スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師

杉田 美保子

スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。
石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。
京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。

スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。

11月、日本同様、バルセロナも秋です。ここ最近は春と秋が極端に短くなり、年中Tシャツに、素足でサンダル、なんて人も多く、それに着脱可能なセーターやジャケットをまとい、行動です。

筆者がバルセロナ最後の秋を過ごしたのは2014年、ちょうど10年経ちました。1988年に初めてバルセロナ居住を始めた頃は (もう36年前のことになっちゃうのですね…) 、まだ春も秋もはっきりと存在していたような気がして、街角に焼き栗と焼き芋の出店が出ると、その香ばしい匂いに、ポケットから手を出して、お財布を探したものです。

秋の味覚、おんなじ

ここ近年、日本在住が長くなったので、人間関係も広がってきています。「誰も耕やさないと、あっという間に荒地になっちゃうから」と、田んぼの真ん中の畑を使わせてもらい、実験とも言える、まるで草原のような畑で細々お野菜を作り、という生活も、かれこれ4年になるでしょうか。この畑の持ち主さんは若い時に栗の木を植えた、というので、毎年たくさんの秋の味覚、栗をくださいます。

修行とも呼べる鬼皮剥き3時間。ながら作業も慣れてきた頃、終了

「今年は木が老いたのか、あまりならなかったわ」という畑の持ち主さんが、「私は食べないから、美保子ちゃん持って行って」と持たされた栗を剥き、3時間後の計量

栗、というのは、小さい頃、電車に乗った時に買ってもらった天津甘栗、ケーキ屋さんのモンブラン、ちょっとおしゃれなマロングラッセ、ぐらいしか食べたことのなかった筆者は、大量の栗に大興奮 ! さて、どうやって食べようか、という実験です。

アク抜き、渋皮のお掃除、煮付け後

バルセロナでは、ドラム缶のような屋台の、炭火焼きの焼き栗しか食べたことがなく、自分で調理することがなかったのは、やはり熱々を新聞紙に包んでもらって、寒い中を歩きながら食べる、というのが楽しかったからでしょうか ?

タラのフリッター、マドレーヌ、どちらも友人たちが作ったものだが、もし店頭に並んで売られていれば、数量でも、数でも購入できる。ほとんどの場合、表示価格はキロ単位

「Una docena, por favor. (ウナ・ドセーナ、ポル・ファボール (スペイン語) =1ダース (12個) お願いします) 」

そうです、日本の日常生活では、鉛筆ぐらいしかダースを思い浮かべませんが、スペインでは卵、小ぶりの野菜、小さいパンやお菓子などを買う時、お魚屋さんでエビを買ったりする時に便利な言葉です。グラム数では想像できないけれど、パエリヤに何尾エビを使うか、わかっている時に役立ちます。また、「Media docena (メディア・ドセーナ) 」と言えば、1ダースの半分、6つを包んでくれます。もちろん、スーパーでの卵のパック売りも、6個入りと12個入りの二種類があります。日本では卵パックは10個入り、というのが主流なので、これも文化の違いでしょうね。

さて、栗ですが、大量にいただくことになった去年から、渋皮煮にしていただく、ということにしています。今年は2キロ弱を3回いただき、毎回鬼皮剥きで夜なべです。撮り溜めビデオを見ながら、友人と電話でおしゃべりしながら、動画で聞き流し学習をしながら、毎回3時間。その後にアク抜き、これが台所での作業で約1時間、冷めたら渋皮の掃除、1時間。そしてやっと調理です。どうしてマロングラッセがあんなに高級なのか、ということを学んだ秋ですね。そして、鬼皮剥きに失敗し、破れてしまった栗は、残念ながらアク抜きと掃除の間に爆発してしまうので、別にして、渋皮を剥いて栗ごはんです。ただ、この渋皮剥きが大変で…。多分、来年からは、どなたかからのお裾分けを、首を長く待つことになるでしょう。

11月1日は、諸聖人の日と呼ばれ、サツマイモ、栗、松の実で作った焼き菓子などで祝われる

秋の味覚、というと、やはりサツマイモなのですが、これもスペインでは焼き芋が主流、もしくはスイートポテトなのですが、日本ではおかずとして料理されますよね。このコラムは、スペインと日本の違い、をご紹介するスペースなのですが、実は日本国内でも違いがあるのをご存知でしたか ?

