2023/10/11 業界コラム 杉田 美保子 スペインの知られざる文化 No.65 スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師 杉田 美保子 スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。 石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。 京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。 スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。 2023年の酷暑には辟易し、さて、秋が到来です。今日は、久しぶりに「スペイン巡礼の道」のお話をしますね。新型コロナ感染症の扱いも2類から5類に移行し、全国の様々なイベントが再開、そして海外にも遊びに行きやすくなりました。でも、でも、でも、為替は日本円には優しくなく、昔日のように気軽に国外に旅行できなくなってきているのも事実ですね。でも、巡礼の道には今日もたくさんの巡礼者がサンティアゴ・デ・コンポステーラを目指し歩いています。 サント・ドミンゴ・デ・カルサーダからベロラード (22,7km) を歩いている途中の案内板。カスティーリャ・イ・レオン州のサンティアゴ巡礼の道が詳しく載っている「いつか歩くぞ ! 」という計画だけでも楽しい結果的に、スペインも酷暑に見舞われた2023年夏ですが、7月末時点ではこんな厳しい夏が来るなんて、想像もしていませんでしたね。そんな中、京都バルセロナ文化センターでは「サンティアゴ巡礼の道」についてのイベントが行われました。テーマは「ガリシア観光とスペイン巡礼の道」、久留米大学経済学部の畠中昌教准教授がお話しされました。 畠中先生によるガリシア地方の講演。巡礼に興味のある方がたくさん集まった畠中先生はサンティアゴ・デ・コンポステーラの大学に留学・在籍した経験があり、この大聖堂の見えるアパートに2年間居住。リュックサックを背負い、杖を片手に到着する数々の巡礼者たちを日々見てきた、と言います。巡礼の道の途中にある村でではなく、大聖堂に到着した、それも最低100キロは徒歩で移動したであろう巡礼者たちとすれ違ってきたのです。専門分野は経済ですが、それに観光のもたらす効果を含めて考察された講演会は、座るところがないほどの来場者を集めました。 講演の内容は多岐にわたり、スペインの観光一般に始まり、ガリシア州の歴史や建築、観光の見所、またそこに住んでみての経験談など。スペインといえば、フラメンコに闘牛、パエリアにサッカー、ガウディの建築、と言ったスポット的な情報が多い中、ガリシア地方に焦点を当てたお話はとても興味深いものがありました。ただ、スタッフとして参加の筆者は、会場の中で次々と場所を移動し、お話をじっくり聞けなかったことが悔やまれます。ぜひまたいつかお会いできれば、と。 巡礼に必要なCredencial (クレデンシャル、巡礼手帳) には、通過地点で日付と印章をもらい、確かに通過したという証明をしなければならない。一度に全行程を歩く必要はないし、スペースが足りなくなったら新たな手帳をもらい、巡礼を続けることもできる実は私、過去4回に渡りトータル600kmほどスペインの巡礼の道を歩いたのですが、まだ最終地点のサンティアゴ・デ・コンポステーラの大聖堂には到達できずにいます。この大聖堂には、1988年に渡西した時に観光で行ったことがあるのですが、当時は22歳の右も左もわからない若造で、巡礼の道があるなんてことも知らなかったわけです。いかになんの情報も、興味も持たずして異国に渡ってしまったのか、がバレてしまいますね。というわけで、知らずに巡礼最終地点の大聖堂でお参りしてしまったため、現在そのルートを修正すべくいつの日か巡礼として徒歩でコンポステーラに到達したいと夢見ているわけです。 文化センタースタッフのLoliさんはガリシア地方出身。講演会では参加者からの質問にも答え、ますます巡礼に行きたくなった人が増えたガリシア地方もスペインの他の地方同様、多種多様な文化や習慣、言葉があります。「日本」「スペイン」という全体としてのイメージだと、「サムライ、富士山、寿司」「フラメンコ、サッカー、パエリア」なんてことになってしまうのですが、日本もスペインも広い広い。地方ごとに特色、文化、言葉が違うわけで、そこが旅行の醍醐味となるのですよね。 熱心にメモを取ったり、身を乗り出して聞き入る参加者。講演会の後も質問が続々バルセロナも他の大都市同様、様々な国や地方から移住してきた人がたくさんいます。半世紀以上前にガリシア、バレンシア、バスク、アンダルシアなどの地方から移り住んだ人々の子どもたちにとって、「ふるさと」は地方都市だったりもします。生粋のカタルーニャ人の友人もいますが、圧倒的に地方出身者が多いのも、大都市の特徴です。筆者の親しい友人にもガリシア地方出身者がいて、食事に招かれるたびにその違いに驚いたりしました。同じスペイン人なのに、料理法も違えば、パンの好みもワインの好みも、そしてデザートの好みも違うのですから。 レストランTío Pepeのシェフが用意してくれたTarta de Santiago。火災に遭い、現在は休業中だが、このスイーツも絶品。参加者たちは早い復興を祈って、舌鼓を打ったガリシアは大西洋に面していて、位置的にはイギリスを南下して海を渡ったところでぶち当たる、スペインの北西の角っこの地方、となります。近年スペインでも海藻が脚光を浴びつつあるのですが、これはガリシア地方で採取されます。また、スイーツとしては「フィジョア (Filloa) 」があります。これはフランスでは「クレープ」、イギリスでは「パンケーキ」と呼ばれるもので、バルセロナではあまり見かけることはありません。 Tarta de Santiago (タルタ・デ・サンティアゴ、サンティアゴタルト) というデザートを忘れてはいけません。こちらは小麦粉ではなく、アーモンドパウダーがベースとなった焼き菓子で、パウダーシュガーを使い、表面に聖ヤコブ十字 (Cruz de Santiago、クルス・デ・サンティアゴ) を浮かせます。生地自体はアーモンドパウダーに卵、砂糖、おろしたレモンの皮を混ぜてオーブンで焼く、というもので、しっとりとした焼き上がりが特徴です。バルセロナのレストランのデザートリストにも載るほど、スペインでも知名度は高いので、一度トライしてみてください。 そこで話が飛ぶのですが、スペインの友人たちに持っていくと感動される日本のお菓子、なんだかわかりますか ? なんとポルトガル伝来と言われている「カステラ」です。あのふわふわした食感が「おおお ! 」と言わしめるのです。