スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師

杉田 美保子

スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。
石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。
京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。

スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。

スペインを離れ、日本に拠点を置き、はや6年が経過しました〜。帰国後すぐ、ここ新川電機マガジンに、スペインと日本の違いを私の視点からのコラムとして呟いて来ましたが、何しろ回数が重なると、ネタ切れに近い状況に陥って来ました。ここ数ヶ月、「あああ、もう書くことがなくなったかな?」と悩んだ日々が続いていたのでした。で、結論!

日本とスペイン、やっぱり違う !

ここまでは、私から見た日本とスペインの違いや共通点など、文化や風習などを私の視線からの事柄をご紹介してきました。「それがネタ切れか ? 状態」の中、なんと日本の方の目から見たスペインの不思議なことがある、ということを気づかせてもらったのです ! いろんな方々とご縁をいただき、親しくさせていただいているということ、本当にありがたいものです。

今回のテーマは、スペイン語の講座を通じての生徒さんから出た「素朴な疑問」となります。
スペイン語会話の講座を任せてもらい、はや4年ほどになります。当初は少なかった生徒さんも現在全部で15人となり、三か所のお教室でワキアイアイとおしゃべりが続いています。おうむ返しで記憶だけに頼るのって、結局数年経つと「あれ、どんな意味だっけ?」となるのは、14歳の時にビートルズの「ヘイ・ジュード」を丸覚えして歌えたのに、いざ、その意味はとなると「?」が出て来たことから、やはり少しは文法も覚えなきゃ、と悟りました。そういうわけで、初めは初歩の文法や語彙を増やす、などに力を入れていました。

スペイン語の文法、ややこしいんですよね〜。まず、動詞が主語によって変化する、ということ。それも、それぞれの動詞が、一人称、二人称、三人称だけでなく、その三つに単数、複数で活用が変わってくる。つまり、一つの動詞に六つの活用形が出て来るのです。以下が、主語。私、あたし、僕、俺、拙者、わちき、小生、などなど、一人称単数形の語彙が豊富な日本語から見たら、ある意味シンプルです。男性でも、女性でも、子供でも大人でも、私=yo(ヨまたはジョと発音は地域、個人差、様々ですが)です。

単数 複数
一人称 yo 私たち nosotros
nosotras
二人称 君たち vosotros
vosotras
三人称 él 彼ら ellos
彼女 ella 彼女ら ellas
あなた usted あなたたち ustedes

いたってシンプルです。そして便利なところは、それぞれの主語によって動詞の活用が変わるので、主語を省略することができる場合がある、ということ。つまり、主語が省略されても内容がわかるのです。その代わりに、この動詞の六つの活用形は、覚えること必須ということになるので。
お昼休みや休憩中に読まれている方には、ちょっと内容が濃すぎたかしら ? ちんぷんかんぷん、というのが正解なわけで、文法のお話はまた別の機会にしましょうかね。

夏のビーチとはいえ、昼間からガッツリ、ビールで昼食!

さて、このややこしいスペイン語文法をこよなく愛し、いつかスペインに行った時には現地の人とコミュニケーションをとりたい、という私の生徒さんたちは、少しずつ、少しずつ、理解度が深まって来ました。それぞれのクラスに特色はありますが、基本、スペイン語について、スペインや南米について、興味を持っていらっしゃる方ばかりなので、毎回なにかしら得るものがあれば、と思いながらクラスを進めているわけです。

アンダルシア地方の名物。ポテトの一品が前菜、ミガスという、細かく砕いたパンをベースにした主食に細かく切ったお肉や野菜を乗せたメインディッシュ。お昼の定食

そんな中、入門つまりほぼゼロから出発した方々に、「スペイン語習得の後にこんな試験があるんだけれど、興味あるかしら?」と投げかけてみました。

スペインのDELEスペイン語検定(スペイン文部省認定公式スペイン語検定)というシステムがあり、A1からC2までの6段階で初級、中級、上級とスペイン語能力を認定し、国際的にも通用するという認定試験です。

市場内にのいたるところにテーブルと椅子。買い物の途中に一休み。チョコレートが有名なお菓子屋さんにも、お茶の飲めるスペース

それぞれの生徒さんが、それぞれの目標を持っています。いつかスペインに行きたい、スペイン語で手紙が書きたい、趣味のためにスペイン語の本を解読したい、はたまた頭の体操、という方、もちろん資格を取りたい、という方もいらっしゃいます。ここ数年にわたるレッスンで、自分の思っていることを少しづつ話せるようになっている生徒さんたちに、模擬試験とも言えるスペイン語の文章を読んでもらいました。

