スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師

杉田 美保子

スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。
石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。
京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。

スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。

何しろ、整理整頓が苦手で、どこに何があるのかわからない乱雑な家に住む筆者ですが、唯一無くならない、必ず定位置に置かれているものがあります。それはなんだと思いますか? 財布? スマホ? 印鑑?

いえいえ、家の鍵です。

おっちょこちょいの人は要注意! 家での防犯対策 

スペインの家の防犯対策の一つに、入口の鍵があります。そりゃ、日本だって、外出時には、そしてもちろん在宅時にだって鍵を閉めていますよ、という声が聞こえてきます。そうですね。鍵は重要です。

[外から見たアパートのメインエントランス。ドアには取っ手が付いていて、鍵とは連動していない]

でも、外に出てドアを閉めた直後、鍵をかける時に、「あ、鍵持って出るのを忘れた!」という経験って、ありませんか? また、遅刻しそうなときに、鍵をどこに置いたか忘れて毎朝探し物、という方、いませんか? そうなんです。日本のほとんどの玄関の鍵は、ドアや引き戸を閉めても、鍵穴に鍵を入れて閉じないと、鍵はかかりません。だから、「鍵」というのは、置き場所が変わっても、バッグの中に入れっぱなしでも、冷蔵庫の横の棚に置いたとしても、そんなに重要なことではないのかもしれませんね。で、スペインでもそうでしょ、と思うことでしょう?

[アパートの個人宅の入り口。ドア横にはインターホンがある]

[インターホンに応えると、外の様子も写り、確認後に一番下の鍵マークのボタンを押すと、開錠される]

しかし、基本、町中のアパートやマンションの扉は、外部に向かって引き開けるドアで、二枚の引き戸の玄関は珍しいのです。また、ほとんどの場合、ドアノブはありません。その代わり、ドア中心部やドアの端に取っ手やノブの形のつかみ棒が設置されていて、これはほとんどの場合、鍵を開けて、ドアを開くときに引っ張るだけで、施錠時には関係ありません。

そうです。ほぼ、すべてのドアが、オートロックになっているのです。ドアをバタンと閉めた後に、「あ、鍵忘れた」というのは、一日の中で電車に乗り遅れるより、財布を忘れるより、スマホを忘れるより、最悪な忘れ物となるのです。

オートロックの鍵なので、外から内鍵をしてしまったら、中に誰かがいるときにしか開けてもらえません。「あああ、うちのレガリス(友人のネコちゃんの名前)にも鍵の開け方を覚えてもらわないと〜」というジョークは、あながち笑えない話ではなく、切実なことなのです。

[一番小さいのは集合ポストの鍵。メインエントランスの鍵、自宅ドアのメイン、サブの鍵と、キーホルダーはジャラジャラ]

日本では、家の鍵は大体一つですね。裏口があれば、その鍵が一つ。でも、スペインの家の鍵は、複数あるのです。つまり、一つの扉に鍵が二つないし、三つ付いているのが一般的です。その上、内側からのチェーンロックを入れると、かなり厳重になっています。それに、アパートやマンションならば、外部玄関の鍵もあるため、キーホルダーはかなりな重さになります。それだけ、泥棒が多い、ということなのでしょうね。留守中、在宅中に関わらず、外から鍵をこじ開けかけられた、というのも珍しい話ではありません。でも、そんなにたくさんの鍵をどうやって使いこなすの? と思いませんか?

まずは、鍵束を持ち、外に出ます。ドアをバタンと閉めます。その時点で、ドアノブがないのですから、ガチャガチャと開けようとしても、しっかり閉まっています。その後、メインの鍵穴にキーを差し込み、ガチャリ、ガチャリ、と二回(一回の場合もあり)回します。これで施錠OKなのですが、念のための鍵がメイン鍵の上と下についています。まずは上の鍵穴に別の鍵を入れてガチャリ、そして下の鍵穴に別の鍵を入れてガチャリ。これで万全に入り口の鍵が施錠されたわけです。そして帰宅したら、施錠したものを逆に開錠していくわけです。下をガチャリ、上をガチャリ、そして真ん中を二回、ガチャリガチャリ。最後のガチャリの時に、そのまま開錠方向に鍵を回しながら、ドア中心部についている取っ手もしくは、つかみ棒を一緒に引っ張ると、難なくドアが開くわけです。

[友人の住むモダニズムの建物の内部ドア。鍵穴がたくさんある。取っ手も素敵なデザイン]

[左が建物内部から見たドア。右が通りから見たドア。内部のノブと外部の鍵穴は連動していて、中からは回すだけで外に出られる]

日本のアパートの場合、管理人さんがいなければ、その家の前まで行くことができ、「ピンポーン」とチャイムを鳴らすことになりますね。最近のマンションだと、入り口に管理人さんがいたり、各戸に直通のチャイムがあり、住人が確認してからでないと、開けられなくなっています。でも、スペインの場合は、管理人の有無に関わらず、すべてがインターホンでの開錠になります。インターホン越しに確認ができると、家内部から開錠のボタンが押され、下のメインドアが開くことになっています。その昔は声のみの確認でしたが、だんだんカメラが付き、目でも確認ができるようになってきたのが、時代の波ですね。

[レウス市にあるガウディの生家の入り口]

30年ほど前にパリでは、すでにもっと高度な安全装置、暗証番号開錠のアパートに行きました。これは、外からはチャイムで住人を呼ぶことができない、完璧に住人のための開錠システムで、びっくりしたのを覚えています。四桁の数字の組み合わせで、この番号でないと開かないわけです。数日居候させてもらったアパートだったのですが、この数字を教えてもらい、買い物や観光に出かけたものです。そしてこの番号ですが、毎月違う組み合わせに変わる、という念の入ったもので、同じヨーロッパでもフランスとスペインでは、こんなにシステムが違うのか、と驚いたものです。

ということで、今月も「百聞は一見にしかず(Ver para creer=ベール・パラ・クレエール)」。サルバドールが撮影してくれた鍵のシステムを見てみましょう。日本は安全と言いますが、お出かけの際には施錠をお忘れなく〜。

[レガリス、ミシュ、この子たちはいつになったら鍵を開けるためにドアに走って来てくれるのか?]

今日のワンフレーズは、
¡Dios mío! ¡Me he olvidado las llaves!(ディオス・ミーオ! メ・エ・オルビダード・ラス・ジャベス=なんてこと! 鍵忘れちゃった!)


Elisenda Bachs Marés氏
Salvador Barrau氏