2026/07/14 業界コラム 堀田 智哉 振動が教えてくれる“摩擦のサイン”– 設備保全の入口にトライボロジー –第2回 振動とトライボロジーの統合アプローチ 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉 2017/3 博士(工学) 東京理科大学...もっと見る 2017/3 博士(工学) 東京理科大学 2017/4‐2020/3 関東学院大学理工学部助教 2020/4-2023/3 関東学院大学理工学部講師 2023/4 関東学院大学理工学部准教授 [専門分野] 転がり軸受工学、機械要素・機械設計、トライボロジー、材料工学 第2回では、音と振動から読み解く機械の異常について解説します。 機械の振動と抑えるべきポイント 機械 (とくにポンプ) の振動を理解するうえで、まず押さえたいのは「どこで状態が変わると振動が変わるのか」です。現場で頻出するポイントは次の4つです (図1) 。 ベアリング (転がり)本来は油やグリースが金属接触を減らします。 シール (すべり)漏れを止めるため面がすべり、条件が悪いと発熱や異音につながります。 流体 (液体・気体の流れ)ポンプやファンのように流体を動かす機器は、流れの乱れが振動・音に反映されやすい特徴があります。 ミスアライメントポンプはモータとカップリングで接続されるため、回転中心が一致しない (軸がずれる) と周期的な力が生まれ、振動が増えます。 図1 振動の入り口振動は「原因」ではなく“異常を教えるサイン” 重要なのは、振動は「原因そのもの」ではなく、異常の入口を教えてくれる“サイン”だということです。機器内部の接触や流れを直接見るのは難しいため、私たちは運転条件と結果 (振動・音・温度など) から原因を推測します (図2) 。たとえば「運転直後だけうるさい」「温まると静かになる / 逆に悪化する」「負荷や条件で音が変わる」といった“変わり方”は、潤滑状態や接触状態、流体条件が関係している可能性を示します (もちろん機械的なズレも並行で疑います) 。ポイントは、単に“振動が大きい”ではなく、“どう変わるか”を観察することです。 図2 見えない内部は“条件×変化”で推測する 原因特定を早めるコツは、「いつから」「どんな条件で」「どう変わったか」を端的に正確に記録し、再現性の有無を整理することです。記録として有用なのは、 いつから変化したか (前回点検との差) 温度や運転状態 (運転開始からの時間、負荷、周囲環境) 最近の潤滑作業 (給脂・給油の有無や時期、銘柄変更の有無) 漏れ・にじみ・汚れの目視所見 (シールや給油口まわり、飛散や変色) です。これらが揃うと、候補が絞れ、対策の優先順位も付けやすくなります。 たとえば「立上げ直後だけ高周波成分が目立つが、温度が上がると落ち着く」なら油膜が安定するまで接触が荒い可能性があり、「給脂直後に一時的に静かになったが、その後温度が上がる」なら過不足や適合性の再確認が必要かもしれません。逆に「流量や弁条件で音が変わる」なら流体側 (キャビテーション等) を疑う、といった具合に、観察と記録が“仮説”を導きます。ただし診断には一定の知識と経験が必要で、だからこそ振動や油の状態を測って異常の芽を早めに見つける予防保全が重要になります。 予防保全を支える「機械状態監視診断技術者 (ISO 18436) 」 予防保全での診断をおこなうために必要なのは、一定の知識と経験です。これを支える枠組みが、ISO 18436に基づく「機械状態監視診断技術者」です。機械の状態監視・診断に必要な訓練と認証の要求を国際規格として定め、日本では日本機械学会などがこの枠組みに沿って資格制度を運用しています。資格を持つことで、測定・評価・報告の手順が標準化され、現場や会社が変わっても技術レベルを客観的に示しやすくなります。これは個人の能力証明であると同時に、組織として品質や安全を守るための“共通言語”になります。 この資格には大きく「振動」と「トライボロジー (潤滑・油分析) 」の2分野があります (図3) 。振動分野 (ISO 18436-2準拠) は、センサや振動計で揺れを測り、周波数成分などからアンバランス、軸ずれ、ベアリングや歯車の損傷などを推定します (日本機械学会の認証ではCatⅠ〜Ⅳ:手順通りの計測→基礎解析と評価・簡単な対策提案→監視計画の立案→先端解析や設計変更提案・指導まで段階化) 。つまり振動は「機械が今どんな揺れ方をしているか」をデータで読む技術です。 図3 機械状態監視診断技術者 一方、トライボロジー分野 (ISO 18436-4準拠) は、摩擦・摩耗・潤滑の観点から機械を診ます。給油・給脂の管理、オイルの採取 (サンプリング) 、油の汚れや摩耗粉の分析、結果の解釈と改善提案が中心です (日本機械学会の説明では、カテゴリⅠは手順に沿った給油・サンプリング等、カテゴリⅡは結果の分類・解釈・評価や報告書作成・改善推奨、さらにカテゴリⅢでは方法・手順の選定・確立や高度な提言まで含まれます) 。つまりトライボロジーは「接触面と油の健康状態」から故障の原因や進み具合を読む技術です。 