2022/10/12 業界コラム 杉田 美保子 スペインの知られざる文化 No.60 スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師 杉田 美保子 スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。 石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。 京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。 スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。 朝晩がすっかり涼しくなり、日中も過ごしやすくなってきた今日この頃。秋 ! 食欲の秋 ! 別に意識して食をテーマに書き続けているつもりは全然ないのですが、なぜか毎回、食べ物の話になり恐縮です。今日は、バルセロナ近郊のグラノジェールス (Granollers) と言う町にある『NPO法人 El Xiprer (エル・チプレール、イトスギの意味) ※』での1日をご紹介しましょう。 ※El Xiprer (エル・チプレール) : 2015年に公式にNPO団体として設立。さまざまな理由で孤独、貧困、疎外、社会的疎外に苦しむ人々へ食事などを提供する事業から始まり、フードバンク活動など幅広く活動している。 さあ、おいで、みんなで一緒に食べよう !スペインの日本食ブームのお話は、2019年1月号でご紹介しましたね。リストラにあった2010年から、帰国の前年の2014年まで、ひょんなことからバルセロナの文化センターで様々なワークショップをすることになりました。日本料理、アジア料理、折り紙、日本文化など、ワンクールが12回ほど、つまり週一回、三ヶ月の文化コースです。コースの対象者に縛りはありませんので、参加者は学生であったり、会社員、アーティスト、事業主など、多種多様です。ほとんどのコースが夕方18時過ぎからだったため、お勤め帰りに参加できる、お手軽な文化活動でした。 El Xiprerの主宰、メルセさんを真ん中に記念撮影。あくまでも筆者たちは「シェフ」ジュゼップの助手そんなコースの中で知り合ったジュゼップは、薬剤師さんで、薬局を経営しています。今でもバルセロナに行くと、彼のお家に招待されて、奥さん、お母さん、その他親戚が集まって食事をしたり、時間のない時には街角のバルで一杯飲んだり、と言う友達です。 いつか、この文化コースのお話もしましょうね。今日は、このジュゼップからの提案に、「お、いいねぇ」と軽く乗っかってしまった筆者の無謀さについてお話しします。笑ってください。 「実はね、僕、あるNPO団体に協力しているんだ。寄付金という形ではなかなかできないんだけれど、その代わり団体の活動に協力しているんだよ。この団体は、メルセという女性が、自分の家を開放して、職がなくて貧乏、よって満足に食べれなかったり、独居で寂しがりやの人たちだったり、移民であったり、そういう人々に広く門戸を開いたことから発展して行ったんだ。そう、誰が来ても、いつでもご飯を提供する、という活動をしているんだよ。」 今で言う、子供食堂のような感じでしょうか。ただ、子供に限定せず、誰が食べに来ても良い、と言うものですね。 「でね、来月夏祭りと称して、オープンハウスを計画していて、土日の1日はアフリカ料理、もう1日は日本料理を出そう、という話でね。僕は美保子の料理教室で色々習ったから、レシピもあるし、やってみようと思うんだけれど、ちょっと1人では自信ないからさ。手伝ってくれないかい ? 」 何しろ好奇心旺盛な筆者、二つ返事で「¡De acuerdo! (デ・アクエルド ! =了解です ! )」と言ってしまったのです。 「僕は、奥さんを連れて行くんだけれど、それでも三人ではちょっと。誰か友達がいないだろうか ? 」 階下に住むピラールに即刻連絡。彼女も「¡Vale! (バレ ! =OK !)」。早速メニューを考えるミーティング (ワインを飲む理由づけとも言う)です。 「えええええ ? 200食 ? それも、日本食 ? 4人で ? それも、El Xiprerのキッチンで ? 」 『せいぜい20~30人、多くて50人ほど、と思って返事をしたら、なんと200人想定とは ! 日本食には白いご飯を出したいけれど、そんな炊飯器なんて無いし…。』と空を仰ぎ、心の中で呟くも、「Profe ![Profesora:プロフェソーラの略語] (プロフェ ! =先生)、君なら大丈夫。なんせあの大人数の教室で、僕ら何度夕食を食べたと思っているんだい ? 」。そうです。料理教室は試食程度の量を出せば良いのに、毎回普通の食事に匹敵する料理を作っていたんだったっけ…。 20キロ、つまり20パックのお米を開封し、洗う作業から始まった。スペインの白米は、当時1キロ1ユーロ(今の為替で135円)ほど数々のミーティング (にかこつけた飲み会) を経て、少しずつ決定事項が増えていきました。まず、私たちの一品は、ファーストディッシュになり、メインディシュはいつものスタッフの作る鳥料理である、ということ。当日オープンハウスの催し物は11時に始まり、一日中多文化のイベントが行われること。などなど。 天丼にするか、親子丼にするか、かき揚げ丼にするか、何しろ200食となると、ご飯でボリュームを出さないと、見栄えもよくならないし、というイメージトレーニングの日々が続きました。巻き寿司の案も出たのですが、さすがに200食は…。El Xiprerの食材は、ほとんどが寄付品のため、極力それに合ったものでないといけない、ということで、エビやイカを入れたかき揚げ丼に決定しました。 玉ねぎパック、寸胴鍋での炊飯最終的に計算された食材が、以下の通り: 材料 分量 米 20キロ 玉ねぎ 50個 人参 5-6キロ インゲン (入手できれば) 2キロ 小エビ 2キロ イカ 2キロ 小麦粉 6キロ タマゴ 50個 天ぷら用の油 10リットル しょうゆ 2リットル 酒 (白ワインまたはみりん) 2リットル 砂糖 1.2キロ だしの素 100グラム ・・・50個の玉ねぎの皮をむいて、薄く刻んで行く作業を想像するだけで、涙が出て来たものです。 さて、当日、El Xiprerのお台所に着くと、なんと人参も玉ねぎも、綺麗に皮が剥かれて、真空パックになっていました ! 前日、常駐のスタッフさんたちが綺麗に下準備をして、パック詰して冷蔵庫に用意されていたのです ! なんと手際のいいことでしょう ! 50個の玉ねぎ ! あとは涙を流すだけ ! 普段から、たくさんの人に食事を提供するお台所だけに、寸胴鍋も、揚げもの用の鍋も、プロ仕様 ! コンロも沢山あって、なんとかなりそう ! まずは、ご飯を炊くところからです。 「20キロのお米なんて、鍋で炊いたことないわよ〜。よし、3つに分けて炊くわ ! でも、水からじゃ多分無理だから、熱いお湯で炊くわね ! 料理教室の時とはちょっと違うけれど、こういうのも有り、って覚えておいてね ! 」と。 お米を洗うところから始めます。スペインでもお米料理があるため、白米の入手には困りません。そして、多分乾燥工程が違うためか、吸水させる時間を置かずに炊き始められます。今回の時間との戦いにおいては、ありがたいことです。ちなみに、スペイン料理パエリヤのお米は、洗わずにスープに投入、ということ、ちょっと付け加えておきますね。 切る切る、ちょきちょき、トントン、チョキ・トントン。