2024/09/10 業界コラム 杉田 美保子 スペインの知られざる文化 No.69 スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師 杉田 美保子 スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。 石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。 京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。 スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。 5月の終わり、日本ではそろそろ梅雨という時期なので、雨は珍しくないのですが、今年のバルセロナは日本に似て雨が多かったようです。慢性的な水不足の中、ワインやオリーブオイルも原料不作のため高騰。これが恵みの雨となったのなら良いのですが…。 やっぱり手作りって、温かいかなり長期の里帰りで、「これだけ日数に余裕があるなら、かなり多くの友人に再会できるかな」という目論見は、ものの見事に外れます。まずは、飛行時間の大幅な増加。現在、ロシア上空は飛行が禁じられているため、どの航空会社の運航も、ほとんどが南回りを余儀なくされている状況です。それに増し、5年ぶりの渡航。「ああ、どうやってチケットを選べばいいのかわからない ! 」。 そこに、バルセロナ在住の30-40歳台の友人たちの登場です。まして、彼らは日本大ファン ! 何度かこのコラムにも登場した、美々ちゃん、ライアちゃんです。「ねえねえ、最近日本に来たよね、美々ちゃん。チケットはどうやって探したの ? 」とメッセージをすると、「ちょっと待ってて。あ、成田発着ならお安いわよ」と即答です。「ううううん、金沢からだと小松発着が便利なのよね、車で空港行って、旅行中は駐車させてもらえるからね、国際便利用だと…」「小松発着ね。ううんと、でも、倍近くになっちゃうわよ~」「でも、金沢から成田まで、ってかなり大変なのよね。陸路だと荷物もあるし、空路だと小松からの便が少なくて…」などと話して、結局ドーハ経由の便が取れました。「でも美保子、帰りは羽田で7時間待たなきゃいけないわよ…」 そうなのです。地方の町からの海外旅行は、国内移動が大変だったりするのです。 というわけで、丸一日以上、各空港で3-4時間の乗り換え時間を過ごし、小松~羽田 (50分) 、羽田~ドーハ (約10時間) 、ドーハ~バルセロナ (約6時間) という経路で無事到着。これか、南回りっていうのは…。想像以上にハードであり、また20-30歳代の頃の体力も無し。ああ、もっと若い時に体験しておけば良かった、と、南回りデビューを振り返ります。 時差ぼけを治すには、数日のゆったりした美々ちゃん邸での滞在はありがたかったのですが、そこに連日、朝や午後のスコールのような雨。体がついていきません。 晴れ間を見て散歩など楽しんだのですが (先月お話ししましたね) 、やはり旧友たちにも会いたい気持ちには勝てません。「ね、エリ、バルセロナに着いたんだけど、いつ会える ? 」と連絡をしたのは、滞在1週間たった頃。「あ、美保子、もうじき、ボビンレースの教室が夏休みに入るのよ。今度の火曜日なんだけど、見に来る ? その次の火曜日は最終日パーティーよ」 噂に聞いたことのあるボビンレース。手芸が大好きで、毛糸、布地、ビーズ、などなどを使い、とっても可愛い小物を作るエリセンダ (Instagram @elisendabachs) は、なんとボビンレースのお教室にまで通っています。 「見学させてもらえるなら、行ってみたい ! 」 「¡Claro que sí! (※先月の『今月のフレーズ』のおさらいですよ ! ) 」 ということで、美々ちゃんのお宅から、昔貸していただいていたアパートの一階に住んでいる大家さんであり、親友であり、姉である巡礼仲間Pさん(2016年10月号)のお家に移動です。サンツ地区は、バルセロナの新市街を外れてはいるものの、スペイン広場やサンツ駅は徒歩15分圏、町の南に位置しています。バルセロナ・ジュゼップ・タラデージャス (エル・プラット) 空港にもアクセスが良く、便利なところです。昔住んでいたアパートは地下鉄の駅の真ん前。平日は24時まで動いている交通機関があるため、アラーム解除キーと鍵をもらって、自由に出入りできるので大助かりです。 「エリセンダ ! お久しぶり ! 」と、お教室のビルの前で会い、それから5年ぶりの再会に会話が止まりません。ボビンレースのお教室 (Instagram @puntairescat) は、町の中心部にあります。それぞれの生徒さんが、自分の作りたい作品の下絵を用意し、難しいところに来ると「先生、ここどうすればいい ? 」と相談。黙々と作品を仕上げているか、と思いきや、みんな和気あいあい、おしゃべりが続きます。日本のカルチャースクールもこんな感じなのかな、と思ったのですが、日本でカルチャースクールに通ったことのない筆者にとって、想像にしか過ぎません。なにしろ、とっても自由なのです。 作品の設計図というのか、下絵というのか。この図に沿って作成する「そうそう、ユカリは元気にしてるの ? なんでも、彼女とも長いこと会ってないから。美保子とは友達なんだって ? 」 「そうなのよ ! ¡El mundo es un pañuelo! (エル・ムンド・エス・ウン・パニュエロ=世界はハンカチ ! =世間は狭い ! ) 」 「ユカリは本当に上達早かったし、器用だったし、センスあったし、素敵な作品を作っていたわよねー。まだ続けているのかしらね~ ? 」と懐かしげな先生。 「今度聞いておくね ! 」という約束をし、生徒さんの作製の見学です。 想像以上に幅の狭い机と少ない道具に驚きだ手芸の時は、もっと洋裁小物や道具がテーブルいっぱいに並ぶのかな、という想像とは違い、ボビンレースを作成するクッションと、小さなポーチがあるだけで、意外と場所を取らないようです。 いきなり訪問の筆者を見て、にっこり話しかけてくれる生徒さん。かなりの熟練者なのかしら、手元から目を離しても、大丈夫そうです。先生に質問してる、というよりも、世間話の方が多い感じに見え、かなり長年通ってらっしゃる感じの生徒さん。このお教室を運営しているのは、『カタルーニャボビンレース協会』なので、伝統あるこの工芸を代々引き継いで行こうというのが会の目的でもあるようです。 作品を近くで見せてもらうと、これはこれは…。かなりの緻密さが感じられ、筆者の性格では難しいかも、と思うがボビンといえば、ミシンの下糸のものならば想像できるが、この垂れ下がった『ボビン』で、どうやって糸がほどけないのか、頭を悩ませるかなりの数のボビンに、作品に使う糸が巻かれているのですが、作品の作製以前の下準備が必要なのがわかります。編み物の経験はあるのですが、あれは一本の毛糸を編んでいくもので、かぎ針なら1本、棒編みなら2本で済むのに、ボビンレースは全然違うのがわかります。かぎ針のレース編みというのとも違うので、全く未知の世界を見せてもらいました。 かちゃかちゃかちゃ、からからから、と木製のボビンがたてる涼しい音が続きます。ただ、筆者が見ても、この多数のボビンをどういう順番で動かしているのか、というのは解明できなかったのですが…。 そして、この無数の針も圧巻です。針を図面の上に立てて、ボビンを動かし、糸を引っ掛けながら作品ができていくわけなのですが、引っ掛け方を間違えば、針を外した時に糸も外れていきますよね。