2026/10/14 業界コラム 堀田 智哉 振動が教えてくれる“摩擦のサイン”– 設備保全の入口にトライボロジー –第3回 振動の分析と原因の対策 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉 2017/3 博士(工学) 東京理科大学...もっと見る 2017/3 博士(工学) 東京理科大学 2017/4‐2020/3 関東学院大学理工学部助教 2020/4-2023/3 関東学院大学理工学部講師 2023/4 関東学院大学理工学部准教授 [専門分野] 転がり軸受工学、機械要素・機械設計、トライボロジー、材料工学 今回は、「振動」と「トライボロジー」の関連についてより具体的に解説していきます。 振動診断というと「周波数の山 (ピーク) を見て原因を探る」イメージがあります。たしかに、回転数に関係するピーク周波数は、アンバランス、芯出し不良、軸受け損傷個所の判断に役立ちます。ところが、潤滑不良や汚染 (コンタミ) は、ピークが立つ前に“波形全体の荒れ (ザラつき) ”として現れることがあります。 原因の特定1) 潤滑が悪いと「高い周波数」が荒れる 潤滑が悪化すると、金属接触が増えて不規則な小さな衝撃が増えます。すると、特定のピークではなく、高周波域が全体的に荒れた感じになることがあります。ここでは、ピーク周波数の特定よりも「比較」が大切です。 前回より荒れている 時間経過とともにじわじわ増えているか (トレンド) 回転速度などの条件によって強弱が変わるか 振動はその日の条件で変化します。だからこそ、単発の測定値ではなく、同じ測定点・同じ条件で測定し続けた“時間変化”がとても重要です。 図1 潤滑良好と潤滑不良との比較2) 包絡線処理は「小さな衝撃」を拾う道具 包絡解析 (エンベロープ処理) は、ベアリングなどが出す小さな衝撃を見つけやすくする方法です。わかりやすく言えば、「普通の振動だけでは見えにくい兆候を、見えやすくする機能」です。ノイズや振れによる振動成分を除去し、衝撃による振動周期を強調します。潤滑不足・汚染・初期損傷を疑う入口になります。あくまでも、疑う入り口ですから、ベアリングを交換すれば原因が解決するとは限りません。大切なのは、ここから実際に原因側 (なぜベアリングが損傷したのか) を確認することで原因を特定し、さらに対策を講じることです。ベアリングの交換はあくまで選択肢の一つで、再発を止めるには環境の改善が必要になる場合があります。 図2 振動解析の例3) ポンプは「流体の影響」が大きい ポンプは液体を扱うため、流量や吸込条件などの運転条件で振動・音が変わりやすい機械です。流れの乱れが振動の変化として現れることがあります。ここが、ファン (空気を扱う回転機械) と比べたときの大きな違いです。そのためポンプでは、これまで取得してきた記録によって、運転条件と測定結果とを突合せることが診断の鍵になります。 たとえば、 変化が出やすい条件はいつか どの運転状態で悪化しやすいか といった情報は、状態監視診断技術者が原因の方向づけをするうえで、強力な手がかりになります。 対策1) 潤滑剤は少なすぎも多すぎもNG 潤滑は、足りないと金属接触が増えます。一方、入れ過ぎも問題になることがあります。抵抗や発熱が増え、状態が悪化するケースがあるためです。油潤滑でも、運転条件に合わない粘度や管理状態だと、油膜が保てず接触が荒れます。 潤滑管理でとくに重要なことは、以下の2点です。 作業の記録 いつ、どの潤滑剤を、どれくらい (可能な範囲で) 前後の変化 温度や振動の傾向がどう変わったか (トレンド) これがあると、状態監視診断技術者は「潤滑が効いているのか / 過不足の可能性はあるのか」を説明しやすくなります。 2) 汚染 (コンタミ) 対策 汚染対策は、派手な機器導入よりも「入口を塞ぐ基本」が効くことが多い分野です。点検しやすい順に並べると、次の通りです。 給油口まわり 開けた瞬間が混入しやすい。清浄・養生が重要 保管・移し替え 容器の使い回し、蓋の開けっぱなしは混入源 シール 漏れだけでなく、外部からの侵入の入口にもなる フィルタ 管理状態が悪いと汚染が広がる 周囲環境 粉じんや湿気が多い場所ではリスクが上がる 対策の効果は、状態監視のデータに現れることがあります。たとえば、高周波の荒れが減るなど。「対策→測定→改善確認」ができると、改善は継続しやすくなります。 図3 コンタミの主たる侵入経路3) 据付・運用:ポンプとファンの常識を押さえる 機械的な基本 (芯出し、ゆるみ、取付剛性) に加え、運用条件も振動と寿命に影響します。 ポンプでありがち 配管の影響で負担が偏る、液体の条件で振動が変わる ファンでありがち 羽根車の汚れ付着、ベルト張力、ダクト条件による負荷変動 ここで状態監視診断技術者は、データから「機械的なズレが濃いのか」「接触状態 (潤滑・汚染) が濃いのか」「運転条件の影響が濃いのか」を整理し、改善の優先順位をつける助けになります。 4) “標準手順”づくり 再発防止は、属人化しやすい領域です。そこで、最低限この3点を“標準手順”として回します。 