2019/11/06 業界コラム 杉田 美保子 スペインの知られざる文化 No.31 スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師 杉田 美保子 スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。 石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。 京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。 スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。 男と女、なぜ区別?(スペインの知られざる文化 No.13)で、筆者のスペインでの男女関係(!)についての経験を書きましたが、そこでは書ききれなかったのが、今日のテーマ。 日本では、お酌って、女性がするんだった先日、ひょんなことから一人ランチをするチャンスがあり、1 人で食べているとなぜか周りが気になる筆者、「申し訳ない」と思いながらも隣のテーブルに注目しちゃいました。 「昼定食二つに、ビール持って来て」と注文したご夫婦。「瓶ビールですが、よろしいですか?」というウェートレスさんに、「うん、いいよ」と答える男性。忙しく動き回るウェートレスさんは、瓶ビール、グラス、おつまみを持ってテーブルに戻って来ました。注文したのが男性なので、男性の前に『ほろ酔いセット』が置かれます。これがスペインならば、グラスは二つになるはずですが、酒気帯び運転さえ許されていない日本では、2 人のうちどちらか 1 人がハンドルキーパーなので、グラスは一つです。 ウェートレスさんはテーブルでビールの蓋を開け、「はい、ビールをお持ちしました。お食事は少々お待ちください」と言って去って行きました。すると向かいに座った女性はすかさずビール瓶を持ち、男性にお酌をしはじめたのです。 うううううん。 日本に戻って 5 年になろうとしますが、なぜか違和感満載になるのは、筆者がかぶれているからでしょう。 だって、スペインでは、食事でお酒をつぐのは男性の役割、なんですもの。 注ぐ方も、注いでもらう方も片手ワインクーラーにはたっぷりと氷が入ってくるレストランに行くと、camarero(カマレロ=ウェイター)もしくは camarera(カマレラ=ウェートレス)がメニューを持って来ます。好きなテーブルについて良い場合と、案内によってテーブルにつく場合がありますが、スペインにはおしぼりやお冷やを持ってくるという習慣がないので、にこやかなご案内があるだけです。そこで、ワインリストが別になっている場合があり、それが男性に渡されることになります。食事の席でワインを選ぶのは男性なのです。 筆者は長女で、「お姉ちゃんだからしっかりしなさい」と育てられたため、若い頃は結構姉御肌で、気をつかうタイプだったのですが、それがスペインではすっかり「おまかせ体質」になってしまいました。だって、好き嫌いが無いだけではなく、なんでも食べたり飲んだりしてみたい、そしてこだわらない私は、誰かが全てを決めてくれれば、「あ〜、悩まなくて済んでよかった〜」と思うからです。 さて、でもここで、スペインの女性は疑問を呈します。 産地、ぶどうの種類、などなどを吟味し、一本のワインを選ぶのに、「どうして男性でなきゃいけないの?」です。全ての男性がぶどうの種類やワイナリーの特質を全て知っているわけではないし、もしかしたらそのグループの中の女性の方が詳しいかもしれないのに、です。 一度飲んだことがあって好きなワインであったり、好きな品種のぶどうであったり、また原産地名称保護により産地や品質が保障されているワインであったり、一本を選ぶための指針は数多くあります。またワイナリーの知名度や、価格によって決めるのも十分「あり」なワイン選び。リストから選んだ一本が運ばれてきます。これも、男性の元に届きます。白、ロゼワイン、カヴァ(スペイン産発泡ワイン。フランス産はシャンパンと呼ばれる)にはワインクーラーも運ばれてきます。大型のアイスペールを想像してください。そこにキューブアイスと水が半分ほど入れられ、テーブルの横に設置されます。 四苦八苦していると、どれ、貸してごらん、と、誰もがワインを開けてくれる。 そしてグラスに注ぎ分けられる カマレロが仰々しくワインボトルを両手で掲げ、「こちらのワインでよろしいですね」と確認を促すのも男性客の方に。尋ねられた方は大きく頷く。ワインオープナー(sacacorchos = サカコルチョス)で手際よくボトルを開いたカマレロは、「¿Desea catar el vino?(デセア・カタール・エル・ビノ?=ワインを試されますか?)」と再び男性に尋ねます。 赤、白、ロゼ、カヴァ、 様々な種類があり、何にしようか迷う(初めて頼んでみたワインの場合) コルクを観察。ワインを凝視。グラスに鼻を近づけ香りをチェック。ちょっと口に含む。想像したワインならば、「どうぞ、注いでください」と答えます。 (何度も飲んで知っているワインの場合) 「試さなくてもよく知っているワインなので大丈夫。みんなに注いでください」となります。ただ、ほんのすこしの確率でワインの中身が変質している場合があるので、やはりその確認はした方がいいのですが…。 全てのグラスにワインを注ぎ終え、ボトルはワインクーラーに入れられ、あとは食事が始まるのを待つばかり。 このようなイベントが各食事ごとにあるのですから、そしてスペインでは昼食が一日のメインの食事なのですから、時間のかかること、かかること。 ちょっと気取ったレストランならば、カマレロもしくはカマレラが度々テーブルに近づいてきて、空いたグラスにワインを注ぎに回ってくれます。 そうでないと、ワインクーラーの横の男性がお酌(!)をしてくれるのです。 どんな食事にもワインは欠かせない 姉御肌な私は、ワインを注ぐ。ビールは日本でいう「手酌」。これ、普通 カヴァも、グラスに注がれて、みんなに渡されるので、お酌はない そして、テーブルのグラスですが、注がれている間はグラスに手は添えません。日本だとさしずめ「失礼な!」となり、両手でグラスを持ち受け、そこにお酌の飲み物が両手で注がれるのですが。全く違った習慣の違いに、渡西間もない頃は、どうすればいいのかわからず、ドキドキしたものでした。 では、女性はワインを注がないのでしょうか? いいえ、注ぎますよ。私はワイン大好きなので、ついついピッチが早まるのですが、その時にはまず、ボトルを片手で持ち、テーブルのメンバーに順に注ぎます。そして最後に自分のグラスに注ぐのです。日本のように、「まあまあ一杯!」