またその語源もスペイン語の「Castilla (カスティーリャ)=中世にあった地域名、現在も現存する州の名前」からきている可能性がある、など、カステラひとつ取っても、話が尽きませんね。 本題に戻り… そんな講演会の最後、筆者は「日本カミーノ・デ・サンティアゴ友の会」を紹介する事になりました。バルセロナ滞在中、巡礼の道を歩く前に情報をもらいに行ったのが、やはり「Associació d’Amics dels Pelegrins A Santiago-Barcelona」。さすがにスペインには数々の友の会や協会があるため、自宅から徒歩15分で行ける気楽さがありがたかったです。でもここは日本。言葉も違えば、出発地点に移動するのも何十時間とかかる、異国の地。 あまり人前で話すことに慣れていない筆者だが、話し出すと止まらない…。つい、自分の経験談も話してしまった「巡礼の道を歩きたい ! 」となったらどうするか ? 大丈夫です。日本で、日本語で情報をもらえるんです。巡礼に関するキーワードも教えてもらえるんです。行けるんです、巡礼 ! 日本カミーノ・デ・サンティアゴ友の会より貸していただいたクレデンシャルや巡礼の印である帆立貝、そして無事サンティアゴに到達した際にもらえる巡礼証明書の展示もあり、ますます旅に出たくなった参加者も多かっただろう私はこの友の会の関係者ではないのですが、今回この会のプレゼンテーションをするにあたり、ホームページを見てみました。内容は至れり尽くせりで、様々な情報が載っていました。巡礼を始めて1日目に失敗するのが靴選びやリュック選びだったりします。巡礼中に靴が合わず擦りむけて歩けなくなったり、荷物が重すぎて肩が擦りむけたり、なんていう状況を数々見てきました。やはり準備は重要です。そんなチャンスを提供してくれるのがワンデーカミーノというシステム。春と秋に計画されるこのイベントで、靴慣らし、荷物の重量の確認などができるのは嬉しいですよね。また、巡礼についての説明会や講座も定期的に開催され、貴重な情報、巡礼経験者の生の声に触れることもできます。 円安がおさまらないと、なかなか海外には行けない昨今ではありますが、「いつか歩くぞ ! 」という決意を胸にすれば、その計画を練ること自体、ワクワクしますよね。どうぞそんな気持ちを忘れずに、みなさま日々ご自愛くださいね。 いつかまた、この広大な景色を眺めながら、巡礼の道を辿りたいものだ。最低限の荷物を背に、時に楽しく、時に黙々と歩く道。その後現実に戻ったら、見えてくる景色も変わってくるだろう今月は巡礼定番フレーズ ¡Buen camino! (ブエン・カミーノ ! ) 「良い道中を ! 」 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師 杉田 美保子さんのその他の記事 2025/01/15 業界コラム スペインの知られざる文化 No.73 (最終回) 2024/12/10 業界コラム スペインの知られざる文化 No.72 2024/11/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.71 2024/10/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.70 2024/09/10 業界コラム スペインの知られざる文化 No.69 2024/08/07 業界コラム スペインの知られざる文化 No.68 2024/07/09 業界コラム スペインの知られざる文化 No.67 2024/06/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.66 2024/05/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.18 2024/04/09 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.17 2024/03/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.16 2024/01/10 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.15 2023/12/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.14 2023/11/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.13 2023/10/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.65 2023/09/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.64 2023/07/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.12 2023/06/13 業界コラム スペインの知られざる文化 No.63 2023/05/09 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.11 2023/04/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.10 2023/03/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.9 2023/02/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.8 2023/01/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.7 2022/12/13 業界コラム スペインの知られざる文化 No.62 2022/11/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.61 2022/10/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.60 2022/09/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.59 2022/08/09 業界コラム スペインの知られざる文化 No.58 2022/07/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.6 2022/06/14 業界コラム スペインの知られざる文化 No. 57 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月