スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師

杉田 美保子

スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。
石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。
京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。

スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。

金沢の生活に自動車は欠かせません。戦災に遭っていない金沢は昔の街並みが残り、区画整理のされていない道は都会とは違い、曲がりくねったり細かったりで、両面通行はおろか、入ったら最後バックでしか出られなかったりもします。近年になって畑や田んぼが宅地化された部分の道はゆとりがありますが、それでも駐車禁止を取られるので、近くの農道に移動させて、という場合もあります。ほとんどのバスは金沢駅に発着として路線展開されているので、バス利用で町を縦横無尽に、とは程遠いのが金沢です。そんな金沢の運転にも少しは慣れたのですが、筆者はもともと日本では自動車の運転免許証を持っておらず、かれこれ 15 年ほど前に一念発起してバルセロナの autoescuela(アウトエスクエラ=自動車学校)に通ったのです。

外国人用に簡略した試験があると聞いたので窓口で尋ねると、「あなたの場合、普通枠でとっておいた方が良いわよ。言葉に問題があるようには見えないものね」とあっさり却下。

ということで、免許取得の勉強が始まりました。

その当時のことになりますが、ちょっとご紹介しましょう。

こんな駐車をするためには、かなりの忍耐が必要だ

車事情、所変われば

戦災にあっていない金沢の古い通り。 軽自動車が通るのがやっと

バルセロナのような都会の自動車学校は、住宅アパートなどの入ったビルの中にあったりして、金沢のように自動車学校の敷地に練習場などは無いのです。入校すると、テキストに沿った授業が 1 日 3 回、違った先生によって、朝、昼、夕と行われ、生徒はどの授業に参加しても良い決まりとなっていました。

所狭しと縦列駐車が行われる

フリーランスで仕事をしていた時期と重なり、時間の余裕があったので、朝、夕 2 回の授業を取ることができ、テキストは読んでいると眠くなるので、もっぱら先生の説明をよく聞く、という勉強になりました。それ以外に、それまでのモデムでのインターネット回線の接続をやめ、光ファイバ回線を引き、オンラインでの模擬テストを開始したのです。今では、試験結果もオンラインで確認できる時代となりましたが、当時はまだそんなに進んではいませんでしたが、オンラインでの模擬試験は非常に助かりました。

筆記試験は 40 問。そのうち 4 つ落とすと不合格となります。一度の申し込みで試験のチャンスは 2 回。よって、筆記が 1 度目で受かれば、実技試験の料金は別に払わずに済む、となれば、自ずと真剣さも増すものです。

4 月半ばに入校し、筆記に挑んだのが 7 月。オンライン試験は繰り返ししていたし、授業もテキストを一巡した時期に、試験日となりました。試験という代物は、万国共通、落とすためのものか、と思われるほど複雑に作ってあるものです。もちろん、スペインの運転免許の筆記試験も同じです。試験問題は列ごとに違うものが用意されているため、隣の人の解答をカンニングすることができない仕組みとなっており、もちろん列によって出題されるテスト問題の難度は変わるのですから、あとは神頼みです。時間ギリギリまで見直しましたが、オンライン試験で解いた問題がいくつかあったので、ドキドキしながらも手応えを感じ、試験終了となりました。気になる発表は午後。昼食後に自動車学校に電話をすると、受付の人はジョークを交えながらも、「ミホコ、大丈夫、受かっていたわよ」という事で、その後実技試験の予定を立てることになったのです。

