でもスペインスタイルの立ち飲みコーヒーブレイクには十分なスペース。笑いとおしゃべりが続く

当初ガウディがこの手法を取り入れた頃は、「割れたタイル」を利用したようですが、現代では「タイルを割って」作品にする、になっています。一つとして同じピースがないのだから、想像力と創造力を掻き立てる、とてもリラックスした時間が持てますよね。スペインのアートに触れたくなったら、また大阪でお近くの方、工房を訪ねていかれるのも良いのかな、と思います。

スペインでは、お昼ご飯は重要です。その昔、「シエスタ (お昼寝) 」の時間と称して、昼食時間はお店を閉める、という習慣がありました。午後2時から4時まで閉店、という商店が並び、「シエスタの時間は人通りが少ないので、一人で歩いたらダメよ、危ないから」と言われた地区もあったほど。また、小学校などは午後1時から3時までは一時帰宅して、おうちでご飯を食べて、午後3時から授業再開、というのも一般的でした。だんだんと欧米化が進み (一応ヨーロッパですが、スペイン) 、お昼に休業するお店は少なくなりましたが…。

バルセロナ文化センター近くのカレー屋さんでスタッフとのゆっくりとした昼食と歓談の後、午後2時からサテンシルクのワークショップです。

30ミリ、25ミリなど様々なサイズのリボンで、バラの花の大きさが変わる。たくさん作って束ねたり、どうやってまとめようか、それぞれ考え中
透明な蓋つきの缶、ガラスの一輪挿し、ココット皿、バスケットなど、各自好きな器に入れ、デコレーション。がぜん想像力がわく

毎年折り紙を使うのですが、折り紙でバラ、というのはなかなか難しく、ワークショップが得意の筆者ですら、「折り紙でバラは…」ということで方向転換。雪で引きこもりがちの金沢での練習。不器用な人でもそれなりに、というのは、折り紙と同じなのですが、いえいえ、今回の参加者の方は色や大きさ、本数を増やしたり、などなど、器用な方ばかりで、ワークショッパーとしての役割は果たしていなかったわけです。

講演は1時間、そんな短時間で様々なことを伝えてくれた宇野さん。お子さんを連れての留学、住まい探し、教育の違いなど、来場者はその話にどんどん引き込まれていった

午後はサンジョルディのお祭りの由来の説明、カフェタイムにはチェロの演奏会も続きました。時間が押してきた中、午後5時半を過ぎ、「ミランフ洋書店」店長の宇野和美さんが、バルセロナの大学院での生活の楽しかったことや苦労されたこと、翻訳のお仕事のこと、洋書店を開くきっかけなどを講演してくださいました。実際に体験されたお話を聞き、彼女の児童書に対する愛情や、どのようにスペインの書籍を日本語版へと翻訳していかれるのか、という苦労話などが大変よく伝わってきた時間でした。講演を聞きにきてくださった方々からも質問が出て、それに丁寧に、ユーモアを交えて答えてくださった宇野さんでした。

日本で洋書を手に入れるには専門店に行かなければならず、その上、言語がスペイン語、となると、なかなか難しいものがあります。昨今のデジタル書籍、便利になってきたとも思いますが、児童書は違います。一冊の本を手に取り、一枚一枚ページをめくるワクワク感。あれ、なんて書いてあったかな、とページを戻ったり、また進めたり。「あ、今の所絵がよく見えなかった」と絵本の取り合いになったり、もしかしたらページが折れ曲がったり、汚れたりするかも、だけど、実際に手にする本は、中に書いてある文章の意味以上に愛着が湧くものです。

カタルーニャ州のプロモージョンビデオ。長い休みが取れたら、行きたいところばかり、とため息
コーヒーブレイクの焼き菓子「コカ」と、チェロの演奏会

そんな中、題名に触れますね。「昔と今」です。

イベント半ばで、サンジョルディの日の由来についてのスライドを紹介しました。イベントがあると必ずハプニングというのは付き物なのですが、当日の朝、発表者の声が出ない、という事態が発生してしまったのです。「ねえ、美保子、代役をしてくれない ? 」

「ま、できる限りで良いなら、やってみるわね」とは、あくまでも軽いノリの筆者。「Gràcies, molt bè, Mihoko! (グラシアス、モール・べー、ミホコ) =ありがとう、最高よ、美保子」と満面の笑みのロサリア。

パワーポイントは当日の朝に目を通し、原稿もなく、ぶっつけ本番です。その中で、10年ほどスペインを離れた筆者が「うんうん」と頷いたのは、バラと本のプレゼントの相手です。

その昔は、サンジョルディ当日市場に買い物に行くと、店主からよ、ということで女性買い物客にバラが一本進呈されました。出勤すると、入り口で課長やら部長やら男性社員が女性社員にバラを一本ずつ渡してくれました。通りの店先や歩道に出ているバラ売り場には、男性が「母と、妻と、長女と次女、孫娘にも」と、プレゼント用のバラを買い求める姿が目立ちました。そうです。バラの花は、男性から女性にプレゼントされるというのが一般的だったのです。反対に、女性は本の見本市や書店の棚の前で、「父には小説、旦那には今流行りのアウトドアの本、息子にはこの絵本かな」などと、数冊の本を買い、レジに。そうです。本は、女性が男性にプレゼントするアイテム、というのが主流だったのです。

それが、今や男女問わず、本とバラはお互いの性に関係なくプレゼントされるものへと変わりつつある、というのです。女の子だって、勉強したい、であったり、本を読んで知識を得たい、というポスターが貼られたり、男の子がバラの花を愛でている写真だったりが目に付くようになりました。そうなんです。多様性、ということなんですよね。日本で根付いたバレンタインチョコ、女性が男性にプレゼントする、という習慣が、「自分の好きなチョコを自分に」と変わってきたこと同様に、サンジョルディのバラと本も、お互い好きなものをプレゼントする、という風習に変わってきたというのです。

サンジョルディの焼き菓子を作ってくれた、レストランティオペペのオーナーの、火災した店舗復興のためのサプライズオークション。なぜか筆者が再び司会…

バルセロナ文化センターの入り口では、終日「古書店エルカミノ」の店長さんが、スペイン、スペイン語、カタルーニャ地方に関連した古書を展示、販売してくれました。

窓辺のバラの花、そして本の販売、京都にいながらにして、バルセロナの街角を彷彿とさせる、素敵な空間が出来上がりました。来年もまた、4月23日が近くなったら、このイベントのことを思い出し、足を運んでくだされば幸いです。

バルセロナ文化センター Facebook」 (4月23日) にも記事が掲載されていますのでご覧ください。

センター入り口でエルカミノ書店の本の販売、バラの花が窓辺に。やはりサンジョルディにはどちらも欠かせない

今月のフレーズ

- カタラン語 -
Gràcies, molt bé, Mihoko! (グラシアス、モール・べー、ミホコ)
「ありがとう、最高よ、美保子」

- スペイン語 -
¡Gracias, muy bien, Mihoko! (グラシアス、ムイ・ビエン、ミホコ)
「ありがとう、最高よ、美保子 」