新川センサテクノロジ株式会社では、ISO18436-2に準拠した「機械状態監視診断技術者 (振動) 」の資格取得をサポートしています。 国内唯一の認定訓練機関として、カテゴリI〜IVまでのセミナーを一貫して開催しており、修了することで認証試験の受験資格を得ることが可能です。詳しくはこちらをご覧ください。 「振動×油監視」で止めるタイミングと修理方法を合理化する 振動だけでは、潤滑不足なのか異物混入なのか、あるいは組付けや流体条件なのかが判別しづらい場面があります。油の汚れや摩耗粉、水分の兆候を合わせて見ることで、対策が単なる「交換」から「原因の除去 (汚染の入口対策、潤滑条件の適正化) 」へ変わります。 「振動監視」で“どこかおかしい”を早期に捉え、「油監視 (トライボロジー) 」で“なぜおかしいのか・どれくらい進んでいるのか”を確かめられれば、止めるタイミングや修理方法を合理的に決められます。さらに両者を同じ言葉と手順で共有できるため、保全・運転・メーカー間のコミュニケーションが噛み合い、判断が速くなります。設備保全では、この2つを組み合わせて初めて、交換中心の対応から一歩進み、再発を減らして安定稼働につなげられるのです。現場ではこの視点が効きます。 次回は9月号に掲載予定です。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉さんのその他の記事 2026/07/14 業界コラム 振動が教えてくれる“摩擦のサイン”– 設備保全の入口にトライボロジー –第2回 振動とトライボロジーの統合アプローチ 2026/04/14 業界コラム 振動が教えてくれる“摩擦のサイン”– 設備保全の入口にトライボロジー –第1回 トライボロジーと音・振動との関係性 2025/08/13 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 ( 6 ) 2025/06/10 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 ( 5 ) 2025/04/08 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 ( 4 ) 2025/02/13 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 ( 3 ) 2024/12/10 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 ( 2 ) 2024/10/08 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 (1) 2024/01/10 業界コラム 軸受の振動 ( 5 ) 2023/11/14 業界コラム 軸受の振動 ( 4 ) 2023/09/12 業界コラム 軸受の振動 ( 3 ) 2023/07/11 業界コラム 軸受の振動 ( 2 ) 2023/05/09 業界コラム 軸受の振動 ( 1 ) 2023/01/11 業界コラム 軸受の選定 ( 5 ) 2022/11/08 業界コラム 軸受の選定 ( 4 ) 2022/09/13 業界コラム 軸受の選定 ( 3 ) 2022/07/12 業界コラム 軸受の選定 ( 2 ) 2022/05/11 業界コラム 軸受の選定 ( 1 ) 2021/12/14 業界コラム 軸受の取扱い ( 5 ) 2021/10/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 4 ) 2021/08/17 業界コラム 軸受の取扱い ( 3 ) 2021/06/04 業界コラム 軸受の取扱い ( 2 ) 2021/04/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 1 ) 2020/08/04 業界コラム 軸受の基本(5) 2020/07/07 業界コラム 軸受の基本(4) 2020/06/02 業界コラム 軸受の基本(3) 2020/05/12 業界コラム 軸受の基本(2) 2020/04/07 業界コラム 軸受の基本(1) 2019/10/01 業界コラム 軸受の寿命と振動(2) 2019/09/03 業界コラム 軸受の寿命と振動(1) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹榎木 茂実藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大出 剛大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2026年7月2026年6月2026年5月2026年4月2026年3月2026年2月2026年1月2025年12月2025年11月2025年10月2025年9月2025年8月2025年7月2025年6月2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月