スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師

杉田 美保子

スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。
石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。
京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。

スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。

スペインへの里帰りが中止になり、かれこれ一年が経ちます。実際の里帰りは2019年の夏だったので、一年半、金沢に引きこもり、という計算になります。
ただ、毎月毎月、昔のことを思い出すが如く、日本とスペインの違いを書き綴って来たので、まるで毎月里帰りをしているような錯覚に陥ります。パソコンに向かえば、心は里帰り、なんて、ある種とっても経済的な自分に、我ながらびっくりです。
あっという間に月日が経ち、気づくと、巷では「定年退職者」と呼ばれるカテゴリーに突入の年齢になって行くのでしょう。あ、まだ還暦、というのも待っているので、そんなに慌てることはないのでしょうが~。

影はまだまだ冬のものだが、日差しは強い。お目当のバルやカフェ、レストランはほぼ休業状態。町のいたるところにあるベンチが憩いの場だ

第三の年齢、スペインと日本

渡西した時は、大学卒業直後の22歳だったので、「将来」は「拓けるもの」だと思い、そのまま27年をスペインで過ごしてしまったのですが、気づくとなんと、周りの人々はやれ管理職は大変だ、やれ子供の学費は大変だ、と言っているではないですか! ある意味、バルセロナは私にとっての竜宮城だったのですね。

平日だからか、誰もいない遊技場

楽しい竜宮城から戻り、「開いてはいけません」と乙姫様に言われた玉手箱を開けたが如く、今度は「お、あの時の『将来』は『拓ける将来』ではなくなり、違う次元の将来が現れ、これから先は違う世界に突入か?」と、一人で身震いをすることになります。新型コロナ感染拡大を防止するための自粛行動によって、どこにも出かけず、誰にも会わず、テレビが友となり、ますます想像力を掻き立てられ、勝手にいろんな妄想に右往左往、という結末になりつつあるのです。

いやいや、なになに、今が第二の人生とするならば、第三の人生も待っているはず! そんなに捨てたもんじゃないはずです。

寒いから? 足元おぼつかないから? 寄り添ってのお散歩。ちょっと歩けば、ベンチに座るたくさんの市民が見えてくる

バルセロナの生活を思い起こすと、市場の周りだけではなく、どこを歩いても活気があり、何しろ人がたくさん歩いていました。
老若男女、右足の靴底が地面についてから、やっと左足の靴底が地面から離れるが如く、歩きはのんびりと、そしておしゃべりに興じ、笑いに包まれ…。四年前にご紹介した冬から春にかけての冬のグルメ、ねぎ焼きの記事にも、たくさんの人々が幸せそうに集っていたものです。

コレコレ、しっかり両足を地面につけて歩く。足元には、バルセロナの町のシンボル、花模様?のタイル

昔は、なぜこんなにベンチがあるんだろうか、と疑問だったのだが、先見の明とでもいうのか、ソーシャルディスタンスを守るにはぴったりの配置がなされた都市デザイン

さて、現在、どんな様子でしょうか? 第三の年齢(Tercera edad = テルセラ・エダー)に属するサルバドールに早速訪ねてみました。
と、その前に、この「第三の年齢」と私が訳す言葉について、ちらりと調べてみました。
スペインで受けるニュアンスと、日本での定義が、若干違っていることに驚きながらも、まあ、これが文化の違いというものか、と、さらっと流すことにします。参考のため、以下に書き出しますね。

Tercera edad (スペイン語)= 高齢者(日本語)そして、年齢の定義が書いてありました。

日本では一般的に、0~19歳を未成年者、20~64歳を現役世代、65~74歳を前期高齢者、75歳以上を後期高齢者とされる。

『フリー百科事典 ウィキペディア日本語版』より
URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%AB%98%E9%BD%A2%E8%80%85

その一方、スペイン語のページには、このテルセラ・エダー(高齢者)の説明として、

前期高齢者(55歳から65歳)
高齢者(65歳以上)
後期高齢者(80歳以上)

『フリー百科事典 ウィキペディアスペイン語版』より
URL:https://es.wikipedia.org/wiki/Tercera_edad

という説明がされているのです。つまり、日本では64歳までが「現役」と言われているのに対し、スペインでは54歳までが現役という、10年の差が生じてくるのです。そして、80歳以上は厳密には「Cuarta edad=クワルタ・エダー、第四の年齢」となる、とのことのようです。

多分、日本での定義は、社会保険の種類であったり、受給する年金の年齢であったりする感じですが、スペインの高齢の定義と、年金受給年齢とは、必ずしも合致していないのが不思議な感じです。55歳になったからと言って、年金受給の権利は生まれず、やはりなんらかの仕事に携わり、年金受給を目指して働く人々がほとんどで、でも、年齢的には「高齢者」に分類されるのですね。

犬の散歩、スーパーへの買い物は、不要不急には含まれていないので、みながマスク着用で一休み。冬の太陽が嬉しい

それで、バルセロナにいるときには、日本に比べて「お年を召した方」が働いていなかったのでしょうか。現役世代が54歳まで、というと、55歳以降は前線からは引退する、ということになるのでしょうから。

日本なら、さしずめ紫外線防止で日傘をさす人々が多いが、ここバルセロナの人々は好んで太陽を浴びる

日本に旅行に来た友人たちからは、日本には定年制度とかは無いの? なんであんなにお年を召した方が働いているの? とよく聞かれたものです。日本では、75歳になっても現役でお仕事をしている方がとてもたくさんいて、それがスペイン人の目には不思議に映ったのです。バルセロナでは定年退職するときが年金受給で、それからは旅行に、趣味に、散歩に、スポーツに、となります。そして日本人から見たらびっくりするでしょうが、「年金受給者(退職者)」というのが「学生」「会社員」「自営業」などと並んで、その人たちの職業になるのです。日本の新聞記事などに「82歳、無職」と見かけることがありますが、スペインで「無職」というカテゴリーはあまり見ない気がするのですが。

緊急事態宣言中の運動不足と、体力低下を防ぐため、歩く歩く。万国共通の思いだ。唯一違うのは、全員マスク着用。長いバルセロナ生活では見なかった風景だ

スペインの「高齢者」は、精神的にもみんな若々しく、新型コロナの起こる前には、シーズンオフの観光地などは、旅行会社が「高齢者」向きの旅行を企画し、格安・リゾート滞在型の商品が人気だったようです。スペインのバケーションは基本2週間は取るので、高齢になっても、やはり最低でも8日間が主流。早く旅行に行きたくてうずうずしているのは、スペインも日本も同じですね。

そんな中、二月であってもサンサンと太陽が降り注ぐバルセロナ。写真に写る人々はまだまだ冬の様相ですが、このコラムが出る頃にはもっともっと春らしくなっていることでしょう。日本も太平洋側は太陽が降り注ぐのでしょうが、ここ北陸は雪、雷、曇り空の日々です。早く暖かくなって欲しいものです。

¡Hasta muy pronto! (アスタ・ムイ・プロント! =また近いうちに! の意味)

≪写真協力≫
Salvador Barrau氏