2019/01/09 業界コラム 杉田 美保子 スペインの知られざる文化 No.21 スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師 杉田 美保子 スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。 石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。 京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。 スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。 日本料理がバルセロナで大変ポピュラーになったのは、かれこれ 15 年も前のことでしょうか? それとも 20 年? 気がつくと、街のいたるところに「Restaurante japonés」(レスタウランテ・ハポネス=日本レストラン)という看板が目立つようになりました。 何が食べたい? お寿司? 焼き鳥?2018年、石を投げれば 「Restaurante Japonés」「Sushi」 という看板に当たる (写真協力 © Salvador Barrau Viñas) 今から 30 年前、1988 年にはバルセロナに日本料理のレストランは 4 軒しかなかったのです。4 軒全てが日本人オーナーで、そこに行けば「日本」があったし、お金の無い学生時代に清水の舞台から飛び降りるが如く、「日本を感じに」出かけた思い出があります。 その後 12 軒に増えた、20 軒になったと、まだまだ日本レストランの数は、指で数えることができたものです。それが 2018 年、気がつくと日本料理と名の付いたレストランは町のあちこちに見られるほどの増殖ぶりです。30 年前にバルセロナの街角で見たもののトップ 3 に、薬局、靴屋、銀行の支店だったのが、今では銀行が消え、日本料理と名のついたレストランが入るようになりました。 さて、「日本料理レストラン」とはなんぞや? 日本で食事に行くときに、「今日はフレンチにしよう」とか、「私はイタリアンがいいわ」、「タパスバーにしよう」などと言いますが、これは「外来のものを食べるとき」ですよね。でも、日本にいる私たちは、和食を食べるときに、「日本料理に行こう」とはまず言わないでしょう。「今日はお寿司が食べたいわね」とか、「たまには焼き鳥で一杯いきたいね」や、「天ぷらにしようか」。はたまた、「今日はコシのあるお蕎麦が食べたいね」などと、食べたいものを絞って、「お寿司屋さん」「焼き鳥屋さん」「天ぷら屋さん」「お蕎麦屋さん」と行き先を決めるのが普通ですよね。 それが、スペインでは日本食は外来料理なので、もちろん以下のようなことが起きます。日本料理レストランに入ると、お寿司も、天ぷらも、焼き鳥も、うどんも、餃子も、はたまたお好み焼きも食べることができるのです! これはある種、ショッピングセンターのフードコートのようでもあります。 奥のスクリーンには紅葉期の富士山。 提灯が下がり、竹林をイメージ。 外国人から見た日本のイメージなのか? (写真協力 © Salvador Barrau Viñas)30 年前に 4 軒しかなかった時代でさえ、「寿司」をメインとしたところもあったのですが、その時代にお魚を生で食する「寿司」「刺身」はまだ一般に受け入れてはもらえていなかったため、「えええ? 日本人? 日本人ってなんでも生で食べるんでしょ?」なんて今なら「偏見だ」、とスペイン人さえも怒るようなコメントが飛び交っていたものです。 メニューの表紙には着物姿の女性が。 エキゾチックな日本のイメージ (写真協力 © Salvador Barrau Viñas)そんな中、お寿司以外のアンチナマモノの人々が食べられるメニューというため、同時にすき焼きも、焼き鳥も、天ぷらも食べることができるようになったのでしょう。スペインで日本料理レストランを検索するために一番利用されている comerjapones.com をのぞいてみると、バルセロナだけでも 140 以上の日本食を扱うレストランが掲載されています。この驚異的な成長ぶり、さすが世界遺産となった「和食」。なんでも、日本の食文化がなくならずに、継承されていくようにと、世界遺産に登録されたのだそうです。 ここまで来て、海外では日本食ブームに火がついている、とお分かりいただけたと思いますが、実は、もう少し違って来ている部分もあるのです。 日本人のフランス料理シェフ、日本人の中華料理人、日本人のスペイン料理シェフ、などなど、人種と作る料理というのは必ずしも一致しないので、別にどこの国の人が日本料理を提供しようが、全然関係はないのですが、気になるのはその内容です。多分、その道のプロたちは、現地に出向いての修行、もしくは日本で正しくその国の料理の修行をし、切磋琢磨して看板を立てているのですが、最近のバルセロナの「Restaurante japonés」少々様子が違います。「あれ? トムヤムクンスープって、日本料理だっけ?」 何にでも「japonés」や「Japón」をつければいいと思っている感も少々ありだが・・・ (写真協力 © Salvador Barrau Viñas)定食一人前で 4 皿。残した場合 5€ の追徴。 お持ち帰りはできません、とある (写真協力 © Salvador Barrau Viñas)現地スペイン料理のレストランやバルに行くと、お昼は大抵「本日の定食」というメニューが存在します。30 年前は前菜、一品目、メイン、デザート、パン、飲み物のフルコースで 380 ペセタから 450 ペセタ(当時で約 350-400 円ほどだったと記憶しています)でいただくことができましたが、最近は 10 から 14 ユーロ(おおよそ 1500-1700 円)となり、前菜はなくなり一品目、メイン、そしてデザート、パン、飲み物のコースへと変わっていきました。