スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師

杉田 美保子

スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。
石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。
京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。

スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。

令和も6年となり3ヶ月。1月、2月と想像以上に雪が降り、今季は暖冬と言われていたのに拍子抜けでした。そんな寒い季節、北陸では室内でのアクティビティに勤しむことになります。大学時代は競技スキー部に所属し、冬は山籠りをしていたものですが、かれこれ15年以上はゲレンデに行っていないことに気づきました。ただ、おかげさまで北陸は雪が降り、朝起きると20センチの積雪、なんてことも稀にあり、「さ、スノートレーニングだ ! 」と起きがけの体に鞭を打ち…

初めて会った人とも盛り上がるスペース !

スノートレーニングと名付けるのは、「雪かき」なのですが、これはもう北陸に住む人の宿命というもので、まして近隣の方々が高齢化していく昨今、お隣さん、お向かいさんのおうちも、と、避けては通れないアクティビティ。それなら「ジムに行く時間とお金を節約」と思い、「トレーニング」と名付けたわけです。

令和5年12月23日の雪。ロマンチックとも言える。車の屋根雪を下ろし、動けるように雪をすかしていく作業は、かなり汗をかく。令和6年1月24日の朝の雪もそれなりに積もり、再びトレーニング

さて、初対面の人との会話が苦手、という方、いらっしゃいますか ? 日本は特に、上下関係であったり、敬語や謙譲語だったり、生活する上でマナーが重要視される気がするのは、筆者が「かぶれて」いるからなのでしょうか ? このスノートレーニングを行うと、自分の住む町会の方々との世間話の他に、この町会の境界線で、今までお話ししたことのない方との会話が始まります。雪の時にしか会わないちょっと離れたご近所さん。こうやって顔見知りさんが増えて行くのですね。とはいえ、顔や名前を覚えるのが苦手な筆者、だから知らない人にも「こんにちは」と挨拶をしてしまうのでしょうか…。

郵便局で受け取った荷物。オリオールにはメッセージアプリで受け取り報告

前々回、ゲームデザイナーのオリオールの金沢滞在のお話をしました (2023年12月号) 。なんと金沢で、自分が昔デザインしたボードゲームを見つけて感動したオリオールは「よし、バルセロナに戻ったら、別のゲームを郵送するから、「ゲームスペース金沢に届けてよ。美保子の分も送るから ! 」と言い、バルセロナに帰って行きました。「ガウディのタイルゲーム」です。筆者は、冬以外、畑に入り浸っているため、今回もポストに不在通知です。郵便局に向かうことができたのは午後7時過ぎ。お、良い時間じゃないですか ! そうです。ゲームスペース金沢の平日開館時間が午後7時 ! 今日は木曜日 ! ということで、届いた郵便物をそのまま持参することにしたのです。

サンジョルディの日の、ガウディの「カサ・バッリョー(Casa Batlló、バッリョー邸)」Passeig de Gràcia通りにある

金沢在住も長くなってきましたが、知らない町に行く時にはナビが無いと心もとない、それも暗いと、ということで履歴を探し、いざ、ゲームスペース金沢へ ! 目的地付近で後ろを確認、スピードを落として入り口を探します。2度目のゲームスペース金沢、入り口におびただしく並ぶかわいいスリッパたちを前に、しばし思案し、そして2階に上がります。プチプチで梱包された郵便物を抱え、初回同様ガラスのドア越しから中を覗く筆者は、もし誰かに見られていたら、まるで怪しい人そのもの…。
「こんばんは ! 」「おお、先日はどうもぉ」だったと記憶するご挨拶をし、早速、来スペースの目的を説明。「はい。届きました ! 」「おお ! これですね ! 」と、これもこういう会話だったと記憶しているだけで、細かいところにはお互いこだわらない私たち。早速開封が始まります。

「なんか、かなりな簡易包装ですよね。こんな感じでもちゃんと届くんですね」とお互いにびっくりな、プチプチシートに包まれただけのボードゲーム。「お、六角形のボックス。おしゃれですね」

Passeig de Gràcia通りの歩道には、ガウディデザインのタイルが敷き詰めてある。現在のタイルは、スペイン国王の2番目の姉クリスティーナの挙式パレードのため、1997年に張り替えられたもの

