スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師

杉田 美保子

スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。
石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。
京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。

スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。

高所恐怖症である筆者が、唯一好きな高い場所は、サグラダ・ファミリア(聖家族教会)の塔のてっぺん近くにある通路です。異国で生活していた最初の頃は、嫌なこと、悲しいことがあると、必ず登ったものです。アントニ・ガウティの作品として世界遺産となり、また、6 年前にはローマ法王が訪れ、正式にバシリカとなったため、最近では予約をしないと入れない状態になっていますが、28 年前は並ばずに入ることができたものです。

ガウディとガウディ風

ガウディ作グエイ公園からバルセロナの街を見る。手前右はモザイクを張り巡らされたベンチ
まだ工事中のサグラダ・ファミリア教会。 左右 2 本ずつの塔の間には、渡り廊下がある

現在はエレベーターでしか塔に登れませんが、当時はカタツムリの殻のような螺旋階段を一歩一歩登っていくことができたのです。上がるに従って、風が強くなり、ティビダボの山と地中海がいっぺんに見渡せたのが、二つの塔をつなぐ渡り廊下の部分。嫌なことも、悲しいことも吹っ飛んでしまう迫力でした。

当時すでに 800 ペセタ(当時、500 ペセタも出せば、定食屋でお昼が食べられたものです)という入場料。週に何度も行けるわけではなく、また、そんなに嫌なことも悲しいことも多くはなかったのですが、それでも三ヶ月に一度は訪れたものです。

このガウディの芸術に欠かせないのが、Trencadís(カタラン語表記で、トゥレンカディスと読む)。

小さく割った、色とりどりの陶器のタイルのかけらをモザイクのように貼り、デザインを作っていくのです。

ガウディの作品のほとんどに使われている、二つと同じものがないデザイン。今日は、そんな美しいモザイクを現代でも手作りで楽しみましょう、と提唱しているアーティストをご紹介しますね。

Brots Creatius(https://www.facebook.com/brotscreatius/)というお店を構えたのが、バルセロナ在住のジュリアさん。お家で手軽にガウディ風モザイクを作り、飾ってもらおうと、2000 年から現在まで、様々なデザインのキットを考え出し、スペイン村や、バルセロナ市内のお店に委託販売していたのですが、この度、ご自分のお店を構えることになりました。それが、なんとガウディの名を知らしめることとなる、彼の初期の作品「Casa Vicens(ビセンス邸)」の向いなのです。

グエイ公園では、いたる所でモザイクが使われている。1 つ 1 つのディテールを追うのも楽しい

ジュリアさんに出会ったのは友人の紹介で、駅のモザイク修復工事で人手が足りないためのお手伝いでした。その後ジュリアさんのアトリエは様々なモザイク作品をカタルーニャ州の様々な町々で頼まれることとなり、その設置のため、筆者も同行し、ベビーシッターとしてお手伝いをしたこともあります。バニョラスという町で、「門をモザイクで飾ってほしい」という依頼だったのですが、あまりアーティストではない筆者は、当時 8 歳ぐらいだったジュリアの親戚のお嬢さんと遊ぶことになりました。バニョラスの町には湖があるのですが、水遊びをするには寒い季節で、あてもなく散歩をしていると、「乗馬できます」という看板を発見。「どう、馬に乗ってみる?」という問いかけに、「うん!」という返事。さすがに 8 歳の子供の乗る馬がいきなりギャロップしないのはわかっていたので、30 分のお散歩コースに申し込み、まずはブラッシングから。初めて触る馬に感激し、またインストラクターのお姉さんと一緒に馬に乗せられてのお散歩は、都会に住む彼女には新鮮だったのでしょう。今思うと、未成年の、それも友達の親戚の子供に乗馬をさせるなんて、とても大胆な発想だったと反省しているのですが。

 

その後、しばらく会うことのなかったジュリアとバルセロナの町でばったり再会し、郊外に引越しをしたこと、親戚の子供たちが大きくなったことを聞き、遊びに行くことになりました。当時8歳だったアナちゃんが 19 歳になったと聞き、時間の流れを痛感したものです。「ね、Mihoko。今、彼女が何を学んでいるか知っている?」というジュリアの質問に、とっさに答えることができなかったので、「さあ、何をしているのかしら?」と訊ねると、「獣医さんになりたいの。今は、特に馬の生態を勉強しているわ」。

 

ただの暇つぶしの、たった 30 分の乗馬が、誰かの人生にこんな影響を与えるなんて想像していなかった私に、「ほら、小さい時、Mihoko が乗馬に連れて行ってくれたでしょ?  あれって、どこだっけ?  ジュリアは遊んでくれなくて、Mihoko が一緒にいてくれたのよね。私、それから馬が大好きになったのよ。それで、獣医さんを目指している、っていうわけ」という話を目をキラキラさせながらしてくれたのです。え〜? そんなに簡単に進路を決めちゃって良いの?  多分、それで良いんでしょうね。きっかけではなく、熱意ですね。

さて、今日はガウディのお話をしようと思いましたが、そこからこんな結末になってしまいました。ガウディは、世界周知の建築家なので、ご興味のある方はいろいろな文献を探してみてくださいね。ということで、今月から、スペインの知られざる文化、ということで、あまり有名でないお話をします。スペインに行く機会がありましたら覗いてみるのも楽しいかな。また、こんなささやかな楽しみが、みなさんの周りにもあれば良いかな、という感じです。

 

どこの国に行っても、陶器・磁器には素敵なものがあり、つい買いたくなるのですが、割れ物なので躊躇します。

でも、この Brots Creatius のモザイク製作キットは、世界で二つと同じものができない、それに、最初から割れたタイルが入っているので、移動中に割れる心配がないというわけで、一押しです。

 

¡Nos vemos!

(ノス・ベモス、「また会いましょう!」の意)