坂道だろうが、 許可されている道路には縦列で車が停められている

スペインの子供達の夏休みが長い、ということは先月ご説明しましたが、自動車学校も同じです。8 月は一ヶ月の夏休みを取るため、運転の実技の講習は 9 月から、ということになったのです。実技の練習初日は、先生の運転でモンジュイックの丘まで連れて行ってもらい、そこから教習です。そうです。いきなり路上なのです。教習車はルノー。今では普通の、でもその当時は画期的な、カードキーを差し込み、あとはボタン 1 つでエンジンがかかるというタイプの教習車。スペインにはまだオートマ限定というシステムは無いので、クラッチのついた車での教習です。筆記試験に向けての講習の傍ら、実地も受け持つのはフアン先生。テルエル市出身で、陽気なべランメイ先生です。何しろ、実地の 2 日目に「じゃ、ビーチまでドライブしよう」と郊外行きのバイパスに向かい、「ミホコ、アクセルどんどん践めよ! 今ならどんなにスピード出しても、違反キップを切られるのは僕だからね。

ミホコはまだ免許ないんだから」と言って、120 キロで走らせたり(ちなみに、バイパスの制限速度は 120 キロ)、「あ、どの CD が良いかね。ちょっと入れ替えてみて」と頼まれたり(後で、車を運転するにはマルチタスクができないとだめなんだよ、と理由を教えてくれた)、さあ、この歌を歌ってみろ、と言われたり。いかにマルチタスクが必要とは言え、実地 2 日目は勘弁して欲しかったです。緊張しているし、車の内部構造は把握していないし、先生は陽気に歌いだすし。

猫が入る隙間もないくらいに壁際まで停められている。 左ハンドルだから乗り降りは可

フリーランスのため、時間は自由に取れたので、一度に 2 コマ教習をしてもらったりしたので、トータル 40 時間は練習しましたが、その分出費もかさみました。免許取得は徐々に難しくなっていき、筆者の取った次の年からは教習最低時間というのも設定されたのです。昔はスペインでも日本の自動車学校のように専門の練習場があり、その中で教習が行われていたようですが、徐々に現在のいきなり路上型になったようです。さて、一ヶ月ほどの教習で懐が寂しくなってきた筆者は、「フアン。そろそろ試験を受けさせてもらえない?」と頼み込み、10 月 4 日に見事一発合格。40 歳を目前に、免許取得に成功したのです。試験の状況は長くなるので割愛ですが、隣にフアン、後ろに私の運転を試験する試験官、それに、大型車の試験官を試験場に乗せて行ってあげる、ということで、緊張の 30 分でした。

ここまでくると、もう芸術のような縦列駐車

金沢に戻り、しばらくは自動車のない生活でしたが、乗り手のいなくなった車を譲っていただけることになり、人並みの生活ができるようになりました。金沢のバス事情は都会とは違い、実家から町の中心部に出ようとすれば、20 分に一本ほどのバスが通っているものの、6〜7 キロ程の距離なのに、片道 380 円と言う、私にとっては莫大な費用がかかるのです。車の維持費は高いのですが、時間の節約と利便さを考えると、やはり車は欠かせませんね。コンビニ、スーパー、近場のどこに行っても駐車場があるのはありがたく、カートを持って徒歩で買い物に行くバルセロナの生活とは違います。で、なぜ今日は車の話を持ってきたか、というと、バルセロナの駐車事情を紹介したかったからです。

路上駐車のできる道が多いバルセロナ市内の駐車風景を見ると、一体何回切り返せばこんな風に停められるんだろう、という状況です。ヨーロッパでは、バンパー(parachoques=パラチョケス=ショックのためのもの)は駐車の時にぶつけるもの、というのが一般的でしょう。特に高級車などではない限り、バンパーとバンパーがぶつかっても、特に問題とはなりません。それにしても、なんとキッチリと詰めて停めるのでしょうか。これはもう、芸術的でもあります。縦列駐車をする機会が少ない日本の方々が外国でレンタカーをすると、驚いてしまいますよね。でも、大丈夫。普通の駐車場に入れば、縦列ではないので、日本と同じですからね。ただ、ハンドルが反対なので、ちょっと戸惑うかもしれませんが。車があると、行動範囲も広がるというもの。ぜひドライブを楽しんでいただきたいものです。

 

¡Que tengáis un buen verano!

(良い夏をお過ごしください! の意味)