システムとしては、それぞれ 3-4 品の中から好きなプレートを選択し、飲み物もミネラルウォーターに始まりビール、ワイン、かなり自由な選択ができます。ワインはテーブルワインが瓶ごと出てくる場合もあり、お酒好きには天国のような昼食です。 そうです。この習慣を利用して一品目に「トムヤムクンスープ」も登場してしまうのです。また、ご想像通り、経営者も日本人でないことが少なくありません。 それにしても、カリフォルニアロールを始めとして、様々なお寿司を見事に作って提供し、そんなに高くもなく「日本料理」を広めてくれているという意味では、感謝すべきなのでしょうか。 フュージョンと書かれているので、 なまじ間違っているとは言えない。 おしぼりもなかなか良い (写真協力 © Salvador Barrau Viñas)色々な意見がユーザー側からも、店主側からも出てくることと思いますが、要は、この 140 件以上ある「日本料理店」から自分のお気に入り、ご贔屓のレストランを見つければ良いわけで、自分好みのレストランが、良いレストラン、ということなのですね。 いくら日本でスペイン料理がメジャーとなってきたとは言え、スペイン観光で疲れた後に日本料理、というのも、異国の文化を知る上で楽しいのかな、と思います。 では、次にバルセロナに帰ったら個人的に行きたい日本料理レストラン数件をご紹介しておきますね。ぜひのぞいて見てください。 TAKO Barcelona http://www.tako.barcelona Taberna Japonesa Enjyu 縁緑 https://www.facebook.com/enjyubarcelona/ Una mica de Japó https://www.facebook.com/unamicadejapo/ この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師 杉田 美保子さんのその他の記事 2025/01/15 業界コラム スペインの知られざる文化 No.73 (最終回) 2024/12/10 業界コラム スペインの知られざる文化 No.72 2024/11/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.71 2024/10/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.70 2024/09/10 業界コラム スペインの知られざる文化 No.69 2024/08/07 業界コラム スペインの知られざる文化 No.68 2024/07/09 業界コラム スペインの知られざる文化 No.67 2024/06/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.66 2024/05/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.18 2024/04/09 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.17 2024/03/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.16 2024/01/10 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.15 2023/12/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.14 2023/11/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.13 2023/10/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.65 2023/09/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.64 2023/07/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.12 2023/06/13 業界コラム スペインの知られざる文化 No.63 2023/05/09 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.11 2023/04/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.10 2023/03/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.9 2023/02/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.8 2023/01/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.7 2022/12/13 業界コラム スペインの知られざる文化 No.62 2022/11/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.61 2022/10/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.60 2022/09/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.59 2022/08/09 業界コラム スペインの知られざる文化 No.58 2022/07/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.6 2022/06/14 業界コラム スペインの知られざる文化 No. 57 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月