監視 (見る指標) 全体振動 (速度など) +高周波 (可能なら包絡線処理を含める) +温度 作業 (守るルール) 潤滑作業の記録、清浄な補給、保管・移し替えのルール、汚染入口の点検 結果 (目標) 計画外停止の減少、同一トラブルの再発率低下、交換間隔の改善 「原因を当てる」よりも、「条件・履歴・変化」を正確に残すことがまずやるべきことです。 その記録が、状態監視データを“改善の証拠”に変え、現場を前に進めます。 さいごに 振動は、機械が発する「異常の結果」だけでなく、摩擦や潤滑状態の変化を知らせる重要なサインでもあります。とくに潤滑不足や汚染は、故障として現れる前に振動の変化として表れることがあります。 大切なのは、振動データを単なる数値やグラフとして見るのではなく、「なぜ変化したのか」を考えながら機械の状態と結び付けて評価することです。振動、温度、潤滑履歴、運転条件などの情報を積み重ねることで、設備の状態をより正確に把握し、計画外停止の防止や寿命延長につなげることができます。 振動診断とトライボロジーは、それぞれ独立した技術ではありません。両者を結び付けて考えることで、見えなかった摩擦の変化が見え、より効果的な設備保全が可能になります。まずは「振動の変化に関心を持つこと」から始めてみてください。そこには、設備の未来を守るための多くのヒントが隠されています。 この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする 関東学院大学 理工学部 准教授 堀田 智哉さんのその他の記事 2026/10/14 業界コラム 振動が教えてくれる“摩擦のサイン”– 設備保全の入口にトライボロジー –第3回 振動の分析と原因の対策 2026/07/14 業界コラム 振動が教えてくれる“摩擦のサイン”– 設備保全の入口にトライボロジー –第2回 振動とトライボロジーの統合アプローチ 2026/04/14 業界コラム 振動が教えてくれる“摩擦のサイン”– 設備保全の入口にトライボロジー –第1回 トライボロジーと音・振動との関係性 2025/08/13 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 ( 6 ) 2025/06/10 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 ( 5 ) 2025/04/08 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 ( 4 ) 2025/02/13 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 ( 3 ) 2024/12/10 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 ( 2 ) 2024/10/08 業界コラム 軸受の摩擦・潤滑 (1) 2024/01/10 業界コラム 軸受の振動 ( 5 ) 2023/11/14 業界コラム 軸受の振動 ( 4 ) 2023/09/12 業界コラム 軸受の振動 ( 3 ) 2023/07/11 業界コラム 軸受の振動 ( 2 ) 2023/05/09 業界コラム 軸受の振動 ( 1 ) 2023/01/11 業界コラム 軸受の選定 ( 5 ) 2022/11/08 業界コラム 軸受の選定 ( 4 ) 2022/09/13 業界コラム 軸受の選定 ( 3 ) 2022/07/12 業界コラム 軸受の選定 ( 2 ) 2022/05/11 業界コラム 軸受の選定 ( 1 ) 2021/12/14 業界コラム 軸受の取扱い ( 5 ) 2021/10/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 4 ) 2021/08/17 業界コラム 軸受の取扱い ( 3 ) 2021/06/04 業界コラム 軸受の取扱い ( 2 ) 2021/04/12 業界コラム 軸受の取扱い ( 1 ) 2020/08/04 業界コラム 軸受の基本(5) 2020/07/07 業界コラム 軸受の基本(4) 2020/06/02 業界コラム 軸受の基本(3) 2020/05/12 業界コラム 軸受の基本(2) 2020/04/07 業界コラム 軸受の基本(1) 2019/10/01 業界コラム 軸受の寿命と振動(2) 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹榎木 茂実藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大出 剛大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2026年10月2026年9月2026年8月2026年7月2026年6月2026年5月2026年4月2026年3月2026年2月2026年1月2025年12月2025年11月2025年10月2025年9月2025年8月2025年7月2025年6月2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月