インターネットという、どこにいても世界中の記事を読めるようになったこの時代、見つけたのがA1を目指すため方のための短いスペイン語の文章。中学生が自分の家族を紹介する、という設定です。そこには様々な形容詞、男性・女性名詞、単数・複数などを区別して、たくさんの語彙が出てくるとはいえ、生徒さんたちの今の実力では、とてもシンプルな文章。

「お父さんは銀行員、お母さんは主婦です。お母さんは、僕たちがお昼に学校から戻ってくると、美味しい昼食を用意してくれます。そして僕たち兄妹は宿題をして、僕はその後ゲームをします。妹は友達と遊びに行きます。お母さんは、午後友達と集まり、おしゃべりを楽しみ、お父さんは、テニスの練習に行きます」という設定なのです。

そこで、前置きが長くなりましたが、今日のテーマです。「先生、わからないんですけれど…」という言葉に、「お、私の今までの授業では出てこなかった語彙や文法があったかしら?」と身構えたのですが、出て来た質問は…

「先生、家庭の主婦であるお母さんが、夕方友達と集うって、大丈夫なんですか?」

「先生、銀行員であるお父さん、夕方テニスの練習をするって、帰宅は何時ですか?」

というものだったのです。

もちろん室内での飲食も可能だが、天候に関わらず、テラス席が人気だ

「え? ダメですか?」とは、スペインナイズされている筆者の言葉。質問の意図に気づくのに、数秒かかりました。そうかぁ。日本とスペインの違いって、言葉だけではないんですねぇ。

積み上げられたテラス席の椅子。コーヒー、ビール、軽食、おやつ、大抵テラス

日本の中学生のお子さんがいるご家庭では、お昼は給食やお弁当。家に戻って昼食をとることはまれ。でも、スペインではお昼に一旦授業が終わり、家で昼食を食べた後、午後再び学校に行く、というパターンは多いし、早朝からお昼過ぎまで一気に授業があり、帰宅後はもう学校がない、というパターンもあり得るのを知っている筆者は、特に不思議にも思わなかった文章。それが、こんな質問が出るとは…。ちなみに、スペインの平均的な昼食の時間は、14時となります。

お昼に出てくる品々。こってり系を昼食に
こちらはクリスマスのお昼の一連の食事。これでほぼ昼夜兼用となってます。なかなか夜にお腹は空きません…

スペインでのメインの食事は、昼食です。家庭での夕食は、パン、スペイン風オムレツ、チーズ、サラダ、ヨーグルト、フルーツなど、どちらかというと軽め、というのが一般的なのです。日本で様々な手の込んだ料理で食卓を囲み、一家団欒が夜、というのとはちょっと違いますね。なので、お母さんは昼食後、16時半や17時に友達と集まり、お茶をしながらおしゃべり、というのは、全然おかしな行動でも、NGな行動でもないわけなのです。

昼食に比べ、軽い感じ。やはり寝る前には軽め、ということか?

夕飯になりますが、平均的な夕食時間、というのは21時。つまり、午後は自分の趣味や勉強、買い物などに費やす時間がたくさんある、ということです。ちなみに、夏場は21時でも十分明るいので、子供はその時間まで外にいたりします。「子供は9時には寝なさい」と言われていた筆者の子供時代とは、全くかけ離れた時間割ですよね。

ということで、スペインも日本も、一日は24時間であるのに、なんだか日本で生活していると、あっという間に一日が、1週間が、1ヶ月が過ぎて行く感じがします。なんででしょう? ちなみにスペインでは、銀行は8時15分〜8時半に、スーパーマーケットだと8時〜9時に開店します。宵っ張りという印象があるスペインですが、日本と比べてそんなに違わないですよね? でも、なんだかスペインの生活、時間に余裕がある感じがしますよね〜。ちなみに、「金曜日の午後は、四人で買い物に出かけます」というフレーズで締めくくられたこの文章。さあ、みなさん、家族サービス、充分にしていますか?

では、今日のカルチャーショック第一弾はこのあたりで。第二弾もあるのですが、それはまた別の機会に、と思っています。

今日のフレーズは、
¿No pasa nada? (ノー・パサ・ナダ ? 大丈夫 ? の意)
そして答えは、
¡No pasa nada! (ノー・パサ・ナダ ! 大丈夫 ! の意)

≪ 写真協力 ≫
Salvador Barrau氏