スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師

杉田 美保子

スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。
石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。
京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。

スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。

6月 ! 夏がやって来ました !
というふうに考えるのは、バルセロナという地中海気候の穏やかな町で過ごして来た時間が長いからでしょうか ?
今月は、昔のアーカイブから引っ張り出してきた、日本では一足早いのですが、夏の休暇風景をご覧いただきます。さて、こんなに楽しくて大丈夫 ? と言うお話をしましょう。

五月病って、日本だけ ?

もうかれこれ五年前になりますが、スペイン人たちの夏の過ごし方を紹介しました。新型コロナウィルス感染症対策が大幅に緩和されたスペインでは、今年の夏も同じようなバカシオネス(vacaciones=休暇)が過ごされることでしょう。短い人で3週間、長いと4週間の連続した夏の休暇は、年に3回ある休暇のうちでも、最も開放的で、リラックスできる時間を過ごすことができるのです。子供達に至っては、ほぼ3ヶ月の暑い夏を、海や山で過ごすのですから、もう羨ましい限りですよね。

七月終わりの湿度と気温。カラッとしている
セカンドハウスの窓からは、海が見える

そんな中、スペイン人たちの休暇後はどんなものか、も気になりますよね。日本にも、日数だけを数えると、スペインと大して変わらない有給休暇があると聞いたことがあります。唯一の違いは、日本では職場自体が休暇閉鎖をしない限り、10日間の長期休暇は取りにくい、という習慣があることでしょうか。毎年、ゴールデンウィークに海外へ旅行するカップルや家族たちがインタビューに答えているシーンをテレビで見ますが、まだまだ日本では長期休暇が取りづらいのも事実ですよね。

以前にも紹介したかもしれ ない、El Port de la Selvaの村の海岸。砂では ないので、日光浴の後も楽

さて、シンドロメ・ポスバカシオナル(Síndrome postvacacional=休暇後シンドローム)なるものがちゃんと存在します !
なんと、これが日本語で言うところの五月病、に当たります。日本の五月病というのは、四月からの新年度を慣れない業務や習慣に従って働いたり就学した人が、ゴールデンウィークという長い休暇が終わった後に、体調不良や精神的・神経的な不調を表す、ということで、「五月」病なのですが、やはりスペイン語に直訳するわけにはいきませんよね。なにしろ、スペインの新年度は四月ではないからです。

スペインの学校は九月後半または十月に始まるのが普通ですので、この休暇後シンドロームは、この学期開始とは関係なさそうです。職場においては、四月入社、という年度始めの入社というシステムも一般的ではなく、人員を補充するときが、新入社員の入社となり、それと年度とは関係ありません。そうすると、もちろん入社式なんてものも存在しないのです。

ボートから見た村と、ボートでじゃないと行けない小さな洞窟

ですので、スペインの「五月病」は、楽しい長期休暇から戻り、現実世界に戻った時のギャップによって起こるのが一般的なのです。また、夏休みは職種にもよりますが、六月から九月までの好きな時期にまとめてとるので、日本のようにゴールデンウィーク後、とは決まっていないのが、この五月病を直訳できない理由でもありますね。筆者が会社員だったときには、出版していた映画雑誌、文芸誌、歴史雑誌の八月号は極端にページ数が減り、九月号や十月号は前倒しで記事を用意し、六月から九月までに社員がきちんと長期休暇を取れるようになっていました。ただ、月に一回印刷所への入稿作業があるため、3週間以上の連続休暇は遠慮してほしい、という暗黙の了解があり、2週間とって、1週間の締め切り週に出勤、その後1週間の休暇を取り直す人もいたり、ローテーションで休暇を取っていました。

親友のPさんは、今でこそ勤務している学校の責任者をしていて、学校が終わった六月、七月も実務的な仕事があるのですが、それでも八月はしっかり一ヶ月の休みを取ります。海や山にセカンドハウスを持っている家族も多く、週末はもちろんのこと、長期休暇もそこで過ごすというのも一般的で、毎日海や山でリラックスします。朝起きて新聞を買いに行き、それをカフェのテラスでコーヒーとクロワッサンを食べながらゆっくり読み、ビーチへ降りて日光浴や昼寝、読み残しの新聞を読んだり。15時ごろにセカンドハウスに戻り、お昼ご飯。夏は21時過ぎても明るいので、昼寝をしたり、近所に散歩に出たり、ちょっと遠出したり。ああ、それが一ヶ月 !
なにしろ羨ましい限りですね。

Sant Pere de Rodes(サン・ペラ・ダ・ローダス)の修道院も、巡礼の旅の通過点の一つ。「フランスの道」のように有名ではないが、なにしろどこからでも歩いて、サンティアゴ・デ・コンポステーラに向かえる
海水浴に飽きたら、ちょっと遠出。Port Lligat(ポルト・リガット)のダリの生家美術館への途中、アリの動きとサボテン、ついレンズを向けた

さて、今年の夏ですが、五月にスペイン人の友達から、「夏に日本に行きたいから ! また金沢を案内してね !」という話がちらほら届くのですが、その後、通信が途絶えています…。どうしたのかな、来ないのかな、と思っていたら、ニュースが飛び込んできました。もうかれこれ三年になりますが、今年の夏の新型コロナ感染症対策は、外国からの日本入国はパッケージツアー客のみ、ということになっているのだそうです。ヨーロッパではすでに4回のワクチン接種が普通となり、その証明に加え、出国、入国時にそれぞれ陰性証明書を取り、というのが五月までの感染対策だったのが成田や羽田、関空だったのですが、それが緩和されたものの、三年前までのように自分でチケットを取って、金沢に10日滞在する、なんていう自由な旅行はできないようなのです。

ダリの生家美術館は、フィゲラスのダリ美術館とは一味違い、屋外の作品も景色に馴染んでいる

ああ、いつになったらバルセロナに里帰りができるのか…。今年も我慢の一年となりそうです。

では、過去に夏の友達のセカンドハウスに滞在したときの画像をお届けしますね。こんな非日常を過ごして、都会の喧騒に戻ると、やっぱり休暇後シンドロームに陥ってしまうのは、十分理解できます。そんな中、色々調べてみると、このシンドロームにかからないようなアドバイスが載っていました。

この休暇後シンドロームは、楽しい休暇での体験と、その後の現実の生活とのギャップにおいて、元の生活に戻るための対応に何らかの問題が起き、気分が沈んだり、気力が低下するのが一般的である。ほとんどの場合、45歳までの若者に謙虚に現れ、その症状は疲労、無気力、睡眠不足、筋肉痛、食欲不振、焦燥感、悲観的・ナーバスになる、など多岐にわたる。子供が学校に戻る時期にも起こることがあるが、学校好きの子供にはあまり見られない症状である。

この症状の専門家は、元の生活に戻る2日前には休暇先から戻り、日常への生活リズムを戻すための十分な時間を取ることが望ましいと言う。食事時間や就寝時間、起床時間なども、少しずつ元に戻していくこと。また、日常生活の中に、仕事の支障とならない程度のレジャーの時間を取り入れ、休暇前のルーティンを徐々に取り戻すことが重要。楽観的でポジティブな行動も、この症状を早く取り去るのに有益である

生家は小さな湾にある。開放的、独創的、かつ、触れることのできる作品もある

はい、了解です !
あとは、3週間の休暇さえ取れれば、バッチリ、この休暇後シンドロームに打ち勝つことができます !

…あああ、そんな休暇、どこから降って湧いてくるのだろう !

今月のフレーズは
Anda, ¡relájate!. (アンダ、レラハテ)
「さあ、リラックスして !」