スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師

杉田 美保子

スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。
石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。
京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。

スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。

5月の終わり、日本ではそろそろ梅雨という時期なので、雨は珍しくないのですが、今年のバルセロナは日本に似て雨が多かったようです。慢性的な水不足の中、ワインやオリーブオイルも原料不作のため高騰。これが恵みの雨となったのなら良いのですが…。

やっぱり手作りって、温かい

かなり長期の里帰りで、「これだけ日数に余裕があるなら、かなり多くの友人に再会できるかな」という目論見は、ものの見事に外れます。まずは、飛行時間の大幅な増加。現在、ロシア上空は飛行が禁じられているため、どの航空会社の運航も、ほとんどが南回りを余儀なくされている状況です。それに増し、5年ぶりの渡航。「ああ、どうやってチケットを選べばいいのかわからない ! 」。

そこに、バルセロナ在住の30-40歳台の友人たちの登場です。まして、彼らは日本大ファン ! 何度かこのコラムにも登場した、美々ちゃん、ライアちゃんです。「ねえねえ、最近日本に来たよね、美々ちゃん。チケットはどうやって探したの ? 」とメッセージをすると、「ちょっと待ってて。あ、成田発着ならお安いわよ」と即答です。「ううううん、金沢からだと小松発着が便利なのよね、車で空港行って、旅行中は駐車させてもらえるからね、国際便利用だと…」「小松発着ね。ううんと、でも、倍近くになっちゃうわよ~」「でも、金沢から成田まで、ってかなり大変なのよね。陸路だと荷物もあるし、空路だと小松からの便が少なくて…」などと話して、結局ドーハ経由の便が取れました。「でも美保子、帰りは羽田で7時間待たなきゃいけないわよ…」

そうなのです。地方の町からの海外旅行は、国内移動が大変だったりするのです。

というわけで、丸一日以上、各空港で3-4時間の乗り換え時間を過ごし、小松~羽田 (50分) 、羽田~ドーハ (約10時間) 、ドーハ~バルセロナ (約6時間) という経路で無事到着。これか、南回りっていうのは…。想像以上にハードであり、また20-30歳代の頃の体力も無し。ああ、もっと若い時に体験しておけば良かった、と、南回りデビューを振り返ります。

時差ぼけを治すには、数日のゆったりした美々ちゃん邸での滞在はありがたかったのですが、そこに連日、朝や午後のスコールのような雨。体がついていきません。

晴れ間を見て散歩など楽しんだのですが (先月お話ししましたね) 、やはり旧友たちにも会いたい気持ちには勝てません。「ね、エリ、バルセロナに着いたんだけど、いつ会える ? 」と連絡をしたのは、滞在1週間たった頃。「あ、美保子、もうじき、ボビンレースの教室が夏休みに入るのよ。今度の火曜日なんだけど、見に来る ? その次の火曜日は最終日パーティーよ」

噂に聞いたことのあるボビンレース。手芸が大好きで、毛糸、布地、ビーズ、などなどを使い、とっても可愛い小物を作るエリセンダ (Instagram @elisendabachs) は、なんとボビンレースのお教室にまで通っています。

「見学させてもらえるなら、行ってみたい ! 」
「¡Claro que sí! (※先月の『今月のフレーズ』のおさらいですよ ! ) 」

ということで、美々ちゃんのお宅から、昔貸していただいていたアパートの一階に住んでいる大家さんであり、親友であり、姉である巡礼仲間Pさん(2016年10月号)のお家に移動です。サンツ地区は、バルセロナの新市街を外れてはいるものの、スペイン広場やサンツ駅は徒歩15分圏、町の南に位置しています。バルセロナ・ジュゼップ・タラデージャス (エル・プラット) 空港にもアクセスが良く、便利なところです。昔住んでいたアパートは地下鉄の駅の真ん前。平日は24時まで動いている交通機関があるため、アラーム解除キーと鍵をもらって、自由に出入りできるので大助かりです。

「エリセンダ ! お久しぶり ! 」と、お教室のビルの前で会い、それから5年ぶりの再会に会話が止まりません。ボビンレースのお教室 (Instagram @puntairescat) は、町の中心部にあります。それぞれの生徒さんが、自分の作りたい作品の下絵を用意し、難しいところに来ると「先生、ここどうすればいい ? 」と相談。黙々と作品を仕上げているか、と思いきや、みんな和気あいあい、おしゃべりが続きます。日本のカルチャースクールもこんな感じなのかな、と思ったのですが、日本でカルチャースクールに通ったことのない筆者にとって、想像にしか過ぎません。なにしろ、とっても自由なのです。

作品の設計図というのか、下絵というのか。この図に沿って作成する

「そうそう、ユカリは元気にしてるの ? なんでも、彼女とも長いこと会ってないから。美保子とは友達なんだって ? 」
「そうなのよ ! ¡El mundo es un pañuelo! (エル・ムンド・エス・ウン・パニュエロ=世界はハンカチ ! =世間は狭い ! ) 」
「ユカリは本当に上達早かったし、器用だったし、センスあったし、素敵な作品を作っていたわよねー。まだ続けているのかしらね~ ? 」と懐かしげな先生。
「今度聞いておくね ! 」という約束をし、生徒さんの作製の見学です。