投入。タマゴコツコツ、せっせと割る「さ、次は、かき揚げの具材ね ! 」 イカの刻み方、手元に注目です。キッチンバサミ、です。機能的です。ジュゼップは涙流しの担当になってくれ、ダイナミックに包丁を使い、50個の玉ねぎを刻んでくれました。色鮮やかになるように、インゲンを頼みましたが、無事届いたようです。刻んだ具材を順次投入。もう、箸やおたまで混ぜられるレベルではない具材は、きれいに洗った手が調理器具。ピラールとエレナは、もはやキッチンマシーンと化しています。具材をスプーンでまとめて、油に入れ、ひっくり返して油から出す。油に入れて、油から出す。揚げ鍋は3個使い。揚げても揚げても、終わらない…。まさに、機械です。 揚げているのはかき揚げでも、スペインにだって揚げ物はあるので、2人とも手際がいいそんな中、筆者は何をしていたかと言うと、遊んでいたわけではありません。白米の用意です。ご飯をよそい、かき揚げを乗っけて、天つゆを上からかけると、その甘辛いソースが白米に染み込み、白いご飯には必ず何かを混ぜて食べるスペインの人々からは、おかわりの声もかかったほどでした。屋外で、また屋内で、この施設にある全てのテーブルと椅子が駆使され、ほぼ200人が一斉に食事を始めました。 「かき揚げ丼」と名づけたものの、「丼」はスペインのスタイルに合わなかったためか、入手できなかったのかは記憶にありませんが、お皿を使用です。もちろん、お箸もハードル高すぎで、みなさんナイフとフォーク。なんと多文化な食事なんでしょう ! 白米のお皿、気が遠くなる量。かき揚げを天つゆに浸し、ライスにオン。追いつゆも忘れずに2013年7月6日、晴れ。一般的に湿度の低いほとんどのスペインの町では、気温が30度を超えていても、木陰に入れば涼しいので、施設のいたるところにテントが張られたりして影ができ、その下での食事会となりました。日本食というと、『寿司』『刺身』といった生の魚が出てくるかと、期待と不安 (好きな人は大好き、嫌いな人は、寿司が出てくると『このお魚、炙ってちょうだい』なんて言葉も出かねないわけなのですが) を抱いてのファーストディッシュ。意外や意外、子供達は天つゆが新鮮だったようで、おかわりに来た子もいます。高齢の方は、まあ、好きか嫌いかは別として、初めて口にするおしょうゆの味に、頷いたり、首を振ったり。ただ、シェフ・ジュゼップとその助手たちは、外から聞こえてくるみんなの楽しそうな笑い声に大満足。何しろ、200人近くの方へ、お料理が届いたんですから、その達成感は半端ではありませんでした。 「やれば、なんとかできるもんだね。じゃ、またいつかやろうね ! 」と言うことでお開きとなったのです。El Xiprerは2015年に公式にNPO団体としての活動が始まり、当初の設立から数え、25周年を迎えました。フードバンクや外国人のための語学教室など、様々な活動が加わり、ますます発展していくことでしょう。 達成感 !今月のフレーズは ¡¡Muchas felicidades!! (ムーチャス・フェリシダーデス ! ) 「たくさんの幸せを ! おめでとう ! 」 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師 杉田 美保子さんのその他の記事 2024/10/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.70 2024/09/10 業界コラム スペインの知られざる文化 No.69 2024/08/07 業界コラム スペインの知られざる文化 No.68 2024/07/09 業界コラム スペインの知られざる文化 No.67 2024/06/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.66 2024/05/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.18 2024/04/09 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.17 2024/03/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.16 2024/01/10 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.15 2023/12/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.14 2023/11/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.13 2023/10/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.65 2023/09/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.64 2023/07/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.12 2023/06/13 業界コラム スペインの知られざる文化 No.63 2023/05/09 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.11 2023/04/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.10 2023/03/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.9 2023/02/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.8 2023/01/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.7 2022/12/13 業界コラム スペインの知られざる文化 No.62 2022/11/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.61 2022/10/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.60 2022/09/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.59 2022/08/09 業界コラム スペインの知られざる文化 No.58 2022/07/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.6 2022/06/14 業界コラム スペインの知られざる文化 No. 57 2022/05/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.56 2022/04/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.55 2022/03/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.54 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月