2017/05/10 業界コラム 杉田 美保子 スペインの知られざる文化 No.7 スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師 杉田 美保子 スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。 石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。 京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。 スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。 「サン・ジョルディの日 (Diada de Sant Jordi)」というのが、今日ご紹介するお祭りです。2017 年のサン・ジョルディの日(4 月 23 日)は日曜日と重なったので、例年よりも「祝日感」満載となりました。スペイン語では「サン・ホルヘ」、英語では「サン・ジョージ」または「サン・ゲオルギオス」と言うそうで、この聖人が竜を退治したと言う伝説に基づき、ドラゴンが悪者として登場します。ユネスコが 1995 年に 4 月 23 日を「世界図書・著作権デー」に制定したため、この日は町中で本の販売と、さまざな書籍の著者たちによるサイン会が数々行われるようになりました。 町のいたるところに並ぶスタンドでは、バラと本が主役のサン・ジョルディの日バラと本。情熱と英知のお祭りサイン会が行われるテント「サン・ジョルディ」のお祝いが最も盛んなのは、スペインではカタルーニャ地方ですが、それ以外にアラゴン州やカセレス市、またスペイン以外では英国、カナダなどでも行われます。今回は、4 月 23 日に現地で取材ができたので、最新の画像をお届けできます。スペインはカタルーニャ州の祝日の様子が無事届くでしょうか? このお祭りには、色々と起源があるのですが、現在は男性が女性にバラの花を、女性が男性に書籍をプレゼントする、という習慣が続いています。バラは情熱を、書籍は文化を表現しているということで、この日は町のいたるところに本とバラを売るスタンドが立ち並び、老いも若きも本を売ったり買ったり、バラを売ったり買ったり、という状態になります。この祝日、実は祝日であるにもかかわらず、休日にならない祝日なのです。ですので、もし火曜日、木曜日などの平日にかかれば、わざわざお休みをとって町を散歩する人や、昼休みや出勤前、出勤後の空き時間を使って町を歩き回る人でごった返します。今年は久々に日曜日に当たり、気持ちに余裕が出るのか、のんびりとした一日が始まりました。 バラの花を女性に贈るという習慣は、なんと15世紀からあったそうです。ある説によると、バルセロナにはバラ市場があったそうで、その日の公式ミサに出ると、バラの花がもらえた、という話もあります。 17 世紀にも同様の記述があり、かなり昔からの習慣だということです。現在のバラの花には飾りとして、カタルーニャの州旗と、肥沃を表す麦の穂が添えられ、夫婦や恋人同士だけでなく、友人、同僚、家族間で贈り合いをするのが慣習となっています。 ドラゴンがマスコットとして登場する。張りぼてのドラゴン。両手にはバラと本。 17 世紀にも同様の記述があり、かなり昔からの習慣だということです。現在のバラの花には飾りとして、カタルーニャの州旗と、肥沃を表す麦の穂が添えられ、夫婦や恋人同士だけでなく、友人、同僚、家族間で贈り合いをするのが慣習となっています。 サン・ジョルディの日の数日前から、ドラゴン、バラ、サン・ジョルディ、本、という言葉があちこちで聞かれ、この日に因んで詩やポエムのコンクールが行われたり、文学賞の受賞式が行われたり、詩の朗読のリサイタルが行われたり、と、文化活動が盛んになります。筆者も 4 月 20 日に、古巣である「Teatrí de Butxaca (ポケット劇場)」という地元 FM ラジオ(107.7FM、ラジオ・グラシア)番組に参加し、色々なお話を聞かせてもらいました。ショートショートで話を作り、朗読するスサナさんの本職は、お花屋さんで、この日も「サンジョルディの日のバラの花」について教えてくれました。スペイン国内のバラの生産だけでは足りないので、コロンビア、エクアドールといった国からの輸入を余儀なくされているほど、4 月 23 日にはバラが飛び交います。スサナさんの花屋にも、21 日金曜日には卸売業者からバラが運ばれてきました。「サン・ジョルディの日が毎月あれば助かるのに」というのが、花屋さんと本屋さんの本音でしょうね。「どうだった、売り上げ?」と聞けば、「今年はお天気も良くて、たくさんの人がお店の前を通って行ったわ。例年以上の売り上げで、大助かりよ」とのこと。筆者が取材したのはバルセロナの中心部で、牛歩という表現が最適な混雑でしたが、スサナのお店は中心部から離れた山手なので、お客さんが来てくれるかどうか、というのが心配の種だったのです。その後連絡が入り、町中の混雑を避けた人々がのんびり自宅近くの花屋さんや本屋さんでショッピングを楽しんだため、大変たくさんの方がバラを買いに来てくれた、というのが今年の彼女のサン・ジョルディだったようです。 (上)何しろ人、人、人の目抜き通り (下)お母さんにはバラをゲット。そしてお父さんの本を選ぶのかな? この日筆者は朝から活動。この日のためにトレッキングシューズで旅行に挑んだのですが、大正解でした。宿泊先から友人宅へ、「バラはいかが? クッキーはいかが?」という声をかけられながら、約 20 分の徒歩移動。友人宅での朝食の後、13 時に別の友人たちと待ち合わせた地点まで、普通なら 30 分もかからない距離なので、「じゃ、12時に出て、のんびり散歩しましょう」と出かけたものの、町の中心の道「パセオ・デ・グラシア通り」と「ランブラ・カタルーニャ通り」に近づくと、どこから湧いて来たのか、たくさんの人が歩いているのが見えて来ました。歩道、車道、遊歩道、車道、歩道となっているメインストリートは、人々の頭、頭、頭で地面が見えない状況です。 遊歩道の両端に並んでいる本屋さんの出店を覗きながらそぞろ歩きをしようと街に出て来た人々でごった返し、歩くのがやっと。「こんなとこに首をつっこむのは、自殺行為だ」「窒息しちゃう」などなど、いろんな声が聞こえて来ました。でも、列を作ってそぞろ歩きをするのはスペイン人の得意技。右足を進め、右足が着地していても左足はまだ地面についていて、そろそろと左足を上げて前に進める、という究極の技を持っているのがスペイン人なのです。これは、30 年前にマドリードの旧市街に出かけた時に感じたことと、全く変わっていません。 ガウディの建築物、 Casa Batlló(カサ・バッリョ)がバラで装飾された13 時の待ち合わせに数分遅れ、汗をかきかき、人の波をかき分けて到着したのですが、そこから再び来た道を戻り、カタルーニャ広場に向かうことになりました。このパセオ・デ・グラシア通りには、ガウディの作った家があるのですが、ご覧のように造花のバラの花で見事な演出が施され、建物の前は自撮りをしようという人々が立ち止まり、特に渋滞のひどい場所です。ただ、みんなが立ち止まりたくなるような豪華なデコレーションに、筆者も足を止めてしまうことになりました。 そのまま町の中心カタルーニャ広場に向かって歩いたのですが、本のスタンドには近づける状況てはなく、有名な作家がサイン会をしていても、その列はとても長く、何しろ人、人、人の波です。なんでも、この日は花屋さんが 600 万本のバラが売れるだろう、と予測し、町中では 300 人以上の作家がサイン会を開いた、というのです。映像がモノを言う時代、今月は、ぜひその町の様子を画像にてお楽しみください。 ショーウィンドウを覗くのが楽しみ。 チョッビリ甘めだが美味しいケーキがたくさん街には舞台が作られ、いろんな人が自分の好きな詩などを朗読する花やさんのウィンドウ バラと本の他には、町中にあるパン屋さん、ケーキ屋さんがサンジョルディに因んだパンやお菓子をウィンドウに並べます。ドラゴンを退治した聖人ジョルディの剣であったり、ドラゴンであったり、バラの花、本、モチーフには事欠きません。スペインの人々の名前はほとんどがキリスト教の聖人の名前です。ですので、聖人ジョルディ(サン・ジョルディ=Sant Jordi)の日には、ジョルディという名前の人々がお祝いされます。そのためのケーキであり、また日曜日ということもあり家族での昼食のためのデザートでもあります。 その他には、ジョルディに退治されたドラゴンをモチーフとしたオブジェの販売も行われます。街角には、それはそれは様々な出店が出るのですが、こちらは市役所に届出をすれば誰でも出せます。そこで、通りに面した商店以外に、修学旅行の費用を募る高校生たちのグループや社会貢献のための寄付を募るグループも軒を連ねます。今回、コラムを読んでくださっている方々へのプレゼントとして、バラの花は持って来れないのはわかっていたのですが、その代わり、知的障害支援グループの販売していた栞を持って来ました。少しでも社会貢献になれば良いと思います。 かなり駆け足のリポートですが、町の様子が伝わったでしょうか? 旅行に行き、その土地のお祭りに遭遇するのは、本当に嬉しいものですよね。スペインには日本同様、様々なお祭りがあります。みなさんにもぜひ一度、こういう賑わった街を楽しんでいただきたいと思います。 ¡Os deseo mucha suerte! (あなたがたに大きな幸運がありますように! の意味) この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師 杉田 美保子さんのその他の記事 2025/01/15 業界コラム スペインの知られざる文化 No.73 (最終回) 2024/12/10 業界コラム スペインの知られざる文化 No.72 2024/11/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.71 2024/10/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.70 2024/09/10 業界コラム スペインの知られざる文化 No.69 2024/08/07 業界コラム スペインの知られざる文化 No.68 2024/07/09 業界コラム スペインの知られざる文化 No.67 2024/06/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.66 2024/05/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.18 2024/04/09 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.17 2024/03/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.16 2024/01/10 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.15 2023/12/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.14 2023/11/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.13 2023/10/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.65 2023/09/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.64 2023/07/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.12 2023/06/13 業界コラム スペインの知られざる文化 No.63 2023/05/09 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.11 2023/04/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.10 2023/03/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.9 2023/02/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.8 2023/01/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.7 2022/12/13 業界コラム スペインの知られざる文化 No.62 2022/11/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.61 2022/10/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.60 2022/09/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.59 2022/08/09 業界コラム スペインの知られざる文化 No.58 2022/07/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.6 2022/06/14 業界コラム スペインの知られざる文化 No. 57 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月