2016/07/05 業界コラム 杉田 美保子 スペインのゆとり、日本のゆとり スペインの世界遺産「巡礼の道」No.3 スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師 杉田 美保子 スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。 石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。 京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。 スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。 前回は、巡礼の旅の中で一番お粗末なんじゃないか、というスビリ村(Zubiri)の公立宿泊施設に着き、昼食、シャワー、洗濯で一息つき、そこで大きな洗濯石鹸を持った親子と友達になりました。 今回は、パンプローナ(Pamplona)に向けて出発です。 Zubiri - Trinidad de Arre歩き始めてしばらくすると、朝日が昇る。悪い足元を照らす懐中電灯も必要になる 疲れて歩く道中で、こんなメッセージと出会う。 こちらもにっこりとなり、疲れも吹き飛ぶ「朝 6 時から 8 時の間に出発してください」という決まりがあるアルベルゲ(宿泊施設)が多いのですが、そうなると、必ず早起きの人が出てきます。私たちが 1 日で歩く距離を 17〜23km と決めたのは、夏の暑さと体力的なもの、そしてスポーツではない、あくまでもスピリチュアルな巡礼にしたい、そして可能な限り途中の村々の観光をしたい、という理由なのですが、外国からはるばる巡礼のために渡西してくる人の中には、短期間で 800km を歩きたい、ということで、1 日 30〜40km を目標にする人たちもいます。朝の涼しい頃にピッチを上げたいとなると、おのずと起床時間も繰り上がるので、早朝 5 時半、まだ暗い中でパッキングをして出て行く人がいます。 「かさかさごそごそ」というビニール袋の音、リュックを移動する音などで目がさめるのです。私たち一行も、前日の経験から得た教訓で、この日は朝 6 時半には出発することになりました。 バルセロナ(Barcelona)からパンプローナまで長距離バスで移動したので、その時すでに街の様子は「チラ見」したのですが、この頃はちょうどスペインの 3 大祭りの一つである「サン・フェルミン祭」別名「牛追い祭り」の真っ最中だったのです。7 月 6 日の「チュピナッソ(祭り開催のロケット花火)」に始まり、最終日 14 日まで、シンボルカラーの赤と白で町中が埋め尽くされ、お祭り騒ぎが一週間以上も続くのです。実際に牛を追うのは、朝 8 時から約 3 分間なのですが、牛の移動やジャイアント人形のパレード、伝統スポーツ競技会の開催など、町の行事は盛りだくさん。これが巡礼でなければ、じっくりお祭りを楽しむところなのに…、とは、私たちみんなの気持ち。 この期間パンプローナの巡礼者用宿泊施設はすべて閉鎖となります。今回の行程では、パンプローナの町を通り抜け次の村に一日で行くには、距離が長すぎるということで、パンプローナの一つ手前の村に宿を取ることにしました。Vilaba 村に到着し、尋ねると、この村の施設はすでに満室。「予約はありますか?」と聞かれ、「巡礼者は予約なんてしないんだ〜」と憤慨しながらも元来た道を 500m 戻り、隣接の村 Trinidad de Arre の巡礼者施設に宿を取ることになりました。この中庭が涼しく、20km の行程を終わった疲れた足に優しい芝生でストレッチ、そしてお待ちかねの昼食です。 「パチャラン」という食後酒を飲む。25-30 度のアルコール度数。 スピノサスモモのリキュールさて、だいたい徒歩の人たちは同じペースで歩くので、この Trinidad de Arre の村でも、前日の巨大固形洗濯石鹸親子と同じレストランにて昼食をとることになりました。あまり他人の様子に興味のない筆者ですが、よくよく観察すると、息子は日焼けし、お母さんは元気で、お父さんは杖をついて歩いている様子。巡礼の旅を車椅子で行く人、視覚障害の人、犬を連れている巡礼者、なんでもありなのですが、お父さんは妙に小綺麗だし、お母さんはあまり疲れた様子がない。不思議に思い、食後酒の酔いの勢いで、失礼を承知に聞いてみると、「主人は長距離を歩けないので、車で移動しているのよ。私の荷物は主人の車で次の村まで届けてもらうので、持つのは水筒だけよ。息子は若いので、 ちゃんと自分の荷物はリュックに背負っているわ」と。これで巨大固形洗濯石鹸の謎が解けました! お母さんの荷物は、お父さんが車で移動させていたのですね。だから、お母さんはハイキングのごとく、財布と水筒のみでルンルン歩けるんですね。6-7kg の荷物を肩に歩くのとは、体力の消耗が違いますね。で、これでも「巡礼だ」と言っちゃう人のゆとり。そして、それを見ても「あ、ずるい」と感じない人のゆとり。「あと数日歩くと、私たちの街に着くの。その時にはうちに泊まっていってね」とのお誘いを受けました。「巡礼スタンプだけ宿泊所にもらいに行けば良いんだから」と。「いえいえ、私たちは巡礼宿泊所に泊まるので、大丈夫ですよ」と答えましたが、どうなることでしょうか…。 このように、巡礼には数々のスタイルがありますが、基本的に「徒歩」、「自転車」、「馬」で行うことになります。自転車で巡礼をしている人は、徒歩での最後の巡礼者が宿に着くであろう夕方まで、宿泊施設に宿を取ることができず、夕方になって空きベッドがあれば泊まることができ、満室になった場合は自転車で次の村まで宿探しに行かなければならないというルールがあります。また、体力に自信がない、体調不良の場合などは、地域のタクシー会社などが行っている「リュック配送サービス」を利用すれば、到着予定の村の宿泊施設まで荷物を運んでもらえるので、助かります。みんながみんな体力自慢ではなく、暑さで参っちゃう人、靴が合わなくて泣いちゃう人、巡礼にはハプニングがつきものなのです。 町の中心部にある牛追いの像の周りでは、写真撮影が続く洗濯、シャワー、休憩のあと、バスでパンプローナの街へ。街に降り立つと、町中白と赤の服装の人たちばかり! 偶然にも赤と白のギンガムチェックのボトムを持参していたので、白い T シャツと組み合わせれば、すっかりパンプローナの街に溶け込んでしまいました。