糸が二重に絡まったりしたら、そこは結び目のように糸が盛り上がったりしちゃうわけですよね ? そうするとせっかくの作品も台無しだと思うし、その結び目までほどく、という作業も目眩がするくらい気の遠くなる作業のように感じるのですが…。 先生がボビンに糸を巻きつけ始めた。簡単そうに見えるが、どこか力の入れ方にコツがあるような気がする先生は、さぞ生徒さんに付きっきりでデザインの指導なのかな、と思っていると、なんとボビンに糸を巻きつける作業を始めるではないですか ! 初歩の初歩、この作業が、一番重要なんだなぁ、と思えた瞬間です。両手をよく観察すると、巻きつける時の力加減も重要なんだな、と見えてきます。さすが、先生はすごいですし、生徒さんがずっと通ってきて、わからないところや間違ったところを尋ねたりするわけです。 そんな楽しそうなクラスの邪魔をしてはいけないと思い、お別れの挨拶をすると、「ねぇ来週は学期末のパーティーだから、ぜひ来てね」というお誘いを受けました。とってもフレンドリーなクラスです。でも、「ありがとうございます、ではぜひ ! 」と答えたものの、なんとこの後体調不良が起こってしまうわけです…。せっかくの長期休暇なのに、着々と日にちが消化されていくという焦り…。まあ、休暇はリフレッシュと休養のためでもあるわけで…。 ということで、百聞は一見にしかず、をモットーに、接写してきた画像をお楽しみください。暑い夏の「不要不急の外出は控えましょう」にぴったりな、引きこもり時間に楽しめるボビンレース。来年の猛暑までまだ10ヶ月あります、みなさんも始めてみませんか ? https://www.shinkawa.co.jp/wp-content/uploads/2024/09/bobinraceoutside.mp4Liduvina Giralt (リドゥビナ・ジラート) (Instagram @liduvinagiralt) さんはバルセロナ近郊に住む、ボビンレースのエキスパート。コロナパンデミックまでは、エリセンダさんの教室の講師を長年続けていたが、今は自宅近隣の希望者に手ほどきを続けている無数の針と、無数のボビンで作品が仕上がっていく先生の作品を見せてもらう。結婚式で花嫁がつけるリボンとのこと。右は15センチ角ぐらい、額に入れて飾りたいボビンの順番が変わらないように、と思われる毛糸のボビンケース。ボビンの形もさまざまで、残念なことにその点を質問するのを忘れた。次回の里帰りにはぜひ解明したい今月は、バルセロナでも愛好者の多いボビンレースをご紹介しました。先ほど、みなさんにお勧めしておいてなんですが…、筆者は…凝り性で、ボビンレース始めてしまうと、年中家から出なくなりそうなので、やめておきますね ! ダメダメまだ下手だから、と言いながら、ブックマークをプレゼントしてくれたエリセンダ。いや、十分素晴らしい作品である今月のフレーズ - スペイン語 - ¡El mundo es un pañuelo! (エル・ムンド・エス・ウン・パニュエロ) 「世界はハンカチ ! =世間は狭い ! 」 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師 杉田 美保子さんのその他の記事 2024/09/10 業界コラム スペインの知られざる文化 No.69 2024/08/07 業界コラム スペインの知られざる文化 No.68 2024/07/09 業界コラム スペインの知られざる文化 No.67 2024/06/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.66 2024/05/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.18 2024/04/09 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.17 2024/03/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.16 2024/01/10 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.15 2023/12/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.14 2023/11/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.13 2023/10/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.65 2023/09/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.64 2023/07/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.12 2023/06/13 業界コラム スペインの知られざる文化 No.63 2023/05/09 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.11 2023/04/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.10 2023/03/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.9 2023/02/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.8 2023/01/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.7 2022/12/13 業界コラム スペインの知られざる文化 No.62 2022/11/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.61 2022/10/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.60 2022/09/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.59 2022/08/09 業界コラム スペインの知られざる文化 No.58 2022/07/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.6 2022/06/14 業界コラム スペインの知られざる文化 No. 57 2022/05/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.56 2022/04/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.55 2022/03/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.54 2022/02/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.53 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月