2019/04/02 業界コラム 杉田 美保子 スペインの知られざる文化 No.24 スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師 杉田 美保子 スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。 石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。 京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。 スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。 古いモノの価値は、ここ 40 年でかなり変わってきていると思います。その昔は「古い」=「きたない」となり、新しいものに作り変えられたものですが、その「古い」が「レトロだ」「アンティークだ」となり、脚光をあびることとなります。 歴史的建造物の保存方法金沢でも、74 年間の陸軍施設、47 年間の金沢大学キャンパスとして利用され、近代化された経緯を持つ金沢城公園の内部で、五十間長屋や橋爪門の復元が行われ、最近では金沢城二の丸御殿の「表向(おもてむき)」の復元の可能性が大きいというニュースが流れたりしています。また、城下町を中心に、金沢町家を保存しようという動きも起こっています。ざっくりとした線引きでは、昭和 25 年以前の建物を金沢町家と呼ぶようで、今でも 6000 棟ほど市内にあるそうですが、古い家のリフォームは敬遠され、取り壊しを勧められるケースもあるんだとか。実際、寒暑対策などが難しく、冬は寒く夏は暑い家が嫌われるためです。木、紙で出来た日本家屋の寿命はやはり短いといえますね。 金沢の浅野川大橋は登録有形文化財に指定されている。 春休みの東茶屋街金沢の観光地の一つである東茶屋街近くに越してきて 2 年ほど。何が良いかと言えば、徒歩圏内に様々な記念館があることでしょうか。日曜日の暖かな日差しの中、徳田秋声記念館、泉鏡花記念館とハシゴをし、金沢の三文豪の二人にあやかり、このコラムも素晴らしいものになりますように、と言う願いを込めました。その徳田秋声記念館は彼の出生地に近い、浅野川にかかる梅の橋のたもとにあります。また、泉鏡花記念館は鏡花の生家跡に増築・改修され、外から見ると、蔵が立派な建物です。外観のシックな造りと、現代的ではあるものの、古風な装飾の内部は、見事に昔のスタイルが復元されています。 では、スペインでは、こう言う古い建物はどうなるのでしょうか? ほとんどがレンガや石造りの建物は、日本に比べると耐久性に富んでいるわけです。そんなに簡単に壊してしまうには惜しい、と思われます。 バルセロナの町にも、100 年以上の時を経た、数多くの建築物があります。その中で今日ご紹介するのは、闘牛場です。昭和最後の年に日本を出たため、当時は「スペインっていうと、やっぱりフラメンコと闘牛だね」と言われたのが懐かしいですね。それから 30 年が経ち、スペインのオリーブオイル、スペインの生ハム、世界遺産のガウディ、アンダルシアの白い村々、などなど、スペインのイメージは膨らんできています。 モニュメンタル闘牛場Sombra という文字が右端のタイルモザイクで読めるが、日向(SOL)と日陰(SOMBRA)で観客席の値段が違った実は、バルセロナのあるカタルーニャ地方では近年、闘牛の開催を禁止した時期があったのです。議会で禁止が可決された時には、涙を流して悔しがった開催賛成派議員もいたほど、賛否両論ある闘牛です。さて、その闘牛を行うための闘牛場は、今どうなっているのでしょうか? バルセロナには、二つの闘牛場があります。一つが「Monumental(モヌメンタル=モニュメンタル)」といわれるもので、もう一つが「Las Arenas(ラス・アレナス=アリーナ)」です。筆者がバルセロナ在住中には、サグラダファミリア教会近くのモニュメンタル闘牛場では数々のイベントが行われ、ホイットニーヒューストンのコンサートで初めて足を運びました。そして、スペイン広場やオリンピックスタジアムのあるモンジュイックの丘にほど近いラス・アレナス闘牛場は、当時闘牛ではなく、サーカスが行われたりもしていましたが、その後かなり長い間内部には入れない状態になっていました。それもそのはず、最後の闘牛が行われたのが 1977 年ということで、それから21世紀に入り、復興されるまで、30 年以上も閉鎖されていたのです。 少し調べてみたところ、このラス・アレナス闘牛場の完成は 1900 年。14,893 人収容で、建築家であり教授であったカレラス氏によりデザインされたそうで、直径は 52m。既存の闘牛場が手狭となったための新築だそうです。 闘牛場の真横には地下鉄の入り口やバス停がある。地下には駐車場も作られているそれが、バルセロナオリンピック開催決定後の 1988 年には、新しい見本市会場建設のために解体される危機に瀕しましたが、その歴史的価値から解体には至らず、その次の年にはバルセロナ市役所による買い上げ・保存の話も持ち上がったものの、そこにも至らず、なんと、最終的には、その 10 年後、1999 年にアミューズメント施設としての開発として、不動産開発会社に買い取られたのです。2009 年完成予定が少し伸び、2011 年春にショッピングセンター、レストラン、映画館、スポーツジムなどの入る複合レジャー文化施設に生まれ変わったのです。 夜の闘牛場Las Arenasは、ライトアップされ、屋上に上がれる。左のタワーが有料エレベーター当初、全てを取り壊して、一から建設する方が、数段安く上がったということですが、1900 年のネオムデハル様式(アラブの風合いを取り入れた、19 から 20 世紀にかけてのイベリア半島の芸術・建築様式)を守ることが重要とされたため、その工事は大変なものとなりましたし、市民も長年の工事にうんざりしていたものでした。 屋上からは、スペイン広場、モンジュイックの丘といった景色が臨める 吹き抜けとなった内部には、季節によって装飾が変わる。