スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師

杉田 美保子

スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。
石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。
京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。

スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。

朝晩がすっかり涼しくなり、日中も過ごしやすくなってきた今日この頃。秋 ! 食欲の秋 ! 別に意識して食をテーマに書き続けているつもりは全然ないのですが、なぜか毎回、食べ物の話になり恐縮です。今日は、バルセロナ近郊のグラノジェールス (Granollers) と言う町にある『NPO法人 El Xiprer (エル・チプレール、イトスギの意味) 』での1日をご紹介しましょう。

El Xiprer (エル・チプレール) : 2015年に公式にNPO団体として設立。さまざまな理由で孤独、貧困、疎外、社会的疎外に苦しむ人々へ食事などを提供する事業から始まり、フードバンク活動など幅広く活動している。

さあ、おいで、みんなで一緒に食べよう !

スペインの日本食ブームのお話は、2019年1月号でご紹介しましたね。リストラにあった2010年から、帰国の前年の2014年まで、ひょんなことからバルセロナの文化センターで様々なワークショップをすることになりました。日本料理、アジア料理、折り紙、日本文化など、ワンクールが12回ほど、つまり週一回、三ヶ月の文化コースです。コースの対象者に縛りはありませんので、参加者は学生であったり、会社員、アーティスト、事業主など、多種多様です。ほとんどのコースが夕方18時過ぎからだったため、お勤め帰りに参加できる、お手軽な文化活動でした。

El Xiprerの主宰、メルセさんを真ん中に記念撮影。あくまでも筆者たちは「シェフ」ジュゼップの助手

そんなコースの中で知り合ったジュゼップは、薬剤師さんで、薬局を経営しています。今でもバルセロナに行くと、彼のお家に招待されて、奥さん、お母さん、その他親戚が集まって食事をしたり、時間のない時には街角のバルで一杯飲んだり、と言う友達です。

いつか、この文化コースのお話もしましょうね。今日は、このジュゼップからの提案に、「お、いいねぇ」と軽く乗っかってしまった筆者の無謀さについてお話しします。笑ってください。

「実はね、僕、あるNPO団体に協力しているんだ。寄付金という形ではなかなかできないんだけれど、その代わり団体の活動に協力しているんだよ。この団体は、メルセという女性が、自分の家を開放して、職がなくて貧乏、よって満足に食べれなかったり、独居で寂しがりやの人たちだったり、移民であったり、そういう人々に広く門戸を開いたことから発展して行ったんだ。そう、誰が来ても、いつでもご飯を提供する、という活動をしているんだよ。」
今で言う、子供食堂のような感じでしょうか。ただ、子供に限定せず、誰が食べに来ても良い、と言うものですね。
「でね、来月夏祭りと称して、オープンハウスを計画していて、土日の1日はアフリカ料理、もう1日は日本料理を出そう、という話でね。僕は美保子の料理教室で色々習ったから、レシピもあるし、やってみようと思うんだけれど、ちょっと1人では自信ないからさ。手伝ってくれないかい ? 」
何しろ好奇心旺盛な筆者、二つ返事で「¡De acuerdo! (デ・アクエルド ! =了解です ! )」と言ってしまったのです。
「僕は、奥さんを連れて行くんだけれど、それでも三人ではちょっと。誰か友達がいないだろうか ? 」
階下に住むピラールに即刻連絡。彼女も「¡Vale! (バレ ! =OK !)」。早速メニューを考えるミーティング (ワインを飲む理由づけとも言う)です。
「えええええ ? 200食 ? それも、日本食 ? 4人で ? それも、El Xiprerのキッチンで ? 」

『せいぜい20~30人、多くて50人ほど、と思って返事をしたら、なんと200人想定とは ! 日本食には白いご飯を出したいけれど、そんな炊飯器なんて無いし…。』と空を仰ぎ、心の中で呟くも、「Profe ![Profesora:プロフェソーラの略語] (プロフェ ! =先生)、君なら大丈夫。なんせあの大人数の教室で、僕ら何度夕食を食べたと思っているんだい ? 」。そうです。料理教室は試食程度の量を出せば良いのに、毎回普通の食事に匹敵する料理を作っていたんだったっけ…。

20キロ、つまり20パックのお米を開封し、洗う作業から始まった。スペインの白米は、当時1キロ1ユーロ(今の為替で135円)ほど

数々のミーティング (にかこつけた飲み会) を経て、少しずつ決定事項が増えていきました。まず、私たちの一品は、ファーストディッシュになり、メインディシュはいつものスタッフの作る鳥料理である、ということ。当日オープンハウスの催し物は11時に始まり、一日中多文化のイベントが行われること。などなど。

天丼にするか、親子丼にするか、かき揚げ丼にするか、何しろ200食となると、ご飯でボリュームを出さないと、見栄えもよくならないし、というイメージトレーニングの日々が続きました。巻き寿司の案も出たのですが、さすがに200食は…。El Xiprerの食材は、ほとんどが寄付品のため、極力それに合ったものでないといけない、ということで、エビやイカを入れたかき揚げ丼に決定しました。

