スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師

杉田 美保子

スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。
石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。
京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。

スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。

2023年の酷暑には辟易し、さて、秋が到来です。今日は、久しぶりに「スペイン巡礼の道」のお話をしますね。新型コロナ感染症の扱いも2類から5類に移行し、全国の様々なイベントが再開、そして海外にも遊びに行きやすくなりました。でも、でも、でも、為替は日本円には優しくなく、昔日のように気軽に国外に旅行できなくなってきているのも事実ですね。でも、巡礼の道には今日もたくさんの巡礼者がサンティアゴ・デ・コンポステーラを目指し歩いています。

サント・ドミンゴ・デ・カルサーダからベロラード (22,7km) を歩いている途中の案内板。カスティーリャ・イ・レオン州のサンティアゴ巡礼の道が詳しく載っている

「いつか歩くぞ ! 」という計画だけでも楽しい

結果的に、スペインも酷暑に見舞われた2023年夏ですが、7月末時点ではこんな厳しい夏が来るなんて、想像もしていませんでしたね。そんな中、京都バルセロナ文化センターでは「サンティアゴ巡礼の道」についてのイベントが行われました。テーマは「ガリシア観光とスペイン巡礼の道」、久留米大学経済学部の畠中昌教准教授がお話しされました。

畠中先生によるガリシア地方の講演。巡礼に興味のある方がたくさん集まった

畠中先生はサンティアゴ・デ・コンポステーラの大学に留学・在籍した経験があり、この大聖堂の見えるアパートに2年間居住。リュックサックを背負い、杖を片手に到着する数々の巡礼者たちを日々見てきた、と言います。巡礼の道の途中にある村でではなく、大聖堂に到着した、それも最低100キロは徒歩で移動したであろう巡礼者たちとすれ違ってきたのです。専門分野は経済ですが、それに観光のもたらす効果を含めて考察された講演会は、座るところがないほどの来場者を集めました。

講演の内容は多岐にわたり、スペインの観光一般に始まり、ガリシア州の歴史や建築、観光の見所、またそこに住んでみての経験談など。スペインといえば、フラメンコに闘牛、パエリアにサッカー、ガウディの建築、と言ったスポット的な情報が多い中、ガリシア地方に焦点を当てたお話はとても興味深いものがありました。ただ、スタッフとして参加の筆者は、会場の中で次々と場所を移動し、お話をじっくり聞けなかったことが悔やまれます。ぜひまたいつかお会いできれば、と。

巡礼に必要なCredencial (クレデンシャル、巡礼手帳) には、通過地点で日付と印章をもらい、確かに通過したという証明をしなければならない。一度に全行程を歩く必要はないし、スペースが足りなくなったら新たな手帳をもらい、巡礼を続けることもできる

実は私、過去4回に渡りトータル600kmほどスペインの巡礼の道を歩いたのですが、まだ最終地点のサンティアゴ・デ・コンポステーラの大聖堂には到達できずにいます。この大聖堂には、1988年に渡西した時に観光で行ったことがあるのですが、当時は22歳の右も左もわからない若造で、巡礼の道があるなんてことも知らなかったわけです。いかになんの情報も、興味も持たずして異国に渡ってしまったのか、がバレてしまいますね。というわけで、知らずに巡礼最終地点の大聖堂でお参りしてしまったため、現在そのルートを修正すべくいつの日か巡礼として徒歩でコンポステーラに到達したいと夢見ているわけです。

文化センタースタッフのLoliさんはガリシア地方出身。講演会では参加者からの質問にも答え、ますます巡礼に行きたくなった人が増えた

ガリシア地方もスペインの他の地方同様、多種多様な文化や習慣、言葉があります。「日本」「スペイン」という全体としてのイメージだと、「サムライ、富士山、寿司」「フラメンコ、サッカー、パエリア」なんてことになってしまうのですが、日本もスペインも広い広い。地方ごとに特色、文化、言葉が違うわけで、そこが旅行の醍醐味となるのですよね。

熱心にメモを取ったり、身を乗り出して聞き入る参加者。講演会の後も質問が続々

バルセロナも他の大都市同様、様々な国や地方から移住してきた人がたくさんいます。半世紀以上前にガリシア、バレンシア、バスク、アンダルシアなどの地方から移り住んだ人々の子どもたちにとって、「ふるさと」は地方都市だったりもします。生粋のカタルーニャ人の友人もいますが、圧倒的に地方出身者が多いのも、大都市の特徴です。筆者の親しい友人にもガリシア地方出身者がいて、食事に招かれるたびにその違いに驚いたりしました。同じスペイン人なのに、料理法も違えば、パンの好みもワインの好みも、そしてデザートの好みも違うのですから。