子供達が遊べるスペースとなっている でも、今は、ここに行けばスーパーあり、レストラン・カフェあり、屋上の見晴台は 360 度、町の景色を楽しむことができます。昼間に行くもよし、夜景も美しく、夏の夕涼みには最高で、バルセロナの新しい観光スポットとなっています。 高所恐怖症の方には辛い空間百聞は一見にしかず。この闘牛場の様子をご覧ください。12 月になると、内部も屋上もクリスマスの装飾となり、高所恐怖症の人にはハードルの高いガラス張りのエレベーターや、吹き抜けを登っていくエスカレーターがあります。 昔日の闘牛場の日向と日陰で料金の違う観客席や、土埃の中での闘牛士の立ち振る舞い、戦わされる牛、観客の歓声がここにあったことが、まるで嘘のようです。古いものを復興させるということは、単に復元するだけでなく、時代のニーズに合ったものを創り出すことなのかな、これもアリなのかな、と思いつつも、現代の消費社会にちょっと胸を痛めてもいる今日この頃です。 ナバラ県のメンディゴリーア(Mendigorría)村での牛追い。闘牛とは違う。どちらが逃げ惑うのか。 闘牛士の出る闘牛とは別に、牛追い祭りがある、と以前ご紹介しました(スペインのゆとり、日本のゆとり『スペインの世界遺産 巡礼の道 No.3』)。スペインで一番有名なのがパンプローナの牛追い祭りです。 でも、この牛を刺さないお祭りは、実はスペイン各地で行われているのです。町中を柵で閉鎖して、その中に牛を放し、肝試しよろしく牛を追って走るお祭りは、牛を追い、牛に追われ、どちらが追われているのかわからなくなるほど盛り上がります。そして、毎年けが人が出るにもかかわらず、開催されるのです。こういうところも、あくまでも、自己責任で、という文化なのですね。 では、また来月お会いしましょう。 ¡Qué te vaya bien! (ケ・テ・バジャ・ビエン) うまくいきますように! の意 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師 杉田 美保子さんのその他の記事 2025/01/15 業界コラム スペインの知られざる文化 No.73 (最終回) 2024/12/10 業界コラム スペインの知られざる文化 No.72 2024/11/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.71 2024/10/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.70 2024/09/10 業界コラム スペインの知られざる文化 No.69 2024/08/07 業界コラム スペインの知られざる文化 No.68 2024/07/09 業界コラム スペインの知られざる文化 No.67 2024/06/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.66 2024/05/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.18 2024/04/09 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.17 2024/03/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.16 2024/01/10 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.15 2023/12/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.14 2023/11/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.13 2023/10/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.65 2023/09/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.64 2023/07/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.12 2023/06/13 業界コラム スペインの知られざる文化 No.63 2023/05/09 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.11 2023/04/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.10 2023/03/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.9 2023/02/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.8 2023/01/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.7 2022/12/13 業界コラム スペインの知られざる文化 No.62 2022/11/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.61 2022/10/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.60 2022/09/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.59 2022/08/09 業界コラム スペインの知られざる文化 No.58 2022/07/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.6 2022/06/14 業界コラム スペインの知られざる文化 No. 57 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月