スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師

杉田 美保子

スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。
石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。
京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。

スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。

桜、新緑、と来れば、次は梅雨になり…、という月毎の季節の変化には大変驚かされるのが日本の気候です。スペインでは、月の動きによって変動するイースター(Semana Santa=サマナ・サンタ=聖週間)が 3 月または 4 月に祝われ、それが終わると南になればなるほど突然夏がやってきて、地中海沿岸では特に、9 月まで海水浴やキャンプを楽しめる気候なわけです。そんなイベリア半島での「半年は夏」の生活が、懐かしくもあり、それでいて季節感あふれる日本の生活も捨てがたく、5 月病ならぬ 6 月病を患っている筆者です。

バラが咲いた、バラが咲いた♪

兼六園でも、様々なお花が咲いては終わり、週ごとに変わる色とりどりの景色は何度足を運んでもうっとりとしてしまいます。バルセロナのお花状況はどんな感じかといえば、写真協力をしてくれている Salvador 氏から、バラの花のコンクールの情報が届きました。場所はバルセロナの山手となり、近くにバルセロナ大学のキャンパスや図書館などもあり、町の中心より離れている 8 万 7 千 m2 以上の敷地の大きさ、東京ドームの 1.8 倍ほどになります。

広々とした公園には芝生が広がり、お散歩には最適
パーゴラに這ったバラ。心地よい影ができる

この Parc de Cervantes(パルク・デ・セルバンテス=セルバンテス公園)という名の公園の目玉となるのがバラで、今がお花のピークです。ただ、温暖な地中海性気候のバルセロナでは、花が早いのが特徴で、早くは 4 月から、遅くは 11 月まで、バラのお花が楽しめるのです。品種で 245、約 11000 株のバラが植えられているこの公園は、1965 年に当時のバルセロナ公園庭園サービス局の局長、ルイス・リウドールによってデザインされたものです。

バラが植わっているだけではなく、数々のアート作品や、子供の遊戯ゾーン、ピクニックエリア、広大な芝生が広がり、パーゴラの下では日陰の涼しい風が、バラの香りとともに楽しめるようになっています。そして、ここでは毎年、国際的なバラの新種コンクールも行われるのです。

新種のバラのコンクール。自由に近寄り花を愛でる人々

さて、私ごとで恐縮ですが、五月の半ばに、ご縁があり、広島を訪れる機会をいただけました。広島が本社の新川電機です、とお聞きしてはいたし、スペインでの折り鶴を作るたくさんのイベントやワークショップで必ずと言っていいほど、広島の折り鶴の話が出たものです。そして、たくさんのスペイン人の友達がすでに広島を訪れていて、原爆ドームや資料館のお話を聞いていたのですが、実は、筆者にとって、今回が初めての広島旅行となったのです。

お花と水。雨の後の青い空。清々しく、厳かな広島の朝

その折に、今月のテーマをちらりとお話ししますと、広島でもゴールデンウィーク中にフラワーフェスティバルが行われ、平和大通りが歩行者天国になり、お花でいっぱいになるんですよ、とお聞きしました。まっすぐに伸びた、こんな大通りを通行止にしてしまうなんて、なんてすごいんだろう、と散歩しながら想像しました。バルセロナも歩行者天国をするけれど、こんなメイン通りを三日間も、と、今まではスペインの方がダイナミックと思っていたのですが、広島の懐の大きさに、びっくりしました。

原爆ドームは立ち入り禁止。 壁とよく似た模様のネコが。フリーパスのようだ

早朝に広島市中心部を散歩したのですが、すでに修学旅行生たちのグループがたくさんの折り鶴の束を持ち、平和記念公園に集まっている姿に、こみ上げるものがありました。また、たくさんの人々の祈りの気持ちと、そこに祀られている方々の無念の気持ちがのしかかるような、そんな感情と力が非常に強い広島の朝でした。普段、いかに何も考えずに生きているのか、という反省の朝でもあり、たくさんの献花と太陽、そして涼しげな水面を見ながら、ここで苦しんだ方々を考えた時間でした。

広島の歩行者天国の噂をしていたら、サルバドールよりバルセロナのサンツ地区の歩行者天国の様子が送られてきました。スペイン広場から、隣町ホスピタレットという町を繋ぐ「サンツ通り」と「オスタフランク通り」(同じ通りが、途中で名前が変わる)を車両通行止めにし、その両側の商店を始め様々な出店が、合計 4 車線を埋めつくすのです。もちろん、三日ではなく、一日限りの催しですが、百聞は一見に如かず。画像でお楽しみください。

市場内(左の建物)から路上へ(1)。ごろりごろりと田舎パン(2)。「ちょっと食べてみる?」と店員に促され(4)。 日持ちする腸詰やタルトの量り売り(5)。左奥にはスペイン広場が見える(6)

蜂が蜜を持ってくる、蜂のホテル。

ピアノの演奏が心良さそう。双子のひし形、という彫刻

少し寄り道してしまいましたが、本題に。

このセルバンテス公園には、「竹のばら」と名づけられたバラが、2011 年の東日本大震災の起こったちょうど一ヶ月後に、在バルセロナ日本総領事とバルセロナ市長の手により植えられました。「津波と地震で犠牲になられた方々とそのご家族に寄りそう」という記念植樹でした。ここスペインでも、お花は人々の心を癒し、痛みを和らげてくれるものなのです。そして、これは時代を問わず、また、国籍も問わず、世界の人々がお花を贈り、お花を作り、お花を愛でる。言葉は関係ないのですよね。

お花の魅力、そしてバラの香りに誘われて、たくさんの方が公園を訪れます。老若男女、国籍関係なく、素敵なものは素敵、なのです。今回の写真に、香りが付いていないのが非常に残念ですが、まずは目を楽しませてください。

今回のコラムが 37 号、つまり、書き始めて三年が過ぎました。今までは、スペインとの「違った点」ばかりをクローズアップして来たように思いますが、今回の広島滞在で、スペインとの「同じ点」を探すのもいいのかな、という気持ちに変わって来ました。さて、次回はどんなことをお伝えできるでしょうか? 来月の今頃は、梅雨明けですかね?

¡Qué tengáis un buen día!

(ケ・テンガイス・ウン・ブエン・ディア=良い一日をお過ごしください)

写真協力:
Salvador Barrau Viñas

一輪で凛と咲くバラと、花束のようにゴージャスなバラ。245種類もあれば、花より団子の筆者でも違いがわかる、というもの