想像以上に幅の狭い机と少ない道具に驚きだ

手芸の時は、もっと洋裁小物や道具がテーブルいっぱいに並ぶのかな、という想像とは違い、ボビンレースを作成するクッションと、小さなポーチがあるだけで、意外と場所を取らないようです。

いきなり訪問の筆者を見て、にっこり話しかけてくれる生徒さん。かなりの熟練者なのかしら、手元から目を離しても、大丈夫そうです。先生に質問してる、というよりも、世間話の方が多い感じに見え、かなり長年通ってらっしゃる感じの生徒さん。このお教室を運営しているのは、『カタルーニャボビンレース協会』なので、伝統あるこの工芸を代々引き継いで行こうというのが会の目的でもあるようです。

作品を近くで見せてもらうと、これはこれは…。かなりの緻密さが感じられ、筆者の性格では難しいかも、と思うが
ボビンといえば、ミシンの下糸のものならば想像できるが、この垂れ下がった『ボビン』で、どうやって糸がほどけないのか、頭を悩ませる

かなりの数のボビンに、作品に使う糸が巻かれているのですが、作品の作製以前の下準備が必要なのがわかります。編み物の経験はあるのですが、あれは一本の毛糸を編んでいくもので、かぎ針なら1本、棒編みなら2本で済むのに、ボビンレースは全然違うのがわかります。かぎ針のレース編みというのとも違うので、全く未知の世界を見せてもらいました。

かちゃかちゃかちゃ、からからから、と木製のボビンがたてる涼しい音が続きます。ただ、筆者が見ても、この多数のボビンをどういう順番で動かしているのか、というのは解明できなかったのですが…。

そして、この無数の針も圧巻です。針を図面の上に立てて、ボビンを動かし、糸を引っ掛けながら作品ができていくわけなのですが、引っ掛け方を間違えば、針を外した時に糸も外れていきますよね。糸が二重に絡まったりしたら、そこは結び目のように糸が盛り上がったりしちゃうわけですよね ? そうするとせっかくの作品も台無しだと思うし、その結び目までほどく、という作業も目眩がするくらい気の遠くなる作業のように感じるのですが…。

先生がボビンに糸を巻きつけ始めた。簡単そうに見えるが、どこか力の入れ方にコツがあるような気がする

先生は、さぞ生徒さんに付きっきりでデザインの指導なのかな、と思っていると、なんとボビンに糸を巻きつける作業を始めるではないですか ! 初歩の初歩、この作業が、一番重要なんだなぁ、と思えた瞬間です。両手をよく観察すると、巻きつける時の力加減も重要なんだな、と見えてきます。さすが、先生はすごいですし、生徒さんがずっと通ってきて、わからないところや間違ったところを尋ねたりするわけです。

そんな楽しそうなクラスの邪魔をしてはいけないと思い、お別れの挨拶をすると、「ねぇ来週は学期末のパーティーだから、ぜひ来てね」というお誘いを受けました。とってもフレンドリーなクラスです。でも、「ありがとうございます、ではぜひ ! 」と答えたものの、なんとこの後体調不良が起こってしまうわけです…。せっかくの長期休暇なのに、着々と日にちが消化されていくという焦り…。まあ、休暇はリフレッシュと休養のためでもあるわけで…。

ということで、百聞は一見にしかず、をモットーに、接写してきた画像をお楽しみください。暑い夏の「不要不急の外出は控えましょう」にぴったりな、引きこもり時間に楽しめるボビンレース。来年の猛暑までまだ10ヶ月あります、みなさんも始めてみませんか ?


Liduvina Giralt (リドゥビナ・ジラート) (Instagram @liduvinagiralt) さんはバルセロナ近郊に住む、ボビンレースのエキスパート。コロナパンデミックまでは、エリセンダさんの教室の講師を長年続けていたが、今は自宅近隣の希望者に手ほどきを続けている

無数の針と、無数のボビンで作品が仕上がっていく
先生の作品を見せてもらう。結婚式で花嫁がつけるリボンとのこと。右は15センチ角ぐらい、額に入れて飾りたい
ボビンの順番が変わらないように、と思われる毛糸のボビンケース。ボビンの形もさまざまで、残念なことにその点を質問するのを忘れた。次回の里帰りにはぜひ解明したい

今月は、バルセロナでも愛好者の多いボビンレースをご紹介しました。先ほど、みなさんにお勧めしておいてなんですが…、筆者は…凝り性で、ボビンレース始めてしまうと、年中家から出なくなりそうなので、やめておきますね !

ダメダメまだ下手だから、と言いながら、ブックマークをプレゼントしてくれたエリセンダ。いや、十分素晴らしい作品である

今月のフレーズ

- スペイン語 -
¡El mundo es un pañuelo! (エル・ムンド・エス・ウン・パニュエロ)
「世界はハンカチ ! =世間は狭い ! 」