レストランTío Pepeのシェフが用意してくれたTarta de Santiago。火災に遭い、現在は休業中だが、このスイーツも絶品。参加者たちは早い復興を祈って、舌鼓を打った

ガリシアは大西洋に面していて、位置的にはイギリスを南下して海を渡ったところでぶち当たる、スペインの北西の角っこの地方、となります。近年スペインでも海藻が脚光を浴びつつあるのですが、これはガリシア地方で採取されます。また、スイーツとしては「フィジョア (Filloa) 」があります。これはフランスでは「クレープ」、イギリスでは「パンケーキ」と呼ばれるもので、バルセロナではあまり見かけることはありません。

Tarta de Santiago (タルタ・デ・サンティアゴ、サンティアゴタルト) というデザートを忘れてはいけません。こちらは小麦粉ではなく、アーモンドパウダーがベースとなった焼き菓子で、パウダーシュガーを使い、表面に聖ヤコブ十字 (Cruz de Santiago、クルス・デ・サンティアゴ) を浮かせます。生地自体はアーモンドパウダーに卵、砂糖、おろしたレモンの皮を混ぜてオーブンで焼く、というもので、しっとりとした焼き上がりが特徴です。バルセロナのレストランのデザートリストにも載るほど、スペインでも知名度は高いので、一度トライしてみてください。

そこで話が飛ぶのですが、スペインの友人たちに持っていくと感動される日本のお菓子、なんだかわかりますか ? なんとポルトガル伝来と言われている「カステラ」です。あのふわふわした食感が「おおお ! 」と言わしめるのです。またその語源もスペイン語の「Castilla (カスティーリャ)=中世にあった地域名、現在も現存する州の名前」からきている可能性がある、など、カステラひとつ取っても、話が尽きませんね。

本題に戻り…
そんな講演会の最後、筆者は「日本カミーノ・デ・サンティアゴ友の会」を紹介する事になりました。バルセロナ滞在中、巡礼の道を歩く前に情報をもらいに行ったのが、やはり「Associació d’Amics dels Pelegrins A Santiago-Barcelona」。さすがにスペインには数々の友の会や協会があるため、自宅から徒歩15分で行ける気楽さがありがたかったです。でもここは日本。言葉も違えば、出発地点に移動するのも何十時間とかかる、異国の地。

あまり人前で話すことに慣れていない筆者だが、話し出すと止まらない…。つい、自分の経験談も話してしまった

「巡礼の道を歩きたい ! 」となったらどうするか ? 大丈夫です。日本で、日本語で情報をもらえるんです。巡礼に関するキーワードも教えてもらえるんです。行けるんです、巡礼 !

日本カミーノ・デ・サンティアゴ友の会より貸していただいたクレデンシャルや巡礼の印である帆立貝、そして無事サンティアゴに到達した際にもらえる巡礼証明書の展示もあり、ますます旅に出たくなった参加者も多かっただろう

私はこの友の会の関係者ではないのですが、今回この会のプレゼンテーションをするにあたり、ホームページを見てみました。内容は至れり尽くせりで、様々な情報が載っていました。巡礼を始めて1日目に失敗するのが靴選びやリュック選びだったりします。巡礼中に靴が合わず擦りむけて歩けなくなったり、荷物が重すぎて肩が擦りむけたり、なんていう状況を数々見てきました。やはり準備は重要です。そんなチャンスを提供してくれるのがワンデーカミーノというシステム。春と秋に計画されるこのイベントで、靴慣らし、荷物の重量の確認などができるのは嬉しいですよね。また、巡礼についての説明会や講座も定期的に開催され、貴重な情報、巡礼経験者の生の声に触れることもできます。

円安がおさまらないと、なかなか海外には行けない昨今ではありますが、「いつか歩くぞ ! 」という決意を胸にすれば、その計画を練ること自体、ワクワクしますよね。どうぞそんな気持ちを忘れずに、みなさま日々ご自愛くださいね。

いつかまた、この広大な景色を眺めながら、巡礼の道を辿りたいものだ。最低限の荷物を背に、時に楽しく、時に黙々と歩く道。その後現実に戻ったら、見えてくる景色も変わってくるだろう

今月は巡礼定番フレーズ
¡Buen camino! (ブエン・カミーノ ! )
「良い道中を ! 」