スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師

杉田 美保子

スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。
石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。
京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。

スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。

寒ければ、夏でもセーター。暑ければ、冬でもTシャツ。

急激な気温変化のあった九月、台風や雨の続いた十月、そしてめっきり秋になった十一月。日本もスペインも、基本的には四つの季節、四季があり、それぞれの時期にさまざまなお祭りやイベントが開催されるのですが、日本とスペインにはちょっと違いがあります。それが、「衣替え」という概念です。

衣替え、という概念はあまりありません

度々、「スペインでは衣替えという概念がない」と言って来ましたが、実はスペインも広いため、南は温暖、北は雪も降る、という地域も存在することを詳しくお伝えしていませんでしたね。ごめんなさい。そのため、夏でも夜は気温が下がる内陸では、厚手のカーディガンは必需品。その辺り、クローゼットにはすぐ取り出せるところに全気候の衣類が揃っているのが普通です。寝るときには窓全開で、シーツ一枚、なんていうのは年に数週間のことだと聞いています。

広々としたキャンプ場。春、夏、秋は楽に楽しめるが、一日の気温の変化には注意

筆者が好んだ夏休みの行事に、一人キャンプがありました。オートキャンプ場でテントを張って寝るのと、村にあるオスタル(Hostal、ホテルより少々カテゴリーが下がる宿)やペンション(Pensión)に宿泊するのも、価格的には変わらないし、トイレやシャワーに行くのにキャンプ場では、野外を突っ切らなければならない、など、不便があるため、なかなか友達と一緒には行けなかったのですが、何しろ夜中に目が覚めてテントを出ると、満天の星空、そして清々しい風というのが大のお気に入りでした。15年ほど前のある夏休み、七月だったのですが、イベリア半島内陸のアラゴン地方のテルエルという町の近郊のキャンプ場で、大失敗に気がついたのです ! 

Albarracínに行ったのは七月も半ば。日中はジリジリとした太陽。それが夜は急激に冷える

日中は山道をドライブし、駐車スペースに車を駐めて散策。日焼け止めを塗り、山の岩肌に残されたArte Prehistórico(アルテ・プレイストリコ=先史時代の芸術)の野外の絵画を見て歩き、大満足。その後近くの村で食事をして、さて、テントへ。しかし、待っていたのは急激な気温下降。まさかの寒さで、持っているセーターやタオルなど、ありとあらゆるものをシュラフにかけ、それでもガタガタと震えた夜を過ごしたわけなのです。それ以来、夏でも毛布は一枚、車に積むのを忘れてはいません。

ありがたいことに、バルセロナは、晴れた日が年間300日ある、と言われていて、季節により気温の高低差はあるものの、太陽が出ていれば、日中はポカポカとして来ます。そこでも、「衣替え」はできない、というのも事実なのです。朝晩は10度を超えるぐらい、そして日中は23度越え、日向と日陰の気温がかなり違う、となると、家を出るときには上着が必要になります。そしてお昼過ぎに町に出ると、それを脱ぐ、ということになるのです。暑いので、下は半袖、そこにスカーフやマフラー、ジャケット、というわけです。筆者が半袖を着なかった時期は、一月後半から二月中旬まで。ですから、「合服」という季節の衣類は、ほとんど持っていなかった、というわけです。

一月の室内はエアコンが効き、セーターやカーディガンを脱いで、半袖、なんてのは当たり前

最近は空調の良さで、デパート、スーパー、銀行や郵便局、もちろん仕事で会社に行っても、エアコンで温度管理がされています。また、バルセロナのような都会では、金沢のようなドアツードアでの車生活ではなく、バス、地下鉄などを利用するので、自ずと徒歩での移動も伴うわけです。毎日歩くことが習慣となっていて、そうすると、自然と暑くなって来るわけなのです。純毛の手編みセーターなども持っていたのですが、逆に温度調整には不便なため、タンスの肥やしとなってしまい、もったいないことになりました。

スペインの知られざる文化 No.4」でねぎ焼きをご紹介したときの写真。三月も屋外で半袖OK !

会社の内勤の時には、日本でもよく聞く、「エアコン戦争」にも巻き込まれました。夏の通勤は暑いので、まるでビーチに行くかのような軽装。足元は素足にサンダル。原則会社の人以外とは会わない、出版社でのDTP作業のため、ドレスコードはゆるゆるなのです。そこで暑がりの同僚との戦いです。エアコンの送風口に近寄らないように、とはいえ、そう簡単にデスクの配置を変えることはできません。そこで、会社のデスクの下には、足を入れるための室内用ぬくぬくブーツと、首元にはスカーフ、そしてフリースのひざ掛けとカーディガンが必要なのです。これでは、夏物と冬物を入れ替える、なんてことは全く不可能ですよね。

八月半ばの様子。寒ければ、着る、暑ければ、脱ぐ

あと、年齢や体格、体調などによって、それぞれの体感温度も変わってくるため、夏でもベストを着ている人、夏でもハイネックの人、冬なのに素足、冬なのに半袖、などなど、町には多種多様なファッションが存在する、ということなのです。あ、「夏でも」「冬なのに」という言い方からして、差別的な感じがしてきさえします。いけない、いけない。また、ヨーロッパの北のほうから太陽を求めてバカンスに来る人たちは、二月でも半袖で、自国にはない太陽を浴びながら町を闊歩するわけです。ですから、27年ぶりに日本の梅雨を過ごした2015年に、寒々しく雨の降る中、衣替えの後の夏服を着た人々を見て、違和感を感じてしまいました。

五月もやっぱり、みんなさまざまな格好だ。セーターあり、タンクトップあり
十月もしかり ! 暑ければ泳ぐ、寒ければ着込む

寒ければ、着る。暑ければ、脱ぐ。

筆者は今でも衣替えは無視しています。周りからは、「暑くないの?」「寒くないの?」と、心配の言葉をいただきます。心配されているんだ、という思い込みの激しい筆者ですが、もしかして私の様相は、周りの人から見て、暑苦しく、もしくは寒々しく映るのかしら? ちょっと反省の今日この頃です。

新コロナ禍でも変わらない。町をゆく人々のスタイルは、あくまでも個性的だ
写真取材を快く引き受けてくれるSalvador氏。この日も俳句ラジオの友人たちと集えば、この通り

今月のワンフレーズは、
¡Vamos a tomar el sol ! (バモス・ア・トマール・エル・ソル) 「さあ、太陽を浴びましょう !」

寒くなってきましたが、太陽に遭遇したら、ぜひ !

≪写真協力≫
Salvador Barrau氏