そうなのです。オリオールが考案したゲームの元となったガウディのタイルは、六角形なのです。そしてこのタイルは、バルセロナの目抜き通り、「パセオ・デ・グラシア (通り) 」の歩道に敷き詰めてあります。この道は、1.6キロの長さ、幅は61メートル。パリのシャンゼリゼ通りが幅70メートルなので、それより9メートル狭いだけ、というスケールです。19世紀に構築された道路のデザインの「街路樹、側道などを備えたブールバール」をモデルにしているのだそうです。調べたところによると、広島の平和大通りが英語名で「ピース・ブールバール」と呼ばれ、その幅は100メートル、長さ4キロ。これもまたスケールが違いますね。

「パセオ・デ・グラシア (Paseo de Gracia)」は、実はカタルーニャ語表記「Passeig de Gràcia」が公式名で、日本語読みでパセージ・ダ・グラシアと読むそう。この通りには、数々の歴史的建築物が立ち並び、現在のバルセロナ観光には欠かすことのできない通りです。バルセロナが今の碁盤の目のような形状になったのは、1859年の「セルダ計画 (Pla Cerdà) 」によるもので、現在は「バルセロナ」と言えばこの新市街が含められますが、その昔は城壁に囲まれた旧市街が中心地で、その周辺の村々 (現在は地区と呼ばれています) までの間は農地や野原だったわけで、そこをつなぐために道が発達していったのです。様々な都市計画が進められた末、1900-1914年にこの通りは、中産階級 (ブルジョワ階級) の人々の住居として現在に見られる建物群が増えました。ちょうどモダニズムが最盛期で、ガウディ、ドメネク・イ・ムンタネー、プッチ・イ・ガダファルクなどという建築家の建物が競うように建ったのです。

簡易包装に驚き、包みを開けると六角形の箱。「受け取りました報告」を逐一オリオールに
「説明書がこれで、タイルを切り離して、この小さいのは個人の駒だな」とボードゲームの準備に真剣なメンバー

さて、ゲームスペース金沢では、ガサゴソとゲームの用意です。すべての駒を切り離し、説明書を取り出し、「あ、日本語もあるんですね ! 」「そうなんです。かれこれ20年前に、このゲームを日本語でも説明したいと言ったオリオールと知り合いになったの」「へー。じゃあゲームを理解するのも簡単ですよね」とオヤジさんは言ってくれます。

説明書を読み進むと、翻訳者自らが「ん ? 」と…。「なんか、言い回しが硬いですかね ? 」と心配になったのですが、そこはボードゲームの達人 ! 「あ、そっか、わかった。じゃあ始めましょう」とカードを配り始めるじゃないですか ! こちらの午後8時ごろは、夏時間の時差で7時間、スペインは午後1時。「¡Molt difícil! (モォル・ディフィシル ! ) =とても難しい」とメッセージアプリで状況を伝えると、「何が難しいって ? いやいや、単純なゲームだから、すぐ理解できるよ」とオリオールからの返信。

結局、オヤジさんの指導のもと、もんじろうさん、常連のゲーマーさん、私との4人でのプレイ。「えー、この模様とこの色がここで、あってる ? 」「あ、ここが違う色とくっついちゃうのはNGなんだよね ? 」などと言いながら、説明書の図解と、オヤジさんの鋭いボードゲーム感覚とを駆使してゲームが進んでいきました。
「そっか、模様と色が一致したら、自分の持ち色の駒をその上に置くんだね。その数の多さで勝敗が決まるんだ」
「あ、自分の持ち色、自分の模様、自分の持ち色と模様の組み合わせ、この3つを攻めていくんだ ! 」
「あ、じゃあ、自分の指示カードは見せちゃダメじゃん ! 邪魔されるもんね ! 」
さすがゲームスペース金沢の方々は飲み込みが早く、説明書の翻訳に携わり「完璧 ! 」と確信していた筆者は、タジタジとなり、苦戦状態。

お試しのプレイなので、指示カードは他のメンバーにも見えているが、実は隠している方が良いようだ

これまで様々な翻訳をしてきて、当然現物を見ながら、わかりやすさを表現してきたつもりだったのですが、ボードゲームの世界はちょっと違ったようです。今回実際にゲームをしてみてしみじみと実感してしまいました。
さて、次こそは !
オリオール、もっとゲームを考案してください ! 待っていますよ !

ゲームスペース金沢に2つになったオリオール作のボードゲーム。これからもみんなでプレイしてもらえるよう願っている

今月のフレーズ

- カタルーニャ語 -
Molt dicícil! (モォル・ディフィシル ! )
「とても難しい ! 」

- スペイン語 -
¡Muy difícil! (ムイ・ディフィシル ! )
「とても難しい ! 」