金沢では (多分石川県全般だと思いますが) 、豚汁 (トンジル) にサツマイモが入っていると、「めった汁 (メッタジル) 」という名称になります。具は自由ですが、サツマイモが入る場合にこう呼びます。というか、豚汁には通常さつまいもを入れる、という感じが正解なのでしょうか ? バルセロナの市民文化センターで日本のお料理のワークショップを担当していた頃は、このめった汁ももちろんレシピに加えていました。「お寿司とお刺身、天ぷらだけが日本のお料理ではないのよ ! 」という、父は能登、母は金沢出身、というアイデンティティーの表現だったのでしょうか ?

この、アイデンティティーというのも、スペイン人は重要視します。「私は、バルセロナ育ちだけど、先祖代々アンダルシア地方出身よ」であったり、「生まれも育ちもカタルーニャ州よ」など、単に「スペイン人」という国籍だけでは表現しないのが驚きでした。「私は日本人です」というと必ず、「日本のどこ ? 」と。

今でこそ、新幹線が東京から直通になり、海外からの旅行者が金沢を埋め尽くし、「Kanazawa」も知る人ぞ知る、になってきましたが、その昔は「ううううん、日本の本州があってね、この日本海側の能登半島のふもと、ここが金沢。日本の真ん中よ」と絵に書いて説明したものです。スマホ検索なんて、あの当時、なかったですものね。確かに、スペインの地方地方に、言語や文化、かなりの違いがありますから、これは日本にも通じるものがありますよね。

さつまいもも、栗も、こんな暖炉で焼けば美 味しそうなのだが日本ではなかなか難しい

ということで、秋の味覚、「栗」に始まり、「アイデンティティー」にまで飛んでしまいましたが、日本とスペイン、似ているところもあれば、違うところもある、ということがお伝えできたなら幸いです。

今月のコラムですが、テーマが秋になってしまい、夏休みの画像が使えない事態になってしまいました。筆者の写真がデジタル化されるようになった2002年以降のファイルに目を通し、いい感じのものを選んでみました。その検索の中で、「あ、このお話はしていなかった」、「あ、こういうこともあったんだ、そういえば」という画像を見てしまい、次回また、それらのテーマを総括して、2024年の締めくくりにしたいな、と思っております。

「良くもまあ、あれこれテーマが出てくるなあ」とも思ったり、「読んでくださっている方々、楽しんでいただいているかなぁ」など、毎月思い出に浸らせていただいています。もし、バルセロナのことで何かご質問などあれば、ぜひお答えしたいのですが、いかがでしょうか ?

日本の食のアイデンティティー、巻き寿司のワークショップ。筆者は楽しむことが好きなので、生徒さんほど真面目ではない、というひとコマ

ということで、スペインのこの時期、秋から冬にスペインで好まれるスイーツを画像でお送りします。作者はお馴染みエリセンダさん。手先が器用で小物作りが得意、もちろんお料理も大好き。今年の10月31日、アメリカではハロウィンが有名ですが、スペインは死者の日、そして11月1日には「諸聖人の日」、と続きます。パネジェッツ (Panellets=マジパンや松の実などで作られるスイーツ) 。今年はメキシコ由来の「死者のパン」Pan de muertoにも挑戦したということで、写真を送ってもらいました。骨の形を模した甘いパン、これをお供えするのだそうです。日本で暦が変わり、季節のお菓子があるのと同じように、他国でもその時期にちなんだお菓子がたくさん登場するのです。

インスタのストーリーズには、カボチャのシルエットでアレンジした写真を。右上がメキシコ伝統の「死者のパン」で、右下がパネジェッツ。コーヒーで食す人もいれば、甘いリキュールと頂く人も

では、今月のフレーズです。スペイン語にご旅行の際のお買い物に、使ってみてくださいね。品物の名前が分からなくても、指差しでOKですよ。万国共通ですね。

今月のフレーズ

- スペイン語 -
Una docena, por favor. (ウナ・ドセーナ、ポル・ファボール)
「1ダース (12個) お願いします」

- スペイン語 -
Media docena, por favor. (メディア・ドセーナ、ポル・ファボール)
「半ダース (6個) お願いします」