ビーチサンダルの私たちに比べ、現地のお祭り参加者たちはスニーカーで、バケツに近い大きなコップに入ったビールを手に、大騒ぎ。ノリにノリまくった参加者たちの酔っ払った様子が、楽しくもあり、ちょっと怖くもあり。そのお祭りの参加者が首に巻くのが赤い三角のスカーフ。それぞれのグループごとに刺繍やロゴが入っていて、見ていて楽しいもの。 走れるように、足元はスニーカー 首に巻くスカーフ。 各町内会、グループによって、 デザインもロゴも違うが、一律「赤」となっている 諸説によると、キリスト教で殉死した聖職者を聖人として名誉を讃える場合には、司祭は赤を着る、ということで、この聖人フェルミンも殉死したからとのこと。また、お祭りが始まるまでは、手首やポケットにしまわれている赤い三角のスカーフですが、「聖フェルミン、万歳」という合図で、首や頭につけられるのが習わしとのこと。 なにしろ、スペインの人たちは、お酒に強い! 一般的な日本人より体格が良いからなのか、それともアルコールを消化する酵素がたくさんあるのか、なにしろ、お酒に強い! 昼食にワイン、夕方にビール、夕食にもワイン、それに食後酒。これで体を悪くしないのかな、と思えば、日本に次ぐ平均寿命の高い国なのです。 さまざまなピンチョスがカウンターに並び、 一つずつ注文しても、全部を食べきれないということで、昼食の食後酒からサンフェルミン祭りでのつまみ食い、スペイン北部で特に有名な「ピンチョス(Pinchos)」とワインの飲み歩きで夕食を済まし、「あと一杯」というところで後ろ髪を引かれながら、門限 21 時半の宿舎に戻ったのでした。 では、次回は、まだまだ祭りで賑わう泥酔状態のパンプローナの町をどのように通り抜け、巡礼の旅を続けていったか、を続けますね。だんだん疲れが溜まり始めるわけで、またまたハプニングが起こります。では、来月もまたお付き合いいただければ、と思います。 まだ夕方の町。朝は牛が走る道を、 午後は酔っ払った人々が千鳥足¡Hasta luego! (アスタ・ルエゴ、「またね。さよなら」の意) この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師 杉田 美保子さんのその他の記事 2025/01/15 業界コラム スペインの知られざる文化 No.73 (最終回) 2024/12/10 業界コラム スペインの知られざる文化 No.72 2024/11/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.71 2024/10/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.70 2024/09/10 業界コラム スペインの知られざる文化 No.69 2024/08/07 業界コラム スペインの知られざる文化 No.68 2024/07/09 業界コラム スペインの知られざる文化 No.67 2024/06/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.66 2024/05/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.18 2024/04/09 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.17 2024/03/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.16 2024/01/10 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.15 2023/12/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.14 2023/11/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.13 2023/10/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.65 2023/09/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.64 2023/07/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.12 2023/06/13 業界コラム スペインの知られざる文化 No.63 2023/05/09 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.11 2023/04/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.10 2023/03/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.9 2023/02/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.8 2023/01/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.7 2022/12/13 業界コラム スペインの知られざる文化 No.62 2022/11/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.61 2022/10/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.60 2022/09/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.59 2022/08/09 業界コラム スペインの知られざる文化 No.58 2022/07/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.6 2022/06/14 業界コラム スペインの知られざる文化 No. 57 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月