2016/12/06 業界コラム 杉田 美保子 スペインの知られざる文化 No.2 スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師 杉田 美保子 スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。...もっと見る スペイン・バルセロナ滞在27年を経て、2015年に帰国。 石川県金沢市でスペインの生活や、スペイン語の楽しさを細々と伝授中。「故郷」バルセロナとはリモートでの繋がりが中心となっている中、余暇に畑を耕したりしながら、日本の生活も楽しんでいる。 京都のバルセロナ文化センターのスタッフとしても、どのようにしてスペイン語の面白さをみなさんに伝えられるか、日々模索中。 スペインの教育文化スポーツ省認定のスペイン語能力試験 DELE の C1(上級)所持。 ノルベンとの出会いは、折り鶴がきっかけでした。2011 年に起こった東日本大震災被災地への協力のため、「折り鶴を教わったお礼に寄付をしよう」という風潮がスペイン各地で起こりました。折り鶴というのは、折り始めると、なかなかやめることができず、当時小さく切った折紙をポケットに常備していた筆者は、地下鉄の中でも折り鶴を折り、偶然隣り合わせになった子供たちなどにプレゼントしたもので、折り紙文化、特に折り鶴は、平和と祈りの象徴として急速に世界各国の街に浸透していきました。 折ろうか、切ろうか。紙の魅力クリスチャン・マリアンシウク作の折り鶴の羽に、ノルベンの切り紙が使われた鈴や風車でデコレーションされたノルベンの自転車。手書きの注意書きが楽しい通勤時ももちろん、折り鶴を折りながら、バスと徒歩で約 25 分。都会の真ん中ではなく、少し山手にあった会社への通勤途中で、ノルベンの自転車に出会ったのです。赤くて、前かごには色々なデコレーションが。大小様々な大きさの鈴が 6-7 個付き、「おチビさんたちが遊ぶための鈴なので、持って帰らないでね」という手書きのポップ付き。そこで「このカゴに折り鶴を入れちゃえ作戦」が始まったのです。一日にそれぞれ往復で合計二つの折り鶴を入れたのですが、自転車の脇を通るたびに、鶴はなくなっているので、持ち主の元には、相当の折り鶴が溜まっていったはずでした。「何だと思っているかな? いつ私の正体を伝えるかな? この自転車の持ち主はどんな人かな?」などなど、想像の日々が過ぎていきました。また、La Bici de Angel Guimera 36 という名でフェイスブックのページが開かれ、毎日自転車の写真や、その日にあったことなどが掲載され始めました。このノルベンの自転車は、地域のアナログフェイスブックとなるぐらい、色々なコメントが集まったり、子供たちがプレゼントをしたり、という人気者になっていったのです。 ハンドルのモールに登場した折り鶴ある日、自転車の飾りが変わっていました。何と、小さな鶴たちがカゴの縁やハンドルに登場していたのです。色とりどりの折紙でできた鶴。モールと共に自転車に取り付けられていました。何しろ年間 300 日は晴れ、というバルセロナ、紙でできていても雨に濡れることが少ないので安心です。濡れて壊れれば、まだまだたくさんの鶴がある、というくらいの日々がすぎましたが、それでもまだノルベン本人とは会っていなかったのです。 ノルベンに会ったのは、私たちにとって最悪の日でした。 何と、彼女の自転車、La Bici de Angel Guimera 36 が、燃やされていたからです。いつものように出勤の途中、鶴を片手に坂道を登ると、自転車の写真を撮っている人が見えました。自転車の前かごの飾りは灰と化し、鶴も黒焦げ状態。「え? 何事が発生したの?」とばかりに近づくと、「あ、もしかして、フェニックスの人?」「あ、もしかして、自転車の持ち主さん?」とお互いに目を見張ったのでした。これが、ノルベンとの出会い。最初の折り鶴の投げ入れから二ヶ月ほどたった、初夏の朝でした。 偶然にも、ノルベンも紙を扱うアーティストだ、と知ったのは、それから少したってからで、通勤の帰宅途中にお茶に誘われ、彼女のアトリエ兼自宅に行った時のことです。真っ白な紙が、カッターで綺麗に細工され、白い紙の作り出すレリーフに、黒い影が写り、まるで白黒の写真を見るかのような建物や、鳥の羽、お花などが壁に飾ってありました。 「最近、自転車の調子が良くないので、あまり遠出はしないのだけれど、毎日自転車を見るたびに、フェニックスが入っていて、『これ、何の意味があるんだろ? 誰が入れて行くんだろ?』とみんなに言っていたところなのよ」とニコニコと話すノルベンは、フランス人とメキシコ人のハーフ。ヨーロッパと中米の二つの文化を持つ彼女の話し方は、とても人懐こく、可愛く、それでいて自分を持った口調で、会う人、会う人を魅了する、チャーミングな人。 彼女には折り鶴の意味を説明し、それからはバルセロナで行われる復興イベントには必ず顔を出してくれるようになったのです。 Talent Lab の入り口。