スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師

杉田 美保子

スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。
石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。
京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。

スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。

夏はほぼ「草刈り」しか出来ず、それも酷暑のため「放置」となってしまった畑の周囲は、最後の稲刈りが進んでいて、ああ、秋だな、と感じるとともに、畑の放置雑草も枯れ始めています。秋の畑BBQまであと一週間の今日、しとしと降る雨を恨みながらも、さて、今月は何をお話ししようかな、と記憶の引き出しを開いては閉じ、閉じては開き…。

お米、古今東西

先月は、寸胴鍋で20キロのお米を炊いた、と言うお話をしました。そこで、今日はスペイン・日本共通に使う食材、お米の話をすることにしますね。

友達のお母さんのパエリヤ。日本では手に入りにくい手長海老とムール貝。お米はちょっとアルデンテ

スペインでは、みなさんご存知のように、パエリヤという一品が有名です。炊き込みご飯、というよりは、煮込みご飯に近い作り方です。詳しいレシピは割愛しますが、海鮮の場合はエビやイカ、あさりから出るスープで、陸の幸であれば、お肉や野菜から出たスープがベースとなります。お米を投入する前には、材料を炒めたり、炒めたものを鍋から取り出し後ほど入れたり、茹でてスープをとったり、と、想像以上の様々なプロセスがあるのです。

バルセロナで生活していて教えてもらった面白い話の一つが、「一週間のうち、パエリヤを食べる日が決まっている」ということですね。ランチメニューの一品目として選べるのが、パエリヤ。

九月末、畑両脇と向かいの田んぼ。刈り取りの時期により、落穂が芽吹き、田んぼの色が違う。
10月半ば過ぎ、夏の終わりに刈り取られた田んぼの落穂からは芽が出て、なんと穂もついている !

もちろんパエリヤをメインとして食べることもできますが、パエリヤは「前菜」扱いです。そして、よっぽどの観光地以外では、パエリヤがメニューに載るのは木曜日です。

調べると、これはもう数十年前からの「言い伝え」もしくは「都市伝説」でもあるようで、その理由もいくつかあるらしく、私が知っているもの以外もサラリと書き加えますね。まず私が教えてもらったのが、その昔、家庭に住み込みで働いていたお手伝いさんたちの休暇が木曜日だったということ。そのため、水曜日中にお手伝いさんは仕込みを終え、ルンルンと休日。木曜日にそのお家の「ご主人さま」が、前日に仕込み済みのパエリヤ鍋を火にかけ、スープにお米を投入。20分待てば、さあ、パエリヤ出来上がり、というもの。お米投入なら、誰にでもできる調理ですよね。

あと二つ、調べて出てきたものの一つが、スペイン独裁時代のフランコが、食事に出かけるのが木曜日という慣例だったというもの。彼の好物がパエリヤだったため、様々なレストランがこぞって木曜日にパエリヤを用意し、あわよくば昼食に来店してもらおうとした、というもの。そして、もう一つが、レストランやバル、定食屋などの飲食店は金曜日に新鮮な食材を買い出しに行くため、木曜日にその週に残った食材でパエリヤを作る、というものです。どの言い伝えも、それなりにうなずけますね。

さて、話は逸れましたが、お米の話。私が滞在していた頃、どの友人たちも、パエリヤ鍋のスープには、袋からデミタスカップに直接お米を入れ(デミタスカップ一杯で一人分だったような、二杯だったか、そんなざっくりな計算方法)、白米を洗わずに投入していました。

「えー ? 」

そして、私が巻き寿司指導の時に「お米は洗うんですよ」と言い、ボールに計量カップで入れたお米に水道の水を入れると、必ず聞こえたのが…

昔、陶器を習っていた先生の家に行ったら、土鍋でお米料理を作ってくれた。フライパンで米を炒めて、土鍋の具材とスープを合体、グツグツグツ

「えー ? 」

これが、本当のカルチャーショックというものですね。お互い、真剣に驚いたものです。

バルセロナ市民文化センターで日本料理の講座をしていた時、基本としてお米を洗って炊く、という説明をしていました。16人ほどが巻き寿司を巻きたい、「Sushi」をお家で作りたい、早く食べたい、というのはわかるので、この場合はワークショップとなりました。家から寿司飯になったご飯をタッパーで運ぶのですが、やはり実習で教えないことには、生徒さんが家で作れません。さて、「お米を洗う」という言葉で、みなさんは何を想像されますか ?

調理実習中、いろいろなことが起こりましたが、その一つでお米に関することでいうと、お米の粒が粉々になってしまう、というものです。多分、お米の乾燥度が低く、粒一つ一つが「透明」ではなく、「白色」なのが問題なのかしら ? それとも、「洗う」という行為でお米をゴシゴシしごいてしまうからかしら ? 生徒さんの1人にやってもらうのですが、粉々になったお米の粒からは、無限に白い水が出てきます。「水が濁らなくなるまで洗いましょう」なんて言おうものなら、余計にゴシゴシ。「あああ、お米、溶けて無くなっちゃう ! 」と思ったものです。

スーパーに並ぶお米のパック。基本1キロ単位。0,74€というのは、1€の下の単位、74センティモ(現在の為替では107円ほど)。ちなみに、これはほぼ5年ほど前の価格

