2016/06/07 業界コラム 杉田 美保子 スペインのゆとり、日本のゆとり スペインの世界遺産「巡礼の道」No.2 スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師 杉田 美保子 スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。 石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。 京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。 スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。 前回のコラムでは、スペイン巡礼の道の出発点、ロンセスヴァジェス(Roncesvalles)まで到着しました。 ヒマワリ畑今回は、いよいよ実際に歩き始めることになります。一般的に、夜 9 時ごろから夕食が始まる、という宵っ張りな生活のスペインですが、さすがに巡礼の場合は勝手が違います。1 日 20km 前後を歩くため、体調管理は必須。寝不足の体で 7kg 前後の荷物を担いで炎天下を歩くなんて、神にもできない神業でしょう。 教会の内部をめぐるツアー。巡礼者たちの服装はラフで、 ビーチサンダルでも許される到着初日は、教会の上から下まで、そして教会の外にある遺骨が無造作に投げ込んであるお墓などを、次の日から一緒に巡礼の道を歩く人々と共にガイドツアーで案内してもらいました。午後 8 時から巡礼者のためにミサが行われ、各国語で祝福の言葉を頂くのですが、その感動を胸に夜 10 時に消灯。日本から巡礼の旅のために来た友達 S さんのご主人 O さんは、時差ぼけとの戦い。筆者の親友 P さんは懐中電灯を点け、持ってきたメモに日記をつけ始め、S さんと私は早々にベッドに。徒歩 1 日目の明日は起床 5 時半、出発 7 時ごろという設定にし、眠りについたのです。 7 月初めのスペイン7 月初めは、日本なら朝 4 時半には太陽が出て、夜 7 時近くまで明るいのですが、スペインとは少し太陽時差があります。朝 7 時前に日の出、夜 10 時ごろまで明るいスペインの地での午後 10 時消灯は、至難の技。慣れないユースホステルの 2 段ベッド、近隣から聴こえてくるイビキの合唱、寝入ったころに周りがザワザワとしてくるというわけで、眠ったのかどうなのかも分からないままベッドを出て、着替え、歯磨き、トイレを済ませ、靴を履き、いざ出発。 出発の際にとても重要なのがトイレと、リュックの荷物の作り方。 4-5km ごとに村があるとはいえ、日本のようにどこに行ってもトイレがある国ではないので、それなりの苦労をすることになります。リュックは、軽量にするため必要最低限のものしか入っていない、とは言え、日焼け止め、水筒、カメラなどはすぐに出せるようにしておかないと困るもの。そこで仕舞い方を失敗すると、歩いている時にリュックが右か左に偏ってしまい、歩きにくくなるのです。 夜行列車のようなコンパートメント式施設。 10 ユーロは高いと思ったが、次の日に前言撤回 出発が 7 時前、8 時ごろに最初の村に到着。朝食・トイレ休憩 7 月 11 日の出発は 7 時前。まだ夜が明けたばかりで、気温も穏やかで、長い影法師が道路に伸びるのですが、8 時を過ぎるころには太陽の光が「ギラギラ」となり始め、ここで「しまった!」が起こるのです。日焼け止め! 西に向かって歩くので、持参したサングラスは歩く時の邪魔になるだけでした。その分、後方から太陽の光がじりじりと腕、足、首などを突き刺すのです。早朝と昼間の気温差がとても大きく、太陽が出るやいなや、来ているものを脱ぎたくなるほどの暑さです。 巡礼の歩き方巡礼の歩き方にも、人それぞれスタイルがあり、2 時間おきに休憩を入れ、靴とリュックを取りたい派、止まると疲れが倍増するのでひたすら歩きたい派、などいろいろです。初日は 4 人で足並みを揃えて歩き始めたのですが、時計を見ながら休憩を入れるのではなく、身体が欲した時が休憩タイムなので、どうしても無理があったようです。掲示板には 20.7km とあったにもかかわらず、実際スビリ(Zubiri)という村までは 21.5km ほどで到着しました。ただ、嬉しいことにたくさんの日陰があったため、初日にしてはハイキングのようでとても楽でした。 黄色い矢印が巡礼の道しるべ。 紅白のラインは欧州規格の「GR/Gran Recorrido」、「長距離歩道」を意味し、 それぞれ番号が付いているロンセスヴァジェスは、スペインの北、まだ高地なので、森や林の中を通ったりするとかなりの日陰があります。前回お話しした青地に黄色の帆立貝のマークとは別に、シンプルな黄色い矢印も道しるべとして使われていて、道が分岐する場所では、この目印が重要になってきます。この「フランスの道」はいくつかある巡礼の道の中でもメインなので、道を間違えることはほとんどないほど整備されているのですが、それ以外のルートでは道を間違えて逆戻りを余儀なくされたりする場合もあるほどです。そんな時にどこに目印があるかを探しながら歩くのも、巡礼の醍醐味です。 親友 P さんが貧血になったのは、到着後の昼食時。見る見る真っ白になっていく彼女の顔を見た時に、みんなが「あちゃ〜」と思ったものでした。原因は、涼しかったために水分補給を十分にしなかったこと。「喉が渇いていなかったから」というのですが、体に必要な水分と喉の渇きは関係がないのですね。また、日陰が多かったので帽子を被らなかったこと。 そして、到着後に「汗をかいたまま昼食するのは嫌よ。」というのでシャワーを浴び、リラックスしすぎてしまったこと。いうなれば、軽度の熱中症のようなものでした。しばらく芝生に寝そべってから復活した P さんは、無事メインディシュのステーキを食べられるほどに復活したので、まずは 1 日目はクリアーですね。 朝の太陽が長い影ぼうしを作ってくれる。 「自撮り」ならぬ「自影ぼうし撮り」が厳しい行程中の楽しみの一つ宿泊施設には、公共のものとプライベートのものがありますが、公共のものはリーズナブルで、長丁場となる巡礼には必須の施設です。私たちの宿選びは、「リーズナブルに抑え、その分を食事に充てたい」というものだったので、最初に探すのは公共の宿泊施設でした。ロンセスヴァジェスには選択肢が無かったのですが、普通は村にいくつかの施設が存在し、その一つを選ぶのです。 さて、スビリでの宿泊施設ですが、多分ここが一番最悪だったかな、と思えるほどお粗末なものでした。使用しなくなった小学校の校舎が宿泊施設になったもので、1 教室に 22 のベッドが 2 段になり、所狭しと並び、それももちろん仕切りなしの男女兼用。