開店は平日午後 5 時半から 10 時まで 彼女と出会って、五年の月日が経ちました。 人生は決してコンスタントであってはいけない、と言わんばかりに、彼女が自転車を停める場所も変わり、筆者の通勤では彼女の自転車のそばを通らなくなり、二人の接点は少なくなってきました。彼女の自転車に折り鶴が入ることもなくなりました。それでも、年に二、三回は会うようにしていました。 そんな彼女の最近の活動は、バルセロナの旧市街、ゴシック地区に移っての、アトリエ兼ギャラリー展開です。地元アーティストたちとはもちろん、国外のアーティストたちとの交流、Disseny HUB Barcelona を始めとした様々なアートイベントへの参加、ワークショップの開催など、精力的に活動しているのです。彼女のアートは、切り紙が中心にもかかわらず、その切り紙を使い、折り紙を、それも折り鶴を作る、ということにも発展しています。そう、彼女の折り鶴への想いは、偶然、別のアーティストとのコラボへと発展して行くのです。彼女の切り紙で作った羽を使い、クリスチャン・マリアンシウクが華麗な折り鶴を製作する、ということになったのです。 筆者の作った折り鶴が非常に地味に見えるのですが、冒頭の綺麗な羽のついた鶴が、その作品です。 紙でできたランプシェードに、天井から下がる折り鶴バルセロナ中心にあるディープなゴシック地区。 新しいものと古いものがとても絶妙に混ざっているこの地区では、いろいろなアートを目にすることでしょう。そのひとつが、このノルベンの Talent Lab です。彼女自体、緻密な切り紙細工を作るアーティスト。イラストからオブジェ、ランプに至るまで、ギャラリーはいろんな「かわいい」「素敵」「緻密」なもので満載。ぜひ、お散歩がてら、足を運んでみてはいかがでしょうか? Nolvenn Le Goff切り紙の作品と、ノルベン。笑顔が素敵だノルベンについて。 Nolvenn Le Goff http://www.talentlab.es https://www.facebook.com/TalentLabBarcelona/?fref=ts クリスチャンについて。 Cristian Marianciuc https://www.instagram.com/icarus.mid.air/ ¡Nos vemos! (ノス・ベモス、「また会いましょう!」の意) この記事に関するお問い合わせはこちら 問い合わせする スペイン語通訳・翻訳 / スペイン語講師 杉田 美保子さんのその他の記事 2024/10/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.70 2024/09/10 業界コラム スペインの知られざる文化 No.69 2024/08/07 業界コラム スペインの知られざる文化 No.68 2024/07/09 業界コラム スペインの知られざる文化 No.67 2024/06/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.66 2024/05/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.18 2024/04/09 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.17 2024/03/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.16 2024/01/10 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.15 2023/12/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.14 2023/11/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.13 2023/10/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.65 2023/09/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.64 2023/07/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.12 2023/06/13 業界コラム スペインの知られざる文化 No.63 2023/05/09 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.11 2023/04/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.10 2023/03/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.9 2023/02/14 