日本に帰国して、はや 3 年が過ぎてしまいました。にも関わらず、なんと「外国かぶれ」と言われようとも、どうしても慣れないことがいくつかあります。その 1 つがスーパーのレジでのタイミングです。
スーパーやバスに出るお国柄

スーパーのレジに並ぶ前というのは、買い物リストを見ながら、買い忘れがないか最初から確認をし、その後、スーパーに来る直前に思いついたけれど、リストに書き足せなかった品が何だったか思い出すという頭脳トレーニングの時間なのですが、これをレジ前でウロウロしているとすかさず店員さんが小走りで、「次の方どうぞ」と隣のレジを開けてくれます。日本です。「お待たせしてはいけない」という「おもてなし」の心から接客をしてくれるのですが、これが新人の店員さんともなると、レジは間違えピーピーと鳴る、レジのボタンがどこにあるかわからずウロウロする、注文したものと出て来るものが違う、となり、結局ベテランの店員さんのレジで列をついていた方が早かったりするのは苦笑ものです。

では、スペインではどうでしょうか? やはり「おもてなし」という心遣いはします。もちろんです。レジの店員さんは顔見知りのお客さま達に「どう、調子は?」「元気にしてる?」「孫は大きくなった?」などとお話しをすることを厭いません。日本人から見ると、のんびりと進んでいくスペインのレジは忍耐という何ものでもないでしょう。買い忘れの牛乳を一本手にしてレジに向かうと、「 1 つだけ? じゃあ、先に行きなよ」と言ってくれる人もいれば、見て見ぬ振りで長蛇の列に並ばなければならない場合もあります。「ちょっと急いでるんですが・・・」なんて言っても、『急いでいるのはあなたの勝手、ほら、みんな列をついて待ってるでしょう』という感じで、あまりの列の長さに、くたびれてしまうのがスペインです。
待ちくたびれるでもなく、急かされるでもなく、その中間の時間の流れがどちらの国にも必要なんでしょうね。
ただ、その国のシステムに慣れてしまうと、他国での経験にはストレスが生じるものです。そんな中、レジで列をつくるのも、時間がかかるのにも、全くストレスを感じない体質になってしまいました。多分、現在いただいている数々の仕事が、スピードを要求されるものではなく、自分の生活に時間的ゆとりがあるからなのでしょう。そののんびりとした筆者が 1 つだけスペインでストレスを感じることーーーそれが、買い物の後の商品をバッグや袋に詰めるタイミングです。
スーパーに行き買い物をし、レジに並びます。自分の番が来て、商品をピッピッとスキャンされ、合計が出て、コンタクトレスタイプのクレジットまたはデビットカードを機械にかざせば、お買い物終了。でも、実は袋詰め作業が待っているのです。

スペインでの一般的なレジでは、ベルトコンベヤーにお客さんが商品を乗せると、それがレジ係りのいる位置まで自動で移動し、レジさんが 1 つ 1 つの商品を手に取りバーコードをスキャンし、その商品を受け取り場所まで手動で流します。4 メートル位のベルトコンベアを頭に浮かべてください。その中央あたりのベルト沿いに店員さんを置いてみてください。そのベルトコンベア前半半分はレジに向かい自動で動き、レジから最後までの半分はコロコロと品物が流れるようにローラーになっていて、店員さんが品物を流すたびに、受け取り場まで流れて行く仕組みです。

マイバッグを持参する人、キャリー付きショッピングカートを持参する人が大半で、受け取り場で順に自分の都合のいいようにせっせと商品詰を行います。ここが筆者のストレスの種なのです。スキャン順に品物が流れてくるため、割れ物が先に届くと袋に詰めることができず、次の牛乳などのパックを待っている間にスキャンが終わり、「はい、23 ユーロ 26 センティモです」と言われるわけです。クレジットカードの機械に近寄り、カードを差し込み、4 桁の暗証番号を入力し、ばらばらとちらばったお買い上げ後の商品受け取り場に戻り、バタバタと詰め込み作業を終えるのです。
その点、日本の一般スーパーのレジはさすがです。買い物前と後のバスケットの色が違っていたり、マイバスケットを使用したりも驚いた点ですが、買ったものを別のバスケットに詰め替えてくれて、それを別のテーブルに持っていき、時間を気にせず詰めることのできるシステムは、海外でも(少なくともバルセロナでも)真似をするべきでしょうね。その上を行く驚きが、レジ係りの人にマイバッグを渡すと、そこに商品を詰めてくれるというサービスです。また、買い物の後のバスケットが重いだろうと、詰め替えテーブルまで運んでくれる親切なレジ係さんもいて、さすが高齢者の多い日本の痒いところに手の届くサービスですね。帰国当初はこれにはびっくり仰天したものでした。
次は路線バスでの出来事です。

「バルセロナでのバスの乗り方が今ひとつわからなくて・・・」と言われることがあります。バス停で待っていても、通過して行くものもあり、「あれ、24 番だったのになんで停まらないの? バス停を間違えた?」という錯覚に陥ります。その時は、タクシーを拾うように、手を挙げて止めればいいのです。

つまり、「乗りますよ」という意思表示です。
全く合理的な考え方で、降りる人も乗る人もいないのに、なぜ停留所で停まらなければならないのか、と考えるのがバルセロナのバス乗務員です。日本では必ず停留所で停車して、道の空いている日ともなれば、時刻表の時間に合わせるため、数分間停留所で停車する、という丁寧さなので、全く違ったシステムと言えるでしょう。時刻表は、05 時から07 時までは 20 分間隔、07 時から 16 時までは 8 分間隔、というように記載されていて、最近では接近してくるバスがあと何分で到着するか、という電光掲示板も登場し、時間待ちもせずバスが走り去っていきます。金沢はきちんと時刻表が決まっており、遅れることはあっても、早く通過してしまうことはないので助かります。
そういうバスですから、車内の乗客は自分の降りる停留所が近づくと、立って出口の方へ進みます。「次は〇〇停留所です」というアナウンスでボタンを押すと、ピンポンと鳴り、電光掲示板に停留所名と、赤いバス停のアイコンが現れます。
日本のように、「この停留所で降りると〇〇病院です」というアナウンス広告も入らず、「お忘れ物のないように」も「席をお譲りください」などというアナウンスも一切ありません。まして、停留所につき乗降口に誰もいないと、「間違って押したのかな?」とばかり、バス停を通過することもあるぐらいです。

さて、先日金沢で、ちょっとカッコ悪いことが起きました。降りる停留所が見えたので席を立ったら、「停車するまで席を立たないでください」とマイクで言われ、周りの人にチラッと見られ、びっくりして上げた腰を下ろしました。そんなことをしていれば、バルセロナでは降り損ねてしまいますから、もうこれは習性になっているのですね。しかし、金沢は安全第一なので、どんなに満員でも後ろの席の人が降り切るまでバスは発車しません。バルセロナでは乗務員がうっかりして降車の際にドアを開け忘れたりするので、「¡Puerta! (プエルタ=ドア)」という叫び声が上がったりします。ここまでくると、「お願いします(Por favor=ポル・ファヴォール)なんて、悠長なことは言ってはいられないのが、朝のラッシュのバルセロナのバスなのです。
スーパーマーケットや、バスなんて、世界中どこにでもあるので、みんな同じかと思いきや、それぞれの町の性格がはっきり出てくるのですね。バルセロナにご旅行の際には、お気をつけくださいませ。
では、近々またお会いしましょう。
¡Nos veremos pronto! (ノス・ベレモス・プロント)
スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師 杉田 美保子さんのその他の記事
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