女性用のシャワー室は 4 つあったものの、隣との仕切りがなく、排水口も詰まり気味、ビーチサンダルを履いて入っても水が逆流してくるのが気になる、という劣悪な状態。それが 8 ユーロとは、ロンセスヴァジェスの 4 人で一つのコンパートメント施設(充電用のコンセントとコイン式ロッカーが人数分装備)の 10 ユーロと比べると、とても割高感。 涼しい林の中、影が多いので嬉しい。つい帽子のことを忘れてしまう巡礼の道は、宿の当たり外れも想定内で、相部屋が嫌な人はワンランク上のオスタル(ホステル)やホテルをどうぞ、ということになります。老若男女混じった教室ですが、それぞれ疲れて到着するので、周りで誰が何をしていようとも、みんな我が道を行くので、着替えだろうがなんだろうが、平気なものです。ここに欧米人と日本人の男女関係の感覚の違いを見てしまいました。ただ、屋根のある施設で寝ることができ、水もトイレも整っているので、あまり文句を言うとバチが当たりますかね。 午後は全くのフリータイム午後は全くのフリータイム となります。昼食がだいたい午後 2 時なので、それが終わり洗濯をする人、柔軟体操をする人、街をぶらつく人、はたまた Siesta(シエスタ・昼寝)をする人などなど多種多様です。 15 ~ 20 分の Siesta が理想的で、頭も体もリフレッシュ。最近では名ばかりとなりましたが、私が渡西した当時は、Siesta の時間(14 ~ 16 時くらい)は商店が軒並み閉店したものです。スビリの村は、特にこれといった観光名所も無く、昼間は暑いので、おのずと宿泊施設の中庭に人の輪ができます。荷物を減らすために洗濯洗剤をケチって持ってきたため、どうしようかと考えていた時にログローニョという町出身の親子が巨大な洗濯石鹸を貸してくれました。これがきっかけで、巡礼での最初の友達ができたのです。ただ、「こんな大きな洗濯石鹸をリュックに入れて歩いているんだろうか、この人たちは?」という疑問も沸いたのですが。 夏が過ぎ、秋が近づくと、ヒマワリも枯れていく。 前を歩く巡礼者たちが道標の矢印とニッコリマークで「頑張れ」と励ましてくれるでは、次回は、スビリで出会った親子が、なぜとてつもない大きな洗濯石鹸を持って歩いているか、という謎に迫りつつ、道中での感動や見聞きしたもの、地域のお祭り、パンプローナの牛追い祭りについてお話しします。日本とは全く違う国のことで、読むだけでは「ピン」とこないかも知れませんが、ぜひ、お付き合いいただければ、と思います。 ¡Hasta luego! (アスタ・ルエゴ、「またね。さよなら」の意) この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師 杉田 美保子さんのその他の記事 2025/01/15 業界コラム スペインの知られざる文化 No.73 (最終回) 2024/12/10 業界コラム スペインの知られざる文化 No.72 2024/11/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.71 2024/10/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.70 2024/09/10 業界コラム スペインの知られざる文化 No.69 2024/08/07 業界コラム スペインの知られざる文化 No.68 2024/07/09 業界コラム スペインの知られざる文化 No.67 2024/06/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.66 2024/05/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.18 2024/04/09 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.17 2024/03/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.16 2024/01/10 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.15 2023/12/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.14 2023/11/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.13 2023/10/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.65 2023/09/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.64 2023/07/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.12 2023/06/13 業界コラム スペインの知られざる文化 No.63 2023/05/09 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.11 2023/04/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.10 2023/03/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.9 2023/02/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.8 2023/01/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.7 2022/12/13 業界コラム スペインの知られざる文化 No.62 2022/11/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.61 2022/10/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.60 2022/09/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.59 2022/08/09 業界コラム スペインの知られざる文化 No.58 2022/07/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.6 2022/06/14 業界コラム スペインの知られざる文化 No. 57 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月