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.8 2023/01/11 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.7 2022/12/13 業界コラム スペインの知られざる文化 No.62 2022/11/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.61 2022/10/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.60 2022/09/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.59 2022/08/09 業界コラム スペインの知られざる文化 No.58 2022/07/12 業界コラム スペインには無い日本の魅力 No.6 2022/06/14 業界コラム スペインの知られざる文化 No. 57 2022/05/11 業界コラム スペインの知られざる文化 No.56 2022/04/12 業界コラム スペインの知られざる文化 No.55 2022/03/08 業界コラム スペインの知られざる文化 No.54 足立 正二安藤 真安藤 繁青木 徹藤嶋 正彦古川 怜後藤 一宏濱﨑 利彦早川 美由紀堀田 智哉生田 幸士大西 公平䕃山 晶久神吉 博金子 成彦川﨑 和寛北原 美麗小林 正生久保田 信熊谷 卓牧 昌次郎万代 栄一郎増本 健松下 修己松浦 謙一郎光藤 昭男水野 勉森本 吉春長井 昭二中村 昌允西田 麻美西村 昌浩小畑 きいち小川 貴弘岡田 圭一岡本 浩和大西 徹弥大佐古 伊知郎斉藤 好晴坂井 孝博櫻井 栄男島本 治白井 泰史園井 健二宋 欣光Steven D. Glaser杉田 美保子田畑 和文タック 川本竹内 三保子瀧本 孝治田中 正人内海 政春上島 敬人山田 明山田 一米山 猛吉田 健司結城 宏信 2024年10月2024年9月2024年8月2024年7月2024年6月2024年5月2024年4月2024年3月2024年2月2024年1月2023年12月2023年11月2023年10月2023年9月2023年8月2023年7月2023年6月2023年5月2023年4月2023年3月2023年2月2023年1月2022年12月2022年11月2022年10月2022年9月2022年8月2022年7月2022年6月2022年5月2022年4月2022年3月2022年2月2022年1月2021年12月2021年11月2021年10月2021年9月2021年8月2021年7月2021年6月2021年5月2021年4月2021年3月2021年2月2021年1月2020年12月2020年11月2020年10月2020年9月2020年8月2020年7月2020年6月2020年5月2020年4月2020年3月2020年2月2020年1月2019年12月2019年11月2019年10月2019年9月2019年8月2019年7月2019年6月2019年5月2019年4月2019年3月2019年2月2019年1月2018年12月2018年11月2018年10月2018年9月2018年8月2018年7月2018年6月2018年5月2018年4月2018年3月2018年2月2018年1月2017年12月2017年11月2017年10月2017年9月2017年8月2017年7月2017年6月2017年5月2017年4月2017年3月2017年2月2017年1月2016年12月2016年11月2016年10月2016年9月2016年8月2016年7月2016年6月2016年5月2016年4月2016年3月2016年2月2016年1月2015年12月2015年11月2015年10月2015年9月2015年8月2015年7月2015年6月2015年5月2015年4月2015年3月2015年2月2015年1月2014年12月2014年11月2014年10月2014年9月2014年8月2014年7月2014年6月2014年5月2014年4月2014年3月2014年2月2014年1月2013年12月2013年11月2013年10月2013年9月2013年8月2013年7月2013年6月2013年5月2013年4月2013年3月2013年2月2013年1月2012年12月2012年11月2012年10月2012年9月2012年8月2012年7月2012年6月2012年5月2012年4月2012年3月2012年2月2012年1月2011年12月2011年11月2011年10月2011年9月2011年8月2011年7月2011年6月2011年5月2011年4月2011年3月2011年2月2011年1月2010年12月2010年11月2010年10月2010年9月2010年8月2010年7月2010年6月2010年5月2010年4月2010年3月2010年2月2010年1月2009年12月