日本食材店に行けば、スペインの湿地帯デルタ・デル・エブロ(Delta del Ebro、エブロ川のデルタ地域)産の日本米が手に入るものの、できれば地元のスーパーで手に入るものでトライしました。試行錯誤を重ね、スーパーでのお米の選択にも気を遣い、なんとか巻き寿司用の寿司飯が完成したわけです。ただ、講座数年後には、「お寿司用のお米は、〇〇という日本食材店で販売されている「お寿司用」のお米がおすすめです」と言うようになりましたが。それほど、スペインのパエリヤを作る白米と、日本の白いご飯を炊くときのお米は、違っています。見た目は、形も粒の大きさも、同じお米なのですが…。

去年の玄米に、虫がわいた ! また半日日陰で黙々と作業する羽目に…

私が「玄米」に着目したのは、7年半前に日本に戻ってきてからのことです。ここ三年ほどの、新型コロナ感染症が流行し始め、やれコロナ対策だ、やれ予防だ、という騒ぎの中で出会った人々は、不思議と自然派志向の人が多いです。その友人たちと食の安全性や、添加物の危惧などを話したり、いろんな情報をネットや書籍で取りに行ったり、となると、自ずと食べるものへの関心も変わっていきました。それまでは何も考えず、スーパーで安売りしているものを買ったりしていたのですが、もう少し商品表示を見るようになり、玄米ももう少し食べてみようかな、なんてことも思い始めました。バルセロナでも玄米が売られていましたが、吸水時間が長いとか、いろんな理由づけで食べることは少なかったです。そんな中、日本で玄米に出会ったのです。

帰国後すぐ、弟が「もらった玄米だけど、僕食べきれないから、姉ちゃんにあげる。精米していないから、保存きくよ」と。それがなんと「古々々々米」になった頃、やっと食べ終えることになりました。そして、なんと去年また、別の方から「食べきれないから食べて」と玄米をいただくことになったのです。スペインでは「精米機」の存在も知らずに27年暮らしてきた筆者、日本人でありながら、実はお米の保存方法すら知らなかったのです~。

先週、その去年新米だった玄米に、蝶々のような虫が発生していることが判明 ! あああ、軽く10キロはある ! どうしよう ! 慌てふためき、友人知人の農家さんたちに相談。「成虫は外でザルにあけて風通せばいなくなるよ。あとは、ちよっとずつ虫とかサナギを取り除けば、大丈夫だよ」「精米して、洗ったら、問題なく食べれるよ」という情報を得たのです。ここ数日、気温も下がり、外での作業も楽になったので、日陰に座り、ザルで少しずつ虫退治。「保存するならば、ビニール袋に直接じゃなくて、紙の袋に入れてからの方がいいわよ。いくら乾燥してあっても、冷蔵庫に入れると汗かくからね」などなど、お米の取り扱いについてのアドバイスが集まってきます。

「なんで冷蔵庫に入れておかなかったの ? 」とは、また別の友達からの言葉。「ううううん。知らなかった~。それに、そんなにたくさんのお米、冷蔵庫に入りきらないし~。まあ、ぼちぼち考えるわ」と答え、今も思案中です。

人生四捨五入で還暦、という筆者ですが、バルセロナ滞在中は、お米といっても1キロパックのものが主流で、当時の価格でいうと1キロ100円ほど。スーパーはすぐ近くにあるので、買って家で保管する必要がなかったわけです。

どうしても、巻き寿司、握り寿司が作りたい、という料理教室の参加者たち。私はちらし寿司や豆ご飯の方がいいと思うのだが…

その上、年中通して湿度は低く、夏にお米を冷蔵庫に入れる、なんていうことは考えたこともありませんでした。それが、日本では1キロパックは割高だから買わないし、親戚や友人知人からお米をいただく機会も増え、ここ7年半でお米を購入したのは2度ほど。ましてそのいただく量が半端なく多い、となると、別の意味でのストレスが生じるものだったんですね。それと同時に、嬉しい悲鳴は出るのですが~。ありがたいことです。

去年までの家庭菜園ではなく、もう少し大きな畑を始めてから、日々集う人たちが変わってきました。地元密着です。そんな中、もうそろそろバルセロナに里帰りをしたいな、とか、思い切って再移住をすべきかな、などという妄想が頭をよぎらないわけではないのですが、現実はちょっと違ってきましたね。戦争だ、物価高騰だ、頭が痛くなるテーマばかりが耳に入ってきます。

どちらも日本で、日本のお米で作った食事。こちらも、郷に入りては郷に従え、ということで、日本のお米でのパエリヤ作りには、苦戦した。やはり白米で食べるのが美味しい日本米

アユを焼きながら思い出すのは、スペインの赤ワイン。料理教室には生徒さんから毎回ワインの差し入れがあった。若い学生コンビは、若いワインに「ビンテージワインのつもり」と手書きでラベルを書いてきた。ユーモアもここまでくれば最高 !

ということで、「郷に入りては、郷に従え」という言葉通り、まだしばらく、この日本の日々の生活を楽しもう、って思い始めています。今宵は七輪で炭をおこし、これまた頂き物のアユを焼いています。雨の日のスローライフです。アユが焼けるのを待つ間、来月のテーマ探しにいそしみますね。雨の日も悪くないものです。

今日は、あまりにも身近すぎて考えたこともなかったお米の取り扱い方を交えて、スペインと日本の違いについてお話ししてみました。

今月のフレーズは
¡¡Viva la vida!! (ビバ・ラ・ビダ ! )
「人生を生きろ ! 」