玉ねぎパック、寸胴鍋での炊飯

最終的に計算された食材が、以下の通り:

材料 分量
20キロ
玉ねぎ 50個
人参 5-6キロ
インゲン (入手できれば) 2キロ
小エビ 2キロ
イカ 2キロ
小麦粉 6キロ
タマゴ 50個
天ぷら用の油 10リットル
しょうゆ 2リットル
酒 (白ワインまたはみりん) 2リットル
砂糖 1.2キロ
だしの素 100グラム

・・・50個の玉ねぎの皮をむいて、薄く刻んで行く作業を想像するだけで、涙が出て来たものです。

さて、当日、El Xiprerのお台所に着くと、なんと人参も玉ねぎも、綺麗に皮が剥かれて、真空パックになっていました ! 前日、常駐のスタッフさんたちが綺麗に下準備をして、パック詰して冷蔵庫に用意されていたのです ! なんと手際のいいことでしょう ! 50個の玉ねぎ ! あとは涙を流すだけ !

普段から、たくさんの人に食事を提供するお台所だけに、寸胴鍋も、揚げもの用の鍋も、プロ仕様 ! コンロも沢山あって、なんとかなりそう ! まずは、ご飯を炊くところからです。

「20キロのお米なんて、鍋で炊いたことないわよ〜。よし、3つに分けて炊くわ ! でも、水からじゃ多分無理だから、熱いお湯で炊くわね ! 料理教室の時とはちょっと違うけれど、こういうのも有り、って覚えておいてね ! 」と。

お米を洗うところから始めます。スペインでもお米料理があるため、白米の入手には困りません。そして、多分乾燥工程が違うためか、吸水させる時間を置かずに炊き始められます。今回の時間との戦いにおいては、ありがたいことです。ちなみに、スペイン料理パエリヤのお米は、洗わずにスープに投入、ということ、ちょっと付け加えておきますね。

切る切る、ちょきちょき、トントン、チョキ・トントン。投入。タマゴコツコツ、せっせと割る

「さ、次は、かき揚げの具材ね ! 」 イカの刻み方、手元に注目です。キッチンバサミ、です。機能的です。ジュゼップは涙流しの担当になってくれ、ダイナミックに包丁を使い、50個の玉ねぎを刻んでくれました。色鮮やかになるように、インゲンを頼みましたが、無事届いたようです。刻んだ具材を順次投入。もう、箸やおたまで混ぜられるレベルではない具材は、きれいに洗った手が調理器具。ピラールとエレナは、もはやキッチンマシーンと化しています。具材をスプーンでまとめて、油に入れ、ひっくり返して油から出す。油に入れて、油から出す。揚げ鍋は3個使い。揚げても揚げても、終わらない…。まさに、機械です。

揚げているのはかき揚げでも、スペインにだって揚げ物はあるので、2人とも手際がいい

そんな中、筆者は何をしていたかと言うと、遊んでいたわけではありません。白米の用意です。ご飯をよそい、かき揚げを乗っけて、天つゆを上からかけると、その甘辛いソースが白米に染み込み、白いご飯には必ず何かを混ぜて食べるスペインの人々からは、おかわりの声もかかったほどでした。屋外で、また屋内で、この施設にある全てのテーブルと椅子が駆使され、ほぼ200人が一斉に食事を始めました。

「かき揚げ丼」と名づけたものの、「丼」はスペインのスタイルに合わなかったためか、入手できなかったのかは記憶にありませんが、お皿を使用です。もちろん、お箸もハードル高すぎで、みなさんナイフとフォーク。なんと多文化な食事なんでしょう !

白米のお皿、気が遠くなる量。かき揚げを天つゆに浸し、ライスにオン。追いつゆも忘れずに

2013年7月6日、晴れ。一般的に湿度の低いほとんどのスペインの町では、気温が30度を超えていても、木陰に入れば涼しいので、施設のいたるところにテントが張られたりして影ができ、その下での食事会となりました。日本食というと、『寿司』『刺身』といった生の魚が出てくるかと、期待と不安 (好きな人は大好き、嫌いな人は、寿司が出てくると『このお魚、炙ってちょうだい』なんて言葉も出かねないわけなのですが) を抱いてのファーストディッシュ。意外や意外、子供達は天つゆが新鮮だったようで、おかわりに来た子もいます。高齢の方は、まあ、好きか嫌いかは別として、初めて口にするおしょうゆの味に、頷いたり、首を振ったり。ただ、シェフ・ジュゼップとその助手たちは、外から聞こえてくるみんなの楽しそうな笑い声に大満足。何しろ、200人近くの方へ、お料理が届いたんですから、その達成感は半端ではありませんでした。

「やれば、なんとかできるもんだね。じゃ、またいつかやろうね ! 」と言うことでお開きとなったのです。

El Xiprerは2015年に公式にNPO団体としての活動が始まり、当初の設立から数え、25周年を迎えました。フードバンクや外国人のための語学教室など、様々な活動が加わり、ますます発展していくことでしょう。

達成感 !

今月のフレーズは
¡¡Muchas felicidades!! (ムーチャス・フェリシダーデス ! )
「たくさんの幸せを ! おめでとう ! 」