2017/02/07 業界コラム 杉田 美保子 スペインの知られざる文化 No.4 スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師 杉田 美保子 スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。 石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。 京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。 スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。 ネギが美味しい季節です。日本ではすき焼きや鍋には欠かせない食材ですね。スペインも、日本に負けず、ネギが消費される季節になりました。「ネギ焼き」と訳したら、友人が「スペインでネギ焼き? 全然イメージわかないんだけど~」と言われてしまいました。「2 月のコラムをお楽しみに」と言うことで、今回は、まだ日本ではあまり知られていないスペインの食文化の一つをご紹介していきます。 冬のグルメ、冬の風物詩Valls の町は、煙に包まれる。あちこちで焼かれるのはネギカルソッツネギの品評会。自慢のネギが出品される バルセロナが州都であるカタルーニャ州では、カタラン語とスペイン語が使われます。 Calçots(カルソッツ)はカタラン語で、このネギ焼き用の長ネギの名前を表し、Calçotades(カルソターダス)が「ネギ焼きパーティー」の意味です。 毎年必ず一回は楽しむ冬の風物詩で、公式には 1 月最後の日曜日に始まり、3 月末になりネギがあまり出回らなくなるまで続く、季節感たっぷりな行事です。カタルーニャ州は 4 つの県によって成り立っていて、日本同様それぞれの県にお国自慢の料理が存在します。みなさんがご存知の Paella(パエリア)は、現在はスペイン各地で食べることができる一品ですが、その発祥はバレンシア県と言うことです。そしてこのネギ焼きの起源は、タラゴナ県だと言われています。 筆者がここ数年、この Valls のお祭りに行くことになったのは、タラゴナ県レウス市出身のライアさんと、その家族との親睦が深かったことがきっかけです。毎年クリスマスにはライアさんの実家にお邪魔し、たくさんの美味しいクリスマス料理に舌鼓を打つのですが、その際に話に出たのが、この「Valls でのネギ焼きパーティーに行こう」、だったので、それから毎年行くことになっ たのです。 ネギが焼き終わると、腸詰、肉、パンなどが焼かれる。 ネギは前菜扱いValls(ヴァイス)という町が賑わうのは、1 月最後の日曜日。当日、特設駐車場となっている郊外の畑や道路脇には車が続々到着し、たくさんの人が、煙の立ち込める町の中心へと歩みを早めます。この日がカルソターダス解禁の日だと主張されており、また町はカルソッツネギの品評会、カルソッツネギに付けて食べるロメスコソースのコンクール、大食い競争などが行われます。そして町の公民館や施設、レストラン、街角では、煙がモウモウと立ち上り、ネギや肉、ブティファラという腸詰ソーセージが次々と焼かれていきます。 実際に食べる、ネギの白い部分が長くなるように、盛られた土の中で栽培されるのだそうで、甘みがあるのが特徴です。土が払われたネギの、根っこの部分は切り取られ、網の上に並べられ、枯れた木々に火を点け、火の勢いが強いうちに、ネギが真っ黒になるくらいに焼きます。1 人分が大体 12 本で計算されて、焼いた後に蒸した状態を保つため、そして熱を逃さないように、古新聞に包まれます。 ライアさんの家族は毎年ネギ焼き解禁日に Valls に来るということで、すでに料金は前払いでチケット購入済み。Valls の町では、様々な形式でネギ焼きを楽しむのですが、必ずセットとなるのが、「ネギ焼き 1 束(12 本ほど)」「肉と腸詰の網焼き」「アーモンドベースのロメスコソース 1 つ」「パン」「ワイン」「オレンジ」そして「前掛け」です。ネギ、肉、ワイン以外が入ったピクニックパックのビニール袋をチケットと交換で受け取り、会場である体育館に入り、テーブルを決め、パーティーの準備となります。座ると係りの人が人数を聞きに来て、飲み物は何がいいか、ワインなら赤がいいのか、白がいいのかを聞き、新聞紙に包まれたネギ焼きを人数分運んで来ます。 町のメイン広場でネギ大食い競争飲み物が注がれ、乾杯をし、やわら取り出すのが前掛け。これを付けないと、とんでも無いことに。新聞紙の包みを開けると、丸焦げになり、しんなりした、湯気の上がったカルソッツネギが登場。まず、緑の部分を右手で掴み、左手で白い部分の一番下の端を指でつまみます。それを、指に少し力を入れ、ネギの一番外側の皮だけを下にひっぱり、つるりと剥きます。 お友達と筆者ライアさんとご家族。 老いも若きも前掛けをつけ、手は真っ黒。あーん、と食べる食べるのは、緑の部分から下の、今まさに剥かれた白い部分です。辛くはないか、苦くはないか、最初に食べた時にはドキドキしたものですが、長年の経験というのはすごいもの。金沢にいながら、カニは上手に剥けませんが、カルソッツネギを食べるのは上手くなりました。ただ、どんなにレシピを見て作っても、ロメスコソースだけは上達せず、これはもっぱら地元の友達にお任せとなります。何を隠そう、このコラムのスペイン語版の校正をしてくれているカルロタさんも、ソースの達人です。いつかレシピを聞きたいものです。 テキスト校正担当のカルロタさんの手製のソース。 筆者には真似できない剥いた皮は捨てる部分。空いた左手でロメスコソースを近付け、だらりと垂れたネギの白い部分にソースを付け、そのまま右腕を上に上げ、顔は後ろに反らし、口を「あーん」と開け、噛み付くわけです。白い部分を食べきるまでに、二、三度ソースの後付けをするので、ソースの器は一人一つ、ということなのです。 一本が終わると、次のネギに。ワインを飲み、パンも食べ、そこにおしゃべりも入れば、小噺を話す人も出て来たり、と盛り上がります。手は、どんなに紙ナプキンで拭っても、真っ黒なまま。ワイルドです。そこに、人数分のお肉類が運ばれて来ます。ピクニックのようで、お皿は紙だったりするのですが、お肉は切らなければならないサイズなため、プラスティックのナイフとフォークでは太刀打ちできない、ということも起こります。そうすると噛み付く。大人も子どもも、おじいちゃんもおばあちゃんも、みんながガヤガヤと、頭を後ろに反らし、顔を天井に向け、「あーん」とネギを食べる光景は圧巻です。ネギの太さ、調理時間によって、噛み切り易いもの、筋が硬いもの、様々で、胃腸の弱い方は夕飯も食べられないほどお腹が一杯になります。 人数分のお肉が届く。ピクニック用の食器では切れないライアさんのお母さんとおばあちゃんは「もう食べられないわ」とギブアップ。「分かったわ。こっちにちょうだいー」とネギ焼きがテーブル移動。「あら、美保子、顔に炭が付いてるよ」「えー?」と触るとますます炭が広がり、みんなが爆笑、という和やかな時間が過ぎていくのです。 新聞紙の包みを開けると、ネギが出現するさて、問題は、食べ終わった後。どんなにゴシゴシやっても、爪や指、手の平、顔に着いた炭は、なかなか落ちないのです。これで、なぜ前掛けが必要か、お分かりですね? トイレには列ができ、みんなが石鹸でゴシゴシ。最近ではウェットティッシュなる便利なものがあるとはいえ、この炭はなかなか落ちないのです。 お腹が一杯になり、この昼食が終わると、もう夕方近く。スペインの食事時間は他国と比べ時差があり、日曜日なんかは 15 時から昼食、というのは至って普通。ただ、Valls は内陸の町、夕食後の 17 時には気温が下がり始めます。コートの襟を立て、食べたものを消化しなきゃ、とばかりにそぞろ歩き。一回り散歩が終わると、「じゃ、温かいものでも飲みましょう」となる。あんなに食べた後なのに…。チョコラテ・カリエンテ(Chocolate caliente、トロリとしたホットチョコレート飲料)を頼みます。これも冬の風物詩。万国共通、冬は厚着に、そして温かい飲み物で暖を取るのですね。 こうやって、1 月最後の日曜日がゆったりと過ぎ、夕方 20 時ごろにはお開きです。そろそろお昼に頂いたワインのアルコールも抜け、帰路に着く準備は整いました。「じゃあ、また来年ね」との約束をして別れるのです。 今日はこの辺で。いつの日かこの季節にスペインに遊びに行くことを夢見て。コラムを読んでいらっしゃる方も、ぜひこの時期にカタルーニャ旅行をすることをお勧めします。Valls まで行かなくても、いろんな町のレストランでも食べることができますから。 友達とのパーティー。手間がかかるが、用意するのも友好関係を円滑にする¡Hasta la próxima! (アスタ・ラ・プロキシマ、「ではまた次回に」という意) この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師 杉田 美保子さんのその他の記事 2025/01/15 業界コラム スペインの知られざる文化 No.73 (最終回) 2024/12/10 業界コラム スペインの知られざる文化 No.72 2024/11/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.71 2024/10/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.70 2024/09/10 業界コラム スペインの知られざる文化 No.69 2024/08/07 業界コラム スペインの知られざる文化 No.68 2024/07/09 業界コラム スペインの知られざる文化 No.67 2024/06/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.66 2024/05/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.18 2024/04/09 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.17 2024/03/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.16 2024/01/10 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.15 2023/12/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.14 2023/11/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.13 2023/10/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.65 2023/09/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.64 2023/07/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.12 2023/06/13 業界コラム スペインの知られざる文化 No.63 2023/05/09 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.11 2023/04/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.10 2023/03/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.9 2023/02/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.8 2023/01/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.7 2022/12/13 業界コラム スペインの知られざる文化 No.62 2022/11/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.61 2022/10/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.60 2022/09/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.59 2022/08/09 業界コラム スペインの知られざる文化 No.58 2022/07/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.6 2022/06/14 業界コラム スペインの知られざる文化 No. 57 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月