と瓶を相手からもらって「お酌を返す」というコンセプトは、スペインにはないように思います。 ビールに至っては、小瓶のビールをそのままラッパ飲み、もしくは自分でグラスに入れるので、やはり相手にお酌をする、というコンセプトはありません。 以前、数年にわたりスペインで会社員をしていたことを書きました(スペインの知られざる文化 No.16)。 もちろん年に一度、忘年会(クリスマス会という方がふさわしい)が会社主催で開かれ、かなりのおめかしをしての食事会となります。マドリードの本社からも重役達が訪れ、70-80 人でのディナー。席順は職種混合となり、初対面の同僚や、社長と隣り合わせ、なんていうこともありました。しかし、ですが、差しつ差されつ、という、ビールのお酌は行われなかったのが、衝撃的ではありました。仕事の一環とはいえ、会社が社員に対して開催してくれるクリスマスの食事会。普段は雲の上にいるかのような上司達との会合では、いかに本音を真綿に包んで上に伝えるか、ということさえ忘れ、ほぼ無礼講で夜が更けていったものです。 ということで、今日は日本との習慣の違いをワインを例にとってお話ししてみました。 カタルーニャ地方では、それよりもっと素敵な「Porró(カタラン語「ポロ」)= Porrón(スペイン語「ポロン」)がいろんなシーンで使われるので、ご紹介しましょう。回し飲みするけれど、口はつけないので清潔。お酌しなくても良い。シャツを汚すから嫌、という人は、グラスに注いで。差しつ差されつ、ではなく、飲みたい人が飲む、というシステム。 かなりポピュラーなポロ。 喉元が汚れるので、使用にはかなりの練習が必要。でも便利何れにしても、筆者はナマケモノなので、誰かがワインを選んてくれて、その上注いでくれて、というシーン、大好きです。男だから、女だからってのは、あんまり気にしないかしら?美味しい、楽しい宴を楽しみましょう! 師走まであと少し。いろんな会合が開催される時期に差し掛かりますね。くれぐれも飲み過ぎにご注意を! ¡No os paséis! (ノー・オス・パセイス = リミットを超えないでね) この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師 杉田 美保子さんのその他の記事 2025/01/15 業界コラム スペインの知られざる文化 No.73 (最終回) 2024/12/10 業界コラム スペインの知られざる文化 No.72 2024/11/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.71 2024/10/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.70 2024/09/10 業界コラム スペインの知られざる文化 No.69 2024/08/07 業界コラム スペインの知られざる文化 No.68 2024/07/09 業界コラム スペインの知られざる文化 No.67 2024/06/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.66 2024/05/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.18 2024/04/09 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.17 2024/03/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.16 2024/01/10 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.15 2023/12/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.14 2023/11/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.13 2023/10/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.65 2023/09/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.64 2023/07/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.12 2023/06/13 業界コラム スペインの知られざる文化 No.63 2023/05/09 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.11 2023/04/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.10 2023/03/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.9 2023/02/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.8 2023/01/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.7 2022/12/13 業界コラム スペインの知られざる文化 No.62 2022/11/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.61 2022/10/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.60 2022/09/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.59 2022/08/09 業界コラム スペインの知られざる文化 No.58 2022/07/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.6 2022/06/14 業界コラム スペインの知られざる文化 No. 57 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2025年5月2025年4月2025年3月2025年2月